実は私もすぐには答えられなかったんですが、正解は『難民』です。なるほどなぁと納得しました。国民とは国家からの保護を請求しうる地位のこと。たとえ犯罪者でもこの地位があるからこそ、私達は簡単には投獄されたり殺されたりされません。しかし世界には、居住している土地を支配する国家から保護を拒否され、いつどのような迫害を受けるかわからない状態になって逃げださざるを得ない人々が大勢います。それが難民です。理由は民族・宗教・思想など様々です。
そんな難民の家族が日本に助けを求めてきました。日本は難民を保護しますと約束した条約に加盟しているからです。国連の難民高等弁務官事務所も、この家族が迫害から逃れてきた難民であることはほぼ間違いない(マンデート難民)として難民認定書を発行しています。それがトルコの少数民族クルド人のカザンキランさん一家です。彼らは日本に着いた時「これでやっと安全だと思った」と言っています。
ところが日本は条約で約束した通りにカザンキランさん一家を保護することなく、あろうことか一家7人のうち父親のアハメット・カザンキランさん(49)と長男(20)の二人を捕らえ、逃げてきたトルコに強制送還しました。それが今回の問題です。入管当局は、たとえ国連が認めようが日本の法律ではカザンキランさん一家は難民ではない。だから保護しなくてもいいのだと言っています。
「日本の裁判所で難民ではないという認定が出たので、国内法にのっとって、送還せざるを得ない」
(クルド人の強制送還に抗議を申し入れた福島社民党党首に対する南野法相の回答)
「調査の結果、難民としての身分は確認できない。人道主義を掲げるなら当該国の国内法に則り合法的な方法と手段で実施すべきである」
(北朝鮮難民を支援して中国政府に逮捕された野口孝行さんへの中国の裁判所の判決文)
驚くほどの酷似というか、全く同じ理屈です。この時に中国が強制送還した北朝鮮難民の一人はすでに処刑されたといいます。
この判決により野口孝行さんは中国の刑務所に収監されました。現在は刑期を終えて帰国しておられる野口さんが、今回のクルド人強制送還について「北朝鮮難民救援基金」の掲示板にコメントをよせておられるので一部引用させていただきます。
そして今まさに、中国による非人道的な行為とまったく同じ事がこの日本国内で進行しています。これまで私たちの団体は、中国は国際法を遵守しない非人道主義国家であると強く非難してきましたが、実は私たちの国・日本も国際法を遵守しない中国と同質の非人道主義国家であるということが露呈してしまいました。残念でなりません。
今回の措置は、「国際協調を強め、国連を軸に世界に貢献していく」「国連常任理事国を目指す」という日本の国是に反するのは明らかです。(1月21日(金)20時01分23秒)
そして去る24日、カザンキランさん一家の残る5人が、押しかけた大量のマスコミのカメラの放列の中、東京入国管理局に出頭しました。(上の写真はムキンポさんのページからお借りしたものです。ムキンポさんのページも是非ご覧下さい)入管当局はカザンキランさんを支援する国会議員を通じ、強制送還の準備をしているという情報を流しています。これはいわば「覚悟」を求めたものとも考えられます。入管は確実に強制送還を強行する腹でした。
しかしここにいたるまでに、先のカザンキランさん親子の強制送還が多くの人に「まさか!本当に!」という激しい動揺を与え、今まで無縁だった人々までが声をあげはじめていたのです(恥ずかしながら私もその一人ですが)。
海外のメディアもこのニュースを一斉に配信しました。欧米では「最も信頼できる人権団体」と評価されているアムネスティ・インターナショナルの国際事務局(本部)が、アハメット・カザンキランさんのケースに以前から注目していたこともあります。その日本支部も抗議声明を出しました。日本の政党レベルでもそれまでの社民党のみならず民主党、そして与党である公明党までが「強制送還反対」の声をあげはじめます。抗議のファックス、メールも大量に送られるようになり、入管当局は世界中の声に包囲されて四面楚歌となりはじめました。
出頭の当日、マスコミと支援の人々の監視の中で下されたのは1ヶ月の滞在延長許可でした。入管は方針変更の理由は説明せず、「法務省本省の指示だ」とだけ告げられたということです。(TBS NEWS-i-の報道による)
これに先立ち、国連から強制送還について批難声明が出たことについて問われた小泉首相は「人権の問題については国際社会から批判されることのないような対応をとっていきたい」と答えています。
私達の小さな声の積み重ねが、ほんの少しだけ政府と小泉首相を押し返したのです!
しかし問題はまだまだこれからです。非常に残念ですが、もうカザンキランさん達をこんな政府の日本に迎えるのは諦めたほうがよさそうです。
日本に対してはカザンキランさん達を人道的観点からトルコに送還せず、安全な第三国への出国を認めるように働きかけていかないといけません。(しかしこれ、日本を中国、カザンキランさんを脱北者、トルコを北朝鮮に変えたら、どっかで聞いた話そのまんまやがな!)さらに日本政府が引き裂いたカザンキランさん一家の再統合という大仕事が残っています。
そして日本政府も、この「第三国への出国を認める」という方向で問題の決着をつけようとしているようです。
首相は、クルド人男性をトルコに強制送還した問題に関し、「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から(家族の)第3国送還についての具体的な提示があれば、政府としてできる限り協力する」と述べ、家族はトルコ以外の第3国に出国させることも検討する考えを示した。社民党の福島瑞穂党首への答弁(時事通信 – 1月26日)
- 東京新聞より
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が認定したマンデート難民のトルコ国籍クルド人アハメット・カザンキランさん(49)と長男(20)が、法務省によってトルコに強制送還された問題で、南野知恵子法相は二十五日、日本に残留している妻子五人はトルコに送還せず、UNHCRが定住先としてあっせんする第三国に出国させる方針を明らかにした。さらに、未成年者には特別な人道配慮を加えるとの、新方針を打ち出した。
閣議後記者会見で答えたもので、法相は第三国定住について「視野に入れるのは当然のことかなと思う。誠心誠意、検討してゆきたい」と述べた。
(中略)カザンキランさん本人について、法務省とUNHCRが第三国定住を検討していたことも明らかとなっている。与野党から「わざわざ家族を分離する必要はなかったはずだ」との批判が出始めており、国会審議の焦点となりそうだ。」(05.01.24)
つまりは日本政府の予想を遥かに超えて国の内外で、さらに与党内からでさえ大きな批判が出たために強制送還の方針を変更したわけです。「そうではない」というために唐突に「未成年への配慮」を言い出したわけですね。
ただこうなると、記事にもあるように、カザンキラン父子をトルコに強制送還する必要はなかったのではないか?という話になります。
今回明らかになったのは、強制送還前に、国連から「第三国での定住」という方針が法務省に打診されていたということであり、法務省が国連の第三国移住方式による調停を蹴って遮二無二強制送還に突っ走ったということです。最初から国連の調停にまかせておけば、法務省-入管、そして日本人全体がこんなに大恥かかなくて済んだわけですし、第一にカザンキラン一家は引き裂かれずに済んだのです。
さて、今後カザンキランさん一家を第三国に定住させるにしても、先に肝心のカザンキランさん父子を送還してしまったのですから、送還した日本政府が責任を持ってトルコ政府に出国を認めさせないとお話にもなりません。また、肝心の「第三国」を捜さなければ移住のしようもないでしょう。どうしても見つからなければ日本政府で受け入れるしかありません(迫害が心配ですが)。
また、強制送還の危機に瀕している難民は、カザンキランさん達ばかりではありません。ここで安心せずに、今後とも充分な注目が必要です。
◇どこが「普通の国」やねん!-クルド人難民送還に行動を
◇緊急]24日午前8:30品川入管前に集合して下さい
◇クルド人問題研究会
◇難民とは?(アムネスティ・インターナショナル日本)
└ 難民の定義、各国の現状、参考文献ほか
◇Kurdish in Japan
└ 自己紹介、日本に来たわけ、トルコでの生活 など
◇Kurdish 2 Families Struggle in Japan & in Turkey
◇クルド人難民二家族を支援する会
◇クルド人難民申請者の強制送還(益岡賢のページ)
◇前例のない難民の強制送還に懸念(国連難民高等弁務官事務所)
◇クルド人父子の送還に抗議する(アムネスティ・インターナショナル日本)
◇クルド難民カザンキランさんらの強制送還に対し緊急申し入れ(民主党)
◇クルド難民申請者親子の強制送還について(公明党参議院議員・遠山清彦)
◇クルド難民問題で党プロジェクトチームを開く(公明党参議院議員・遠山清彦)
◇クルド人父子の強制送還「国際法逸脱」とUNHCRが懸念(聖教新聞)
◇クルド人姉妹支える高校教諭 苦境知り、署名活動(東京新聞)
◇Five Kurdish refugees may be sent to a third country(The Japan Times)
◇Remainder of Kurd refugee family wins reprieve(The Japan Times)
◇東京入国管理局
◇クルド人難民強制送還に抗議を
◇【カザンキラン父子強制送還問題】妻子は仮方面、第三国定住へ?
◇【人道支援はどうした】クルド人父子の送還に抗議する
◇納税者+「政」治家と法務省「官」僚のたたかい
◇クルド人難民強制送還のその後
◇とりあえずは…仮放免延長
◇偉大なる入管
◇政府(首相官邸)への抗議メール…。
◇難民と強制送還
◇投稿・クルド難民続報
◇UNNHCR難民認定のクルド人、強制送還
◇ホントの難民・ニセ難民
◇「人道的」
◇正義の味方
◇少し恐ろしい
◇クルド人送還「何ら違反ない」 法務省、国連機関に見解
◇クルド人難民・強制送還に強く抗議します!
◇今朝のテレビでクルド人難民のことを報道していましたね。
◇やっぱりヘンだクルド人強制送還問題
◇またまた、在日クルド人問題の続きです。
◇ お役所仕事?(-“-;)
◇クルド人家族5人、仮放免1か月延長
◇初トラバだと思ったら・・・
◇東京入管の金正日(キム・ジョンイル)
◇クルド人難民強制送還
◇クルド人強制送還に関して2
◇難民申請者の強制送還について
◇さまよえる祖国
◇日本 世界初の暴挙へ
◇クルド人親子を強制送還のこと。
◇難民クルド人強制送還:国際法にも判例にも反した決定
◇クルド人親子を強制送還:本当に「他者」への思いやりがない国だな、日本は。
コメントを見る
いつも楽しみに拝読させてもらっています。
私も今回の事件では、UNHCRが第三国移住を提案中だったこと、最高裁の係争中であることを考えれば、なぜ、そうも急いで強制送還する必要があったか、納得がいきません。まさか、法務省の官僚は、強制送還してもこうした世界的な批判が起きないとでも思っていたのでしょうか。だとすれば、会長を辞任しながら即効で顧問に就任したNHK・海老沢氏と同様に世の中をなめ切っているとしか思えません。
Naked Loft Talk Live
2005年2月2日(水)
『Wattanの秘境探訪』 vol.1
「もったいない。こんな政府に税金払えるか!」
Wの告白~アメリカ言いなり/クルド人強制送還/ジャマルさん刑事弾圧/etc.
【出演】
渡邉修孝(人間)
郡山総一郎(ジャーナリスト)
織田朝日(クルド人難民二家族を支援する会)
小鳥(ジャマルさん救援会)
加藤健二郎(東長崎機関)
ムキンポ(赤帽よいこ)
他
【特別出演】
平野悠(席亭)
Open/18:30 Start/19:00 End/22:30
その後、同じ場所で交流会(~深夜)
NO CHARGE(+1 order)
※当日は在日クルド人の特別ゲストも予定しています。
当日、お暇な方はもちろん、ご多忙な方も、
是非、都合をつけてご来場ください。
http://www.mkimpo.com/diary/2005/naked-loft_05-02-02.html
はじめまして、トラックバックを受けた「鮭山ネギ」というものです。よろしくお願いしまます。なかなか充実している記事ですね。私も見習わなければならないと強く思いました。これからもよろしくお願いします。
鮭山ネギさん>
いえいえ、私なんぞ(謙遜ではなく)あまりにも勉強不足でいつもびくびくしてますよ。
>かめよん。(ムキンポ)様
いつも充実したページを拝見して勉強させていただいております。情報をありがとうございます。
zhen様>
おっしゃる通り、法務官僚は送還を非常に急いで行った感は否めません。批判が大きくなるのを恐れたとか、他の難民に対する見せしめであったとか言われています。ただ、結果的に火に油を注ぐ結果となり、公明党まで敵に回してしまいました。いまや国会の過半数が送還に反対なわけですから、国会が与野党を超えてどこまで官僚に対する主導権をとれるか、いわば「政VS官」という論点も見えてきました。
wowow様>
国内法による判断が優先して当然というお考えですが、それを推し進めると、私達は中国や北朝鮮すら批判できなくなるのではないでしょうか?本文中にあげた中国裁判所の判決は、まさしくwowow様と(そして法務省と)まったく同じ理屈に立っているわけです。
私はグローバル化には知識不足ゆえに発言をひかえていますが、経済にグローバル化にともない、人権分野でもグローバル化は進んでいくと思います。人権侵害に関しては他国が口を出してもかまわないんだというのは、むしろ世界の趨勢です。アメリカみたいにそれを口実にして侵攻などされてはたまりませんが、条約に加盟した以上は、勝手な独自解釈ではなく、国際水準での判断による履行が義務ではないのですか。
トラックバックありがとうございます、
トラックバックさせてもらいます
海外にも配信されていたのですか、
ニューズウイークにもこの記事が載っていました、
国連に調停を任せとけばよかったのです
対外イメージが悪化することをやめてほしいですね
貴重なご意見をありがとうございます。
私はこと人権に関しては他国が最低限の国際水準を満たした措置を要求してもいいと考えております。拉致事件に関しても、日本と北朝鮮の問題だから、他国は関係ないというのではなく、人権問題として国際世論による圧力をかけていくのは必要なことだと思います。それは内政干渉とは考えない立場に私はいます。
今後は日本に対しても、難民受け入れをはじめとして、こういう圧力はかかってきます。「グローバル化」にはそういう側面もあると思います。それを日本独自の事情という、中国や北朝鮮とまったく同じ理屈で抵抗するのは、日本が欧米的世界基準での「普通の国」たることを拒否するということですが、「国益」という観点からも決して得策ではありません。
そういう選択をするならするで、ちゃんとした戦略はあるんでしょうか。なんで難民条約に加盟しちゃったんでしょうか。加盟しながらその運営は日本基準で行い、結局は今までと変わらないなんてことが通用すると、外務省の役人は本気で考えていたんでしょうか。だたしたら相当の暗愚としか言いようがないと思います。
虹の架け橋キャンペーン パート2●●●
■05年3月16日(水)午後3時~午後8時 品川・東京入国管理局そば■
┏ ★午後1:00~
午後1時 品川入管1階ロビー集合
┏┓
┗■ コンサート&トーク会場 品川北ふ頭公園 進行予定
└────────────────………‥‥・
JR「品川駅」東口から都バス(品川埠頭循環)「港南大橋」すぐ
午後3:00~午後5:30
【プレイベント・・・・コンサート+リレートーク】
午後5:30~午後8:00
【メインイベント・・・・キャンドル人文字+コンサート】
★午後5:30~
コンサート+難民や移民当事者のリレートーク
*サンプラザ中野さん他、ミュージシャンたちも多数参加予定!
乞ご期待!
★午後6:30~7:00
キャンドル人文字「ともだち」完成!
★午後7:00~8:00
東京入国管理局・収容所前 路上街宣車でのコンサート+トーク
入管収容者へのお菓子贈呈
┏●┓
┗ー■ 品川・東京入国管理局の場所
└────────────────………‥‥・
最寄駅:JR品川駅 東口(港南口)
都バス[品99](品川埠頭循環) 東京入国管理局前下車(10分)
(バスは5分に1本くらいでています)
★主催★
1435虹の架け橋・品川入管ほっかほか人文字実行委員会
★共催★
(社)アムネスティ・インターナショナル日本
連絡先:弁護士 土井香苗
(tel 03-5296-5533 ファックス 03-5296-5534
メール doi@surugadai.org )
http://www.asahi-net.or.jp/~bx8k-arkw/index.html
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