「トモダチ作戦」に参加して被曝した米兵たちが、東電や日本政府の責任を追求する訴訟を米国の裁判所でおこしたと、次のように報じられている。
■米空母乗組員8人、東電提訴=誤情報で被ばく、120億円請求
時事通信:2012.12.27 (その他の報道記事)
米メディアなどによると、東日本大震災を受けて被災地沖合に派遣された米原子力空母ロナルド・レーガンの乗組員8人が27日までに、東京電力が福島第1原発事故について誤った情報を伝え、危険なレベルまで被ばくさせたとして、同社を相手に損害賠償など計1億4000万ドル(約120億円)の支払いを求める訴えを、米サンディエゴの連邦地裁に起こした。
「トモダチ作戦」として救援活動に当たった乗組員側は「米海軍が東電による健康と安全に関する偽りの情報を信頼し、安全だと誤解させられた」と主張。「東電だけが入手できた当時のデータによると、原告が活動していた地域における放射線被ばく量は、チェルノブイリ原発から同距離に住み、がんを発症した人々の被ばく量にすでに達していたことになる」と指摘した。
また日本政府についても、「ロナルド・レーガンや乗組員への放射能汚染の危険はないと主張し続けていた」とし、意図的なミスリードだったと非難した。
肺がんになったらタバコメーカーを訴える(そしてその主張が通る)国だから当然。すべての情報を公開し、最悪の状況や可能性をも、ちゃんと本人が想定・検討できるようにして、その上で「それでもいいならどうぞ」と言わない限り、自己責任などという言葉は通用しない。
そしてその自己責任で危険な場所に、自分の快楽ではなく、他人を助けるために飛び込んでいく人に対しては、それを賞賛して皆で助けこそすれ、決して「三バカ」などと揶揄したりしない。揶揄する人こそが軽蔑される。考えてみれば、それは当然のこと。
さらに今回は、具体的な健康被害が出てからではなく、「安全と言われて福島に立ち入ったら被曝した」ということだけで提訴しているのが注目される。具体的な被害が出るのは何年も先(あるいは何十年もしくは本人の子孫の時代)のことになるかもしれないし、その被害が被曝と関係あることを医学的に完全に証明するのは難しい。そうなると巨悪は逃げてしまうのだから。
この報道をうけて、東電の株価は急落しているという。なぜなら「トモダチ作戦」に動員された米軍は2万4500人にのぼり、投資家たちが今後同様の訴訟が続発することを懸念しているからだ。
東電は今まで原発のリスクや危険性について、情報公開という人権問題ではなく、しょせんはPRや世論対策などの「日本企業の感覚」でしか考えずに、「とにかく安全」としか言わなかった。そういう人権後進国のツケを支払わされた形だ。要するに、国民みんながここまでしないと、これから先も徹底的な情報公開はおこなわれないだろうということだ。
だが実際問題、米兵と同じ場所にいた福島の市民が同じような訴えをしたとしても、政府や国策企業と結託した日本の裁判所なら、確実に市民側の訴えなど却下してしまうだろう。この米兵ははまだ勝訴の可能性があるだけ幸せというものだ。こんな風土だからいつまでも情報公開が進まず、もんじゅや福島事故のようなことがおきてはじめて実態を知ることになるのだ。
よく「ウソつき東電」などと言うが、要するにそれは、世界中で当然のこととされている企業と国の、消費者(=国民)に対する情報公開の問題なのだという視点を、誠に恥ずかしながら、このニュースを見るまで持っていなかった。だがそう考えるとわかりやすい。また一つ、悪い意味での「日本の常識は世界の非常識」を見せられた思いだ。
アメリカは「訴訟大国」などと言われるし、この米兵らがどういう人たちなのかもわからない。すごく勘ぐった悪意の目で見れば、和解狙いの大金目当てで、弁護士にそそのかされたなんてストーリーも考えつく。だが、やはりこういう風土や権利意識の中でこそ(多少の行き過ぎがあろうと)企業の情報公開モラルが鍛え上げられてきたということができるだろう。
すでに日本の自動車業界はその洗礼を受けてきたし、遅れて今は韓国の自動車業界がその洗礼に苦しんでいる真っ最中のようだ。今まで守られてきた電力や発電事業とて、いつまでもその例外ではありえない。だから私たちはこの訴訟を揶揄していたのではいけいないと思う。
東日本大震災の被災地支援に陸海空で緊急展開した米軍。最大時約2万4000人を動員した大規模作戦「トモダチ」は、窮地の同盟国・日本を救うための活動だったが、一皮めくれば、軍事的に台頭する中国をにらんだ米国のアジア太平洋戦略が色濃く浮かぶ。米政府・米軍は作戦を通じ、どんな目的から何を実施し、教訓を残したのかを検証した。(肩書は当時、日本時間)
「全可動艦艇出港」。海上自衛隊自衛艦隊(司令部・神奈川県横須賀市)の倉本憲一司令官が「戦時」を思わせる緊急命令を全国部隊に発令したのは東日本大震災発生から6分後の3月11日午後2時52分のことだ。海自の歴史上初めて出された命令だった。横須賀基地にいた護衛艦は緊急船舶の指定を受けて、通常の倍以上で、最高速度にあたる最大戦速に近い時速27ノット(約50キロ)で東京湾を抜けた。
同司令部と隣り合わせの米軍横須賀基地。在日米海軍司令部があり、日本防衛と米軍世界戦略の拠点だが、08年から同基地を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンは定期整備中で、稼働できる状態ではなかった。代わって米国防総省が投入したのが、韓国軍との合同演習に向かうため西太平洋を航行中だった原子力空母ロナルド・レーガンを中心にした空母打撃群。大震災発生から4時間余経過した午後7時に首相官邸に「ロナルド・レーガンを宮城県沖に派遣する」との連絡が伝わり、13日朝に三陸沖に到着した。直ちに、米部隊司令官のギリア少将が、海自の護衛艦きりしまに乗り込み、指揮を執る第1護衛隊群司令の糟井裕之将補と会談。日米互いの艦艇に1佐(米軍では大佐)クラスを連絡官として送り込むことを決めた。
米軍の被災地支援「トモダチ作戦」は、米海軍と海自が主導して始まった。米海軍と海自には戦後構築してきた「太いパイプ」がある。米海軍にとって日本は東アジアだけではなく、中東やアフリカまで含めた安全保障の要衝であり、双方は半世紀以上、環太平洋合同演習(リムパック)などで訓練を重ねてきていた。米空母と海自の両指揮官は毎晩、「テレビ会議(VTC)」を開いて活動内容を話し合った。ロナルド・レーガンが合同演習用に積んでいた生活物資類などはすべて被災地支援に使われた。
防衛省幹部は米海軍の迅速な対応について「アジア太平洋の米軍戦力の要は海軍。日本という拠点を失うわけにはいかないという危機感の表れ」との見方を示す。
「事態にどう対処すればいいのか」。3月12日、在日米軍司令部がある米軍横田基地(東京都福生市など)では、フィールド司令官(空軍中将)ら幹部が対応を協議していた。防衛省・自衛隊との連絡でいくつもの項目が支援リストに挙がった。13日には通常は横田基地の要人輸送に使うUH1Nヘリコプターで捜索・救援要員を仙台市の陸上自衛隊霞目駐屯地に輸送した。
そして米軍は自衛隊の度肝を抜く作戦にとりかかった。特殊部隊潜入などに使われる米空軍嘉手納基地(沖縄県)特殊作戦航空群の輸送機MC130Hが仙台空港に着陸したのは16日。滑走路にがれきが散乱していたが、偵察を兼ねた捜索飛行などの調査結果をもとに「仙台空港を拠点とする」との方針が決まり、最低限のがれき除去で強行着陸し、復旧作戦に着手した。仙台空港の管制塔は1階のレーダー室に土砂が流入し、使用不能になった。米軍の特殊作戦部隊は独自のレーダーで飛行経路と地形を掌握していたという。空自幹部は「トモダチ作戦の中で最も衝撃的な作戦だった」と驚きを隠さない。
国防総省を巻き込んだ米軍と自衛隊の連携はスムーズに走り出したが、大震災翌日の3月12日午後に起きた東京電力福島第1原発1号機の水素爆発で、日米両政府は情報不足と連携の欠如で互いに疑心暗鬼を深めていく。「正確な情報を教えてもらいたい」。大震災発生から2日後の13日昼前、ルース駐日米大使が枝野幸男官房長官に電話で直談判した。枝野長官は「自衛隊と米軍の間で、連携はちゃんと取れている」と説明した。
首相官邸は早くから米軍との連携を模索。11日夜には外部電源を失った福島第1原発の原子炉冷却に必要となった電源車(約8トン)を米軍の大型ヘリコプターで輸送できないか米側に打診したが「重すぎて困難」との返答を受けていた。その後始まった「トモダチ作戦」は順調に稼働しているはずだった。
だが、複数の日本政府関係者によると、ルース大使の懸念は、爆発事故を起こした原発の現状がさっぱりわからないところにあった。14日深夜、大使は再び枝野長官に電話で「わが国の原子力専門家を首相官邸に常駐させたい。意思決定の近くに置きたい」と申し出た。同盟関係とはいえ、機密情報があふれ、厳しい政策判断を次々と迫られる官邸中枢部に入り込まれることに抵抗感を覚えた枝野氏は「難しい」といったんは断った。
日本側は、菅直人首相が15日、東電本店に政府との「統合本部」を置き、海江田万里経済産業相と細野豪志首相補佐官を常駐させるまで、原発事故に関する十分な情報を得られていなかった。米国は日本の情報提供を待たず、グアム基地の最新鋭無人航空機グローバルホークや、米ネブラスカ州に駐機中の放射性物質を観測できる大気収集機WC135コンスタントフェニックスを出動させ、独自の情報収集と分析を進めていた。
ルース大使が「米専門家の官邸常駐」を要請した翌日の15日、来日中の米原子力規制委員会(NRC)とエネルギー省の担当者が、班目(まだらめ)春樹原子力安全委員長、原子力安全・保安院の担当者らと面会した。「炉心は損傷しているが、メルトダウン(溶融)は起きていない」という班目氏らの説明を米側は黙って聞いていたが、日本側の出席者の一人は「米側はここで日本側との認識のズレを感じたのではないか」と振り返る。
米側はすでにメルトダウンの発生を推定しており、「日本側が情報を隠しているのではないかとの疑念があった」(日本政府関係者)という。一方、躍起になって情報を探る米側の対応に日本政府内では「エシュロン(米軍を中心に運用されているとされる世界通信傍受システム)を使っているのではないか」との声も漏れた。
菅首相や枝野長官は協議の末、NRCの担当者らが官邸内の危機管理センター横の原子力安全・保安院や東電担当者が詰める「連絡室」に16日から常駐することを認めた。しかし、大使の懸念は消えず、北沢俊美防衛相とのパイプを頼って情報不足の解消を求めた。北沢氏はNRCの担当者を防衛省に呼び、経産省や東電の担当者らとの情報交換の場を設置。会議は計4回に及んだ。
一方、防衛政務官を経験し、太い対米人脈を持つ長島昭久民主党衆院議員は18日午後、福山哲郎官房副長官、細野補佐官とともにルース大使と東京都内のホテルで会談した。
長島議員「世界が注目している。日米協力で乗り切るしかない。情報共有の場を作りましょう」
ルース大使「それはいい。複合的な災害の初期段階だから各省庁とも大変でしょう。お手伝いしたい」
大震災発生から11日後の22日、官邸横にある内閣府ビルの一室で日米政策調整会議の初会合が開かれた。統括役の福山副長官は「この協議で出なかった話が、他の場で出ることはあり得ない」と表明した。
日本側からは福山副長官のほか、官邸の細野補佐官と伊藤哲朗内閣危機管理監、防衛省、外務省、経産省、原子力安全・保安院、資源エネルギー庁、文部科学省、厚生労働省などの局長クラス、東電の武藤栄副社長らが参加。米側はズムワルト駐日公使、在日米軍副司令官、NRCやエネルギー省担当者が参加した。
同会議は以後、連日午後8時から開かれ、原発への注水や、ロボットや真水を運ぶバージ(はしけ)船投入などが議論され、原発事故収束に向けた日米協力の一元的・基幹的会議となった。
長島議員は言う。「(同会議設置で)深刻な不信感が払拭(ふっしょく)された。喉元過ぎれば熱さ忘れるではなく、日米協力の常設の調整機関の設置が重要だ」
米軍は原発の異常事態が始まった3月11日夜には米エネルギー省の専門家が米ネバダ州ラスベガスを放射線量測定器を携えて出発し、横田基地へと向かった。測定器は上空から地上の放射線量を測定することができる。しかし、在日米軍には放射線被ばくを想定したリスク管理の厳格なガイドラインは存在しなかった。フィールド司令官は放射性物質が人間や自然にどんな影響を与えるかについてほとんど知識がなかったことを悔いた。
「ここには輸送機もヘリもある。おそらく放射性物質がある未踏の場所へと飛んでもらうことになる。だれがやる?」。専門家らが基地到着後、フィールド司令官は基地のパイロットらにこう聞いた。あくまで志願制をとるしかなかったが、全員が「やります」と返事した。上空からの測定作業は14日に始まった。
米軍は生活支援に心遣いをみせた。
<ここには何人いますか?>
<必要なものはどんなものですか?>
米軍は孤立した地域にヘリで降り立って、事前に準備していた、日本語で書かれた質問票を見せる。回答を持ち帰り、大急ぎで英訳して、その地域で必要な物資を配る。ニーズを的確に把握し、その変化に即応できる態勢が整っていた。現場の指揮官に多くの日本勤務経験者を派遣、「日本のルール」に従う姿勢を通した。3日目以降は支援物資の搬送も頻繁になった。通常、米軍はヘリで上空から物資を投下し帰還する。04年のスマトラ沖地震・津波の災害現場でもそうだった。しかし、今回は時間をかけて着陸し物資を手渡した。緊急食として出した「戦闘糧食(レーション)」の食べ方が分からないという被災者の声を聞いて、急きょ日本語の説明書を作成した。
フィールド司令官はこのころ、制服組トップのマレン統合参謀本部議長(海軍大将)からの電話を受けた。
マレン議長「これからウォルシュ太平洋艦隊司令官とチームをそちらに送る」
フィールド司令官「私はクビということですか?」
議長「違う。できうるすべてを提供するということだ」
海軍大将のウォルシュ司令官はフィールド司令官より格上で、米政府の総力を挙げた支援の意思を示すことになる。ウォルシュ司令官は3月下旬から約3週間にわたり、トモダチ作戦の指揮をとる。
迅速で入念な米軍の対応に自衛隊側がけおされる場面もあった。
「なんだか占領軍みたいで、どうも気になるのだが」。震災後しばらくしたあと、制服最高幹部の集まる防衛省内の非公式の会合で、そんな意見が表明された。ウォルシュ司令官派遣に伴い、米太平洋軍がJTF(Joint Task Forces)の司令部を米ハワイから東京・横田基地に移すとされたことに対する懸念だった。
太平洋地域で起きる有事・大規模災害に対処するための統合任務部隊の常設司令部だが、一部将官の目には「支援はしてくれるが米国流を押し通そうとする強圧的な組織」に映った。米軍は司令部移転の際は名称を変え、JSF(Joint Support Forces=統合支援部隊)として設置。日本に対する配慮を見せた形だった。
作戦面でも一部に戸惑いがあった。強襲揚陸艦エセックスは多数の沖縄の海兵隊員を乗せて訓練のためにいたマレーシア沖から急きょ北上。18日には秋田沖に到着したものの、物資輸送などが主で、海兵隊の機能を発揮した27日からの宮城県気仙沼市・大島での復旧活動まで約1週間かかった。防衛省幹部は「まさか精鋭の海兵隊の部隊にゴミ拾いをさせるわけにもいかず、どこに行ってもらっていいか迷いがあった」と振り返る。
日米共同復興作業の象徴と位置づけた「ソウル・トレイン(魂の列車)」作戦では、在日米軍にJR仙石線の野蒜(のびる)駅など、2駅の復旧を依頼した。そこはすでに、自衛隊が遺体の捜索を終えていた。もし、米軍が遺体を見つけ、被災地とトラブルが起きれば「米国が支援しようとしているのに、逆効果になる」(陸自幹部)との配慮があったからだ。
さらに米軍との調整に関わった自衛隊幹部は「普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題もある中、沖縄の海兵隊に活躍の場を与えてほしいという米軍の意思を強く感じた」と明かす。
日本の防衛の重点が「東方集中」する中、その空白を埋めるように米軍が静かに動き出した。
「なんでこんなところに米軍がいるんだ」。3月17日、統合幕僚監部内がざわついた。マレーシア沖での訓練を切り上げて被災地支援へと向かう米強襲揚陸艦エセックスが、被災地に近い太平洋ではなく、日本海を航行していたためだ。
呼応するかのようにロシア軍の動きが活発化。17日にはIL20電子情報収集機が日本領空に接近し、航空自衛隊が戦闘機を緊急発進(スクランブル)させた。
続いて、米軍横須賀基地で定期整備中だった原子力空母ジョージ・ワシントンが21日、急きょ乗員や民間の整備員らを乗せ出港した。その後、伊豆大島、土佐湾沖で洋上整備を続け東シナ海にまで足を伸ばした。
防衛省幹部によると、この頃、中国空軍が偵察機を頻繁にジョージ・ワシントンに向け飛ばしたことが自衛隊の警戒・監視活動で把握された。同幹部は「中国軍の偵察対象になっていたのは間違いない」という。また、中国は日本にも行動をとった。26日に東シナ海で警戒監視中の海自護衛艦いそゆきに中国国家海洋局ヘリZ9が約90メートルまで接近。4月1日には中国のプロペラ機Y12が同様に異常接近する行為もあった。
3月21日には領空約60キロまで接近した集塵(しゅうじん)装置をつけたロシア軍のスホイ27戦闘機とAn12電子戦機に空自がスクランブルをかけ、29日にも情報収集機が接近。戦闘機は福島第1原発事故に伴う放射性物質の飛散状況調査が目的とみられるが、同幹部は、米軍の動向に神経をとがらせていた表れとみている。
ジョージ・ワシントンは東シナ海を経由し、4月に2回、長崎県・米軍佐世保基地に物資補給などのために寄港。米海軍によると、原発事故の状況が発生当時より改善されたとして同20日に横須賀基地に帰港した。
当初、ジョージ・ワシントンが横須賀基地を離れたのは、原発事故による放射性物質の被害を避けるため、と見られていた。しかし、防衛省幹部は「米軍は空母を前進配備させた。日本から要請したわけではないが、日本に手を出したら許さない、という意思表示だった」と解説する。
「お客さんが来ないとおもしろくないよね」。トモダチ作戦終了後、米国防総省幹部は防衛省幹部に冗談めかして伝えたという。中露側の動きを想定し、関与を強める狙いがあったとみられる。
一方、被災地支援では、中国政府による「軍事支援」の申し出が、幻に終わった事例もあった。
大震災から5日後の3月16日、中国国防省が病院船派遣の用意があることを伝えたが、日本政府は27日、「港が津波で被害を受け、船を接岸できない」と、謝意を伝えたうえで辞退。だが、米海軍幹部は「中国軍の病院船が入ればトモダチ作戦のオペレーションに加わることになり、作戦会議を通じ情報を一部共有しなければならなくなる」と指摘。米軍の意向が働いた可能性を示唆した。
米中両国が東日本大震災の舞台裏で繰り広げた激しい「神経戦」の背景には、中国の軍備拡大と海洋進出への野心から、劇的に変化するアジア・太平洋地域の安全保障の構図がある。
中国は近年、米空母を近海に寄せ付けない「接近阻止」戦略を進め、地上から空母を攻撃する世界初の車載型対艦弾道ミサイルDF21D(通称・空母キラー)を開発。日本やフィリピン諸島を射程(約2000キロ)に収めたとされる。米国防総省によると、その攻撃能力を米領グアム付近にまで拡大させつつある。
これに対して米国は昨年2月、米議会に提出した「4年ごとの国防政策見直し(QDR)」で、新構想「ジョイント・エア・シー・バトル(米空海統合戦略)」を公表。米海軍が開発中の世界初のステルス式空母艦載型無人爆撃機で対抗する戦略だ。戦闘行動半径は2780キロと長く、空母キラーの射程外から攻撃できる。
米海軍関係者は「横須賀基地を(事実上の)母港とするジョージ・ワシントンに艦載することになるかもしれない。この爆撃機は日本や在日米軍基地を最前線で死守する防波堤になりうる」と話した。
ただし、防衛省では大震災後の中国軍の動向を分析した結果、「日本の混乱に付け入るような不穏な動きはなかった」と結論付けたという。一方、トモダチ作戦終了後、中国関係者が防衛省幹部に伝えた。「自衛隊10万人と米軍2万人が短時間であれだけ調和した作戦を実行したのは驚きだ」
米国のアジア太平洋での抑止力強化をベースとする対中戦略は、東日本大震災での被災地支援でも如実に透けて見えた。大震災後、被災地に世界23カ国・地域から救助隊などが駆けつけたが「軍事作戦」を組んだのは、日本の自衛隊のほかには米国と同盟関係にあるオーストラリアと韓国だけだった。
豪州東部クイーンズランドを拠点とする捜索・救援タスクフォースが捜索犬を伴い大型輸送機C17で東京・米軍横田基地に着陸したのは大震災3日後の3月14日早朝。国際的な災害救援で急派される精鋭チームだ。すぐさま、米軍との調整で豪州主導の別の作戦「パシフィック・アシスト(太平洋支援)」が動き出す。到着したC17を被災地支援の輸送業務に任務変更して活用する作戦だった。
C17は大型貨物を搭載できる一方、短い滑走路でも発着できる即応性・機動性に優れた輸送機。横田基地から沖縄の米軍嘉手納基地へと向かい、陸上自衛隊第15旅団の要員とトラックを乗せ、被災地へと運んだ。
豪国防省は4機のC17のうち、さらに2機投入を決定。スミス国防相が21日、北沢防衛相に電話で伝えた。同夜と翌22日朝に相次いで豪州から飛び立ったC17は、米国の要請に基づき福島第1原発事故対応で使用する遠隔操作高圧放水砲システムを積んでいた。
豪政府関係者は「日米豪の普段の連携があって初めてできたことだ」と振り返る。日本政府高官は「豪州からは同盟国の米国と、豪州が加盟する英連邦を通じたNATO(北大西洋条約機構)の情報が入ってくる。豪州との連携は有益だ」と語り、日米豪の連携の重要性を強調した。
韓国の対応も早かった。「史上例のない大災害を経験している日本への支援に最善を尽くす」。震災当日の11日夕、韓国の李明博(イミョンバク)大統領は関係閣僚を緊急招集して指示した。12日に先遣隊を派遣し、14日からは空軍輸送機C130で救助隊や自衛隊の使う装備などを搬送。災害派遣では「過去最大規模」(韓国政府)となった。
被災地支援で構築された日米韓豪の「同盟連合」の伏線は、大震災の5カ月前にさかのぼる。
「エア・シー・バトル構想の成功のカギを握るのは、情報共有だ」。昨年10月、米軍の呼びかけで韓国で開催されたアジア太平洋の同盟国・友好国軍幹部の非公式会合で、同地域の米軍トップ、ウィラード太平洋軍司令官が表明した。日韓豪やシンガポール、フィリピンなどが参加。各国の軍幹部らが中国海軍力の拡大に懸念を示した。
米国は、空軍の最新鋭無人偵察機グローバルホークを同盟国に売却する交渉を進めている。30時間以上の連続飛行ができ、約560キロ先まで見通し、ほぼリアルタイムで地上に情報を送ることができる。「地域全体を広範囲に監視下に置き、情報共有するネットワーク構築につながる」と米軍関係者は狙いを語る。
韓国政府は「北朝鮮の警戒に役立つ」として4機を購入する計画。豪政府も「インドネシアからの不法移民や中国艦船の監視」を念頭に15年ごろをめどに5機前後を導入する方針だ。米軍は大震災の翌12日からグローバルホークをグアムの空軍基地から福島原発上空に急派した。5月11日までの2カ月間、撮影した4400枚以上の写真を日本に無償で提供した。
トモダチ作戦終了から半年を経た11月。オバマ米大統領は豪州北部のダーウィン空軍基地を訪れ、最大2500人規模の米海兵隊を来年から順次駐留させると発表。中国をにらんだ同盟強化の布石を着々と打つ。
トモダチ作戦で日米の「軍と自衛隊」の一体化は進んだ。しかし、米国では景気悪化で国防総省予算が今後10年で最低でも5~10%削減される見通しだ。同盟国に軍事的責任と負担を分散し、「より低コストで、より大きな効果」(クローニン新米国安全保障センター上級顧問)を生み出す狙いもある。
だが、グローバルホークの売り込みに防衛省は「現在保有する偵察機で必要な役目は果たせる。日本も財政的な余裕がない」(幹部)と消極的で、米軍関係者からは「具体的な交渉の進展はない」との不満も漏れる。
米国を軸とする「同盟強化」路線は、一皮めくれば、日本の防衛戦略の拡大と防衛力整備を一層迫るものでもある。窮地の日本を手助けしたトモダチ作戦や日米韓豪の軍事的連携が、日本に突きつけた課題は重い。
被災地支援と原発事故対応での日米作戦の裏側で、防衛省・自衛隊ではもう一つの「作戦」を遂行した。
東日本大震災発生直後、東京・市ケ谷の防衛省の情報本部は緊迫した。電波や電子情報、衛星画像情報などの分析を通じ、国際的な軍事情勢や外国軍隊の動態を把握する機密情報の「総本山」だ。
「本来任務を怠らず、万全を期すように」。本部内では幹部から冷静な指示が飛んだ。史上空前の災害だけに自衛隊派遣が大規模になるのはすぐに分かった。防衛省幹部が警戒したのは、大規模災害派遣と原発事故対処で国の守りに穴があく「防衛空白」だけは避けなければならない、ということだった。情報本部が収集・集約した機密情報は、司令部となった中央指揮所(CCP)にも送られ、自衛隊の運用に反映された。情報本部が提出する資料には、海上人命安全条約(SOLAS条約)に基づく船舶自動識別装置(AIS)による日本近海での中国民間船の動きや、電波情報などでとらえた中国海軍艦船の動きも含まれていた。
「防衛空白」を警戒したのは、CCPに陣取る折木良一統合幕僚長も同じで、細心の注意を払った。官邸からは大震災発生直後から「大規模派遣」を促す指示が北沢俊美防衛相を通じて矢継ぎ早に出された。
救援や復旧作業の要となる陸上自衛隊は地域ごとに全国に5方面隊あり、大規模部隊の師団9、機動的な旅団6で構成される。折木統幕長は幕僚会議の結果、九州や沖縄を防衛する西部方面隊の第15旅団(司令部・那覇市)と第8師団(同・熊本市)、関西地方を担当する中部方面隊の第3師団(同・兵庫県伊丹市)と、北海道防衛にあたる北部方面隊の第7師団(同・北海道千歳市)を極力、動かさないことを早々と決めた。九州や沖縄の海域を警戒する海上自衛隊佐世保基地(長崎県佐世保市)の艦なども動かせないと考えた。
背景にあるのは中国軍やロシア軍の存在だ。こうしてはじき出された派遣可能な自衛隊規模は、陸自に海自と航空自衛隊を含めて「12万~13万人」だった。折木統幕長は北沢防衛相に「13万人までは大丈夫です」と伝えた。陸海空3自衛隊の実員は約23万人で、半数以上が災害派遣に割かれる事態になる。政治的な判断は実員半分以下の「10万人」に落ち着いた。
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はじめまして。
つい1ヶ月くらい前にこのサイトの事を知りました。以来頻繁に立ち寄らせていただいております。
最近の排外主義的・差別的・偏狭な愛国主義、郷土愛なき抽象論的愛国主義に辟易しながら、反論する論拠がおぼつかずモヤモヤしていた私にとって、このサイトは砂漠のオアシスのように感じております。
このサイトを開くたびに勉強させていただいている私ですが、今や上記のような感情に染まりつつある私の周りの「素朴で善良な」友人達とより深く語り合うには、草加さんの論法を私なりに咀嚼する必要を感じています。
これからも勉強させて下さい。今後ともどうかよろしくお願いします。
おほめいただきありがとうございますm(__)m
基本的にこのサイト(特にブログ部分)については、私の個人的な思いを、わがまま放題に書いているだけで、リアルでお知り合いでもない方に対して「影響」を与えようなどという思いは、最初からさらさらありませんでした。ですから罵倒とかを受けるのは想定の範囲内でありまして、文字通りの馬耳東風、痛くも痒くもないのですが、こうしておほめいただけることは当初の想定外のことで、ましてや他人様から「勉強」とか「参考に」みたいなことを言われてしまうと、本当におたおたして、大変なことになったと思ってしまいます(笑)。
とにかく、別に後で恥をかいてもいいやという気持ちで、好き放題に書いておりますし、せっかくのネットでそういう自由な気持ちをなくし、評論家や政治家でもないくせに、へんに慎重というか萎縮してしまっては、それこそネトウヨさんら荒らしたちの思う壺だと思っています。まさに彼らはそういうこと(言論弾圧)を担っているのですから。ただ、私の道連れで一緒に恥をかく人がいるかもしれんと思うと、そっち方向では萎縮して慎重になっていますね(笑)。まあ、ネットに書いてあることなんて(特に個人のブログやサイトに書いてあることなんぞ)すべて疑ってかかる、まずは嘘や誇張があると決め付けてかかってちょうどいいのが現状だと思いますよ。悲しいけど。
さて、「最近の排外主義的・差別的・偏狭な愛国主義、郷土愛なき抽象論的愛国主義」というのはよくわかりますねえ。「素朴で善良な」人というのは、ちょっと前ならごく普通に左翼的なことを言っていたんですよ。それが今は右翼的なことを言う人が多いわけで、そういうのは時代の精神ですよね。私はちょうどその端境期に青春時代をすごしたわけで、左側に行って取り残されてしまいましたが、そういう移り変わりをみてきただけに、昔の左も今の右も、人間的に普遍的な内容を持ち得ていない、その偏狭な点では単なる裏返しの存在にすぎないと思います。だから今の「ウヨクバブル」に対しても、特になんの焦りもないというか(破滅的なことにならないように抵抗しなくてはという意味での焦りはありますが)、たまたまこういう時代に生まれただけと思っています。
また、かつては善良な人ばかりでなく、自分の権利ばかり主張するわがままな人とか、先生や親など自分に意見にする奴が気に食わない人とか、みんな左がかったことを言ってました。それが今はそういう人たちこそが右翼的なことを言う。「在特会」とか、頭の中で観念的な「日教組」と「闘って」いる人をみればそれがわかるでしょう。素朴で善良な右派市民に対しては、私は何らの悪い感情をもっていませんが、こういう輩ばかりが悪目立ちしていることが、今のウヨクバブルが、昔のサヨクの悪い部分の裏返しであることを雄弁に物語っていると思います。最近でも「はだしのゲン」の作者の中沢啓治さんの死に際し、死者に唾を吐きかけるような言質を多く目にしたことで、その思いを強くしました。
郷土愛という意味で言えば、私は「日本」のどこが嫌いなんだと問われて、特に嫌いなところってないんですよね。自分の生まれ育ったところって、むしろ大好きなんですよ。それに対して、ネトウヨさんたちの言う「反日」という独自用語は、戦前の「非国民」というファシズム用語を言い換えただけのものです。つまりイデオロギーの産物なんです。そこにおける「日」っていったいなんなんだということですよ。また、共産党は古くから自分たちを「真の愛国者の党」と言ってますが、最近になって穏健保守や社民主義的な方のおっしゃる「本当に日本を愛するならば」という言い方にも抵抗がある。結局「日本」ってなんなんだと言えば、究極的にはただの言葉であって、要するに記号なんですよ。その記号でいったい何を象徴しているのか、結局それは、あなたの頭の中に存在している「日本」なのであって、その主観をまずみせてもらって、さらにそれを客観的に解剖してみないと、無前提に「日本を愛するなら…」なんて言っても、なんの議論にもならないと思います。
私は別に自分を左翼だと位置づけているわけではありません。単に「自分は右翼じゃない」と強弁するネトウヨさんたちが凄くみっともないので、その同類に自分を落とすのが嫌なだけ。私の行動原理は「目の前で溺れている人がいるなら助けるのが当たり前」ということだけであり、すると結果としてそれが左翼的になるというだけのことです。左翼というのは結果であって目的ではありません。これを取り違えないようにといつも自分を戒めています。また、あまりに多くの課題がある現代社会の中でも、「日本人」として優先的に問題にするべきことは、日本社会、日本政府、アメリカの問題だと思います。そこには社会の中の差別、基地問題、それによって脅威にさらされる国内外の人々の問題などがあるわけです。
また長くなりました。こんなことをしているから、「このサイトに書き込むのはなんだか怖い」とか言われて、ますます書き込みがなくなってしまうのですね。どうかこれに懲りず、またなにか意見や疑問がありましたらよろしくお願いします。
(追記)
政治的な「意見」については、最初にパッと読んでビビッとくる人は格別、せめて「よくわかならい」というくらいの人でなくては、「説得」とかなかなかされないもので、いきなり反感を感じる人が、その意見を変えるってあんまりないことが多い。
先の都知事選候補だった宇都宮健児さんは、「たとえどんなに考えの違う人とでも、その懐に飛び込んで話し合えば、必ず一致できることはあるものです。その一致できるところから行動をはじめようではありませんか」と言っておられます。「参考」にするなら、私なんかより、宇都宮さんの言葉を参考にしてくださいませ。
こんばんは。
丁寧で誠実で正直なレスありがとうございます。
私のコメで草加さんに変なプレッシャーを与えたり、ましてや自己規制させたりしたらとんでもないことです。まあでも私も結構な大人なので「参考にする」「勉強になる」といっても、そこは「それなり」ですので。(^-^)/
ですので私のコメなんか気にせず、どんどん発言してくださいね。
ところで宇都宮健児さんですが、Amazonで調べたら本を書いていらっしゃるんですね。この部分だけは「間に受けて」宇都宮さんの著作を読んでみようと思います。
中沢さんに関しては、もっともっと長生きしていただきたかったと思います。私にとって「はだしのゲン」は少年期に多大な影響を受けた漫画の一つですし。とても残念です。
すみません。「真に受けて」でした。( ̄▽ ̄)
こんな奴ですけど。よかったらお付き合い下さい。( ´ ▽ ` )ノ
明けましておめでとうございます。
連続投稿、申し訳ありません。別に粘着しているわけではないのですが、草加さんの「日本」って結局記号に過ぎないという記述、私も全く同意見なのですが、少し気になる事があったのでコメントさせていただこうと思います。
改憲案の精神として「個人」より「国」が大事、というのがありますね。私はこれは大変危険だと思っています。「日本」と同様、「国」というのも単なる記号だと私は思います。ですが多くの日本人はそこまで意識せず、上記の問いにyesと答える。実は彼らが思い浮かべる「国」と改憲論者が提示する「国」との間に大きな開きがあるかもしれないのに。この辺を問いかけていくことが実はこの国の将来を大きく左右して行くように思うのです。
暮らし易い国になるか、暮らし難い国になるかの。草加さんはどうお考えですか?
いやまあ、もし会社の朝礼で社長が「私は君たち社員よりも会社と株主が大切なのだ」とかあからさまに言いだしたら、あるいはそれを実践して低賃金長時間労働を強制してきたら、ごく普通に社員は逃げ出すと思うのですがね。なんで首相が「私は君たち国民よりも国家とアメリカが大切なのだ」と言って負担を押し付けても逃げ出さないのか不思議ですよね。
「国家」というのも「日本」というのも一つの記号であって、問題なのはその中身(記号の意味する内容)ということですが、多くの人は郷土や自然、愛する隣人たちみたいなイメージを抱くのかなあと。多くの革命家たちも「祖国解放」のために政府と命懸けの武装闘争をしたわけで、そういうイメージを「愛する」のは別にいいと思うんですよね。ただそこに「国家」や「日本」という記号を重ねると、それが何かしら個々の利害を超越した互助的なものとして観念されているのではないかと。それは幻想にすぎない。
つまり、極端な話、だったら政党なんていらないわけですよ。戦前の大政翼賛会や旧「社会主義」国の一党独裁なんてまさにその発想で、この手の人の頭の中には、そういう行き方が理想としてあるのです。「嫌なら日本から出て行け」とか典型的ですよね。こういう人はそれでも平気で「これは民主主義だ」と言ってのけるでしょね。多数派独裁と民主主義の区別すらついていないのです。ところが実際には国家の内部には非和解的な利害対立が複雑にあるわけですから、一口に「日本を守る」といっても、誰の何をどんな立場で「守る」のかを言ってもらわないと、簡単に騙され、「お国のために」という美名の元、実際には他人の利害や儲けのための犠牲にされてしまいます。
また、そういう対立を当事者自治を抜いたところで「俺が中立の立場から全部決めてやる」というのが、まさにファシズムの元基的な発想なわけです。極右系の人というのは、そういうのが「中道」だと思っているようですがね。
まあ、この問題はいろんなアプローチがあって、「国」という言葉が記号にすぎないというのもその一つですが、国家が互助的なものであるという建前でいくならば、実態としての国家は社団法人であり、その目的とするところは、構成員(国民)の人権を守るためのものです。その「国民の人権を守る」ということだけが、たった一つの国家の正当化事由であり、国のために国民が犠牲になるということ自体が論理矛盾というか、そこで手段と目的の逆転というペテンがあるわけです。
なおじさんの投稿にそって申しますと、「個人」より「国」が大事という言い方自体、すでに個人と国、つまり個と全体が対立しているということの表現ではないでしょうか。ここで言うところの「全体」が、本当に全体なのであれば、そこで個との対立は生じないはずです。でも実際にはそんなことは、宇宙人でも攻めてこない限りはありえません。つまりそれは偽りの「全体」だということです。では「個」を大切にすればいいのかということですが、資本主義というのはまさに個の紐帯を切り離し、バラバラの個人にした上で、それを巨大な機械体系に歯車として組み込むことで成立しています。「個人主義」というのはまさにこれへの即時的な反発であって、戦後の左派は、戦前天皇制的な封建主義イデオロギーに対して、この「全体に対する個の優先」を掲げてきたのではと思っています。
しかし今の右傾化というのは、むしろ個々バラバラに管理されている現代資本主義社会に対して、人々が個々人の紐帯、あるいは「全体」へのアクセスを求めていることの結果であるように思います。合理的・理性的に考えれば、「我慢できる資本主義」というのは、まさに個人の優先以外にはないのであって、戦後左翼というのは「諸要求貫徹」みたいな形でこれを主張してきたし、それが票を集めるのにてっとり早かったわけですが、今や人々はそれでは満足できなくなっているということだと思います。そこに国家主義・全体主義・天皇制みたいな、不合理かつ神秘的なイデオロギーで人々を集約する余地が生まれるというか、何かしらそこで「全体」への紐帯をイデオロギー的に感じられる快感みたいのがあると思います。もともとそういう不合理なものに、いくら合理的な個人主義を対置して説得してみても、「いや、もうそういうのはいいよ」ということになるのかなと。まあ、まさにそれこそがイデオロギーとしてのファシズムそのものなわけですが。
だから方向性としては、「諸要求貫徹」で全体に個を対置するような道ではなく、個と全体の統一、そこでの自立した普遍的な人間性における人々の連帯であり、それをもってしての偽りの全体への個人の吸収・紐帯というファシズムに対抗していく道かなと。
ここまではとりあえずの問題意識です。非常に抽象的・一般的な話になったので、かえってわかりにくくなってしまったかなあ。なんとなく考えていることは伝わったでしょうか?非才ゆえわかりにくい文章しか書けなくてごめんなさいです。さて、ここからどういう方向に書いていけば、なおじさんの問題意識と合致しますでしょうか?それとも全くずれていますか?
返信ありがとうございます。レスが遅くなって申し訳ありません。
う〜ん。色々と詰まっていますね。実は一度レスを書いたのですが投稿しませんでした。でもそれで結果的に良かったのかなぁ。と言いますのは草加さんの問題意識?を読むたびに感想が変わってくるんです。
実は私は私立理系卒でその上物凄い遅読なので、正直こうゆう文章の読解は恥ずかしながら不慣れです。
でも私の問題意識とは合致しているような、、、。ただ卑近な比喩で言ってしまうと、カップ麺が出てくると思っていたら一杯数万円の超高級中華そばが出てきたので『勿体無くて』ちびちび食べているような感じもあります。ナンノコッチャ。
で、マトモなレスもせずに何ですが、方向性の次を示していただけたらなぁ〜と思ったり。もう少し『その次』が示されれば、さらに理解の助けになるような、、、、。
追伸
ごめんなさい、言葉足らずで。
別に草加さんの答えが、「どうせカップ麺程度のインスタントな答えだろう」と思っていたという意味ではなく、私自身の意識の低さ・安易さの象徴としてカップ麺という表現を使いました。語彙が少ないのは本当に恥ずかしいです。(T ^ T)
今日は。草加さんのお返事を待つ前に少しコメントさせていただきます。
まず、個と全体の統一ですが、どうしたらこれに近づけるのかがサッパリ分かりません。単純にいえば、出来るだけ多くの人を『説得』するってことでしょうか?あと、自立した普遍的な人間性って、、、。
まず私には日本人の多数はムラ的構造の全体から自立していないように思います。確かに共同体という世間は消失しましたが、みんなの目という世間は益々幅を利かせているように思いますし。その上で敢えて自立した普遍的な人間性って?と問われると、現状の日本では唯一生存権くらいかなぁと。でも今の日本では飢死するというのはよっぽどの事がないとないような。そうすると、それを以ての連帯というのは難しい。それこそ日本社会が危機的状況に陥らないと無理なような。例えば日本中の国土が灰燼に帰すとかでないと。
「国防軍」とか言ってるとそうなるよという人がいます。ただ之を主張している人たちは当然ながらそうは思っていない。恐らく彼らの自信の根拠は米国の軍事力です。詰まり彼らはタカを括っている、現状維持なら二度と日本国中が焼野原になることはないと。でも米国はどこまでアテになるのでしょうか?
話が取り留めなくなってきましたので今回は一旦終わりますが、こんな事をイロイロと考えていると、草加さんの仰る方向性は理想としては分かるような気がするんですが、実際にはかなり難しいような気がします。
ズレていたらごめんなさい。