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労働運動

釜ヶ崎の住民票削除-3週間延期

※本エントリーの画像・動画・文章は住民票削除に反対する趣旨に限りご自由にお使いください。

 釜ヶ崎の住民票削除問題に心をよせるすべての方にご報告いたします。

 大阪市は、当初、3月2日午後5時をもって職権消除する予定だった、2,700人余りの労働者の住民票削除を3週間延期することを発表しました。日雇い・野宿労働者たちは不可能と思われた2日の住民票削除阻止を自分たちの力で実現し、情勢は労働者ペースで大きく動きだしました。しかしまだそれは「延期」にすぎません。完全中止、または有効な代替案が示されるまで、これからの3週間、新たな闘いがまたはじまったのです。

まずは早朝情宣、議員団の皆さんも市長に申し入れ

 この日の行動は朝の8時からはじまりました。集まった仲間たちは市役所前で行きかう市民と、市庁舎にすいこまれていく市の職員にむけてのビラまき情宣。早朝から大勢のマスコミの皆さんやテレビクルーも集まって大変ににぎやかでした。私も通りかかる市民に語りかけながら必死でビラをまいていたのですが、ふと横を見ると1メートルくらいの至近距離にテレビカメラのレンズがあり、頭上にはマイクがぶら下がっていました。全然気がつかなかった!お前ら忍者か!頼むから一家団欒中には放映しないでね。茶をふくから。

早朝情宣

 一方、職員たちはご苦労にもこんな早朝から大勢で市庁舎入り口に陣取り、情宣を監視していましたが、前日の大阪高裁における「住民票削除禁止」の判決や、それを受けてのマスコミ報道など、自分たちが徐々に包囲されていく情勢の中で完全にピリピリとした雰囲気です。ビラをまいている人が歩道と庁舎の境を半歩でもまたいだだけで「入るな!」と難癖をつけています。

 逆にこちらは「押せ押せムード」です。この後、9時に市役所が開くと同時に大阪府下を中心とする大勢の市議・府議・国会議員の皆さんが、関淳一市長に対する「緊急要望書及び公開質問状」を連名で提出することになっています(エントリ巻末に議員名簿と全文を収録)。

 これも全国の皆さんがメールやファックスや電話などで陳情を続けて下さったことの成果だと思います。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。議員のお一人は宣伝カーで市の正門前に到着されましたが、今度は公安刑事が走ってきて「駐車違反だ!」と恫喝。こんなん駐車やなくて停車やろ。こちらは「ほうほう、そこまで言うかい」ということで、それならばと市役所をグルグルと何週もしながらたっぷり宣伝カー情宣をさせていただきました。

議員団訪問・大阪市に申し入れ

 9時をまわったところで議員団の市役所訪問。平日の早朝で議会開会中ということもあり、現場に駆けつけることができた議員さんは少なかったのですが、代表して大阪府議会議員の小沢福子さんが挨拶。とたんにマスコミのクルーが集まってきます。小沢さんらがみんなの拍手の渦の中、庁舎に入られたところで私たちも座り込みの現場に移動します。

 それにしても、例によって小沢さんについていたマスコミは入り口で市の職員に阻止されたのだけれど、一部のテレビクルーなどはその問答の後ろから、大きなカメラやマイクを抱えたまま、走って職員を迂回、「突破」していった。職員もそれ以上追いかけなかったけれど、すげえなテレビクルー。私たちなんかよりよっぽど過激派だな。その根性を、長居の強制代執行でも見せてほしかったけどね。

 さて、私たちはと言えば、いつもの「定位置」に陣取り、大阪市からの回答を待ちます。前日の再々申し入れ書への回答もさることながら、その直後に出された「削除禁止」の高裁判決を受けて、大阪市はいったいどうするつもりなのか?住民票削除の期限が本日である以上、遅くとも午前中には回答がなくてはいけません。というか、そんな方針は前日には決まっていないといけないわけで、早急に当事者である日雇い・野宿労働者に説明を行うよう、居並ぶガードマンや職員の壁ごしに、何度も要望を伝え続けます。

一方的記者会見で2週間後に削除と発表? 「またか!」

 そうこうしているうちに驚くべき情報が伝わりました。またしても大阪市が一方的に記者会見を開いているという。しかもその席上では「住民票削除を2週間延期した上で予定通り実施する」ということが発表されているというではありませんか!

 この間の大阪市は一貫してこの調子で、被害を受ける当事者たちとはいっさい話し合わず、市長・局長・部長といった「権限のある人」が一方的に記者会見を開いて市の方針を発表、既成事実化した後になってから、当事者たちには課長代理といった具体的な権限のない人が、すでに上で決まった市の方針を説明(というか通告)にくるだけということが続いていました。労働者たちから「またあんたか!」と言われている末長課長代理は、ほとんど「苦情係」みたいな気の毒な使われ方をされていて、労働者たちから何を言われても自分の権限では回答することができず、ただ黙ってうつむきながら、上の方針を何度も繰り返すことしかできません。

市役所前に集まりはじめる労働者

 この記者会見の情報が流れると、労働者たちの間に「またか!」という怒りと、一触即発の雰囲気がたちこめ、あちこちで怒声があがります。

 やがてその場にたちあって事態を見ておられた静岡大学の笹沼教授が、「これはいくらなんでも…」という感じで前に出てマイクをとられ、あらためて高裁判決の要点を説明された上、「大阪市は判決文中の『周知期間が足りない』という部分だけをとりあげて曲解しているようですが、判決から2週間が経過すれば自動的に合法になるとか、そういう単純な内容ではありません」と説明されました。

 判決は、釜ヶ崎労働者のような生活パターンの場合、たとえ登録地に実際に居住していなくても「住所として認める余地がある」など、かなり実態にふみこんで詳細に考察した上で削除を違法と結論しています。しかし、マスコミ報道は「周知期間」というわかりやすい理由に集中していました。そこで大阪市もそこさえ配慮したようなそぶりをしておけば、批判をやりすごせると考えたのでしょう。

判決を無視する大阪市の行き当たりばったり

笹沼教授の説明を聞く労働者たち

 日雇い・野宿労働者を支援する人も含めて誤解があるようですが、大阪市は今まで解放会館への住民登録を、単純に「黙認」したり、一方的に「斡旋」していただけではありません。ちゃんと毎年のように実態調査に入っているんです。その上で、長期間にわたって郵便物を受け取りにこない人など、あきらかに「実態のない架空登録」は、これまでも適正に職権消除が行われています。こういった適正な住民票削除については、日雇い・野宿労働者は抗議も抵抗もしていません。残る登録者は、みんな解放会館の周辺にあるドヤや公園などで生活して、定期的に解放会館にやってきます。つまりまったくの架空登録ではなく、ある種の「実態」はあるのであって、高裁はそれを「住所として認める余地がある」と言っているです。

 大阪市が全員一律削除を突然に発表した時点で3,700人の登録がありましたが、最大時には1万人が登録していました。その数は登録している労働者の実態にあわせて常に増減していたわけです。30年にわたってこれだけの登録がありながら、住民票が犯罪に使われたのは、昨年の12月に発覚した1件だけというのはこういうわけです。そこに登録している人にとっては、それは「便宜上の架空登録」ではなくて、実態をともなうものなのです。

 くり返しますが、実態のない登録については大阪市は常に調査のうえで、これまでも削除していますし、そのことに日雇い・野宿労働者は抗議していません。今回大阪市が削除しようとしている住民票は、当事者にとっては「住所として認める余地がある」と裁判所に言わしめるだけの実態を備えたものであって、この削除は、まさしく切ったら血がでる流血の削除なのです。架空なものを架空であるがゆえに削除することについては、労働者側も異議がないのです。

一方的記者会見に抗議する日雇い・野宿労働者

 ではこのようにある種の実態をともなった住民登録を、一律に突然削除することはできるのか?高裁はここで「一般論」としながら、2,700人の住民登録の中に、上記で述べたような本来の意味での架空登録が含まれている可能性もあり、仮にそれが大量にのぼったと仮定した場合には、選挙無効の原因にもなりうるから、削除という方針に切り替えることも許されないことではない。ただし、現在の登録者がそれで権利(この裁判の場合は選挙権)を失わないような配慮(代替措置)が必要であるとします。

 これに対して大阪市は「簡易宿泊所(ドヤ)に登録することを認める」と主張したわけです。これは従来は大阪市が認めてこなかったことです。「○○ホテル53号室」などで住民登録できないことはわかると思います。これを特例として認めると。しかしそれには本人の申し立て以外に、ドヤが発行する宿泊証明などを必要とすると言います。実際には労働者がドヤに協力を求めたところ、「協力したいのはやまやまだが、大阪市から何の説明もない」と断られています。それはそうでしょう。自分の部屋を連絡先として提供していた支援ボランティアが、大阪市と府警の弾圧で逮捕されているのです。そんなことをしておいて、何の説明もせずに「ドヤに登録させてやるから証明書とってこい」と言ったって、どこも協力してくれません。そう、ここではじめて「ルールが明確でなく周知期間が足りない」という言葉が出てくるのです。

一方的記者会見に抗議する労働者

 笹沼教授があきれ果てて言った「2週間が経過すれば自動的に合法になるという問題ではない」という意味がおわかりになられましたでしょうか?判決の要点、つまり裁判所が削除を合法とする条件は、「期間」ではなくて「代替措置」のほうなのです。この代替措置のルールを整備し、さらにそれを周知徹底する期間をもうけた上でなければ、突然の削除は信義則に違反するというのです。

 「信義則違反」というのは、一見すると法律や契約に違反していないかのように見えるが、実際はそれを逆手にとっただまし討ちのような行為であり、たとえ条文には違反していなくとも、法律はそのような行為の実現を援助しないという大原則のことです。こういうことを考えるのが「法律家」というものであって、「居住実態がない」とオウムのようにくり返している大阪市や関市長は、行政マンとしても己の無能をさらけ出しているということに、早く気がついてほしいものです。たとえばレンタルビデオの延滞を知りながら一度も催告せず、数年後に莫大な金額の延滞料を請求した事例につき、信義則違反で無効の判決が出ていますが、もし関市長が裁判官なら「契約だから仕方がない」と言ったことでしょうね。

労働者の怒り爆発「俺たちはここにいるのに!」

まるで透明人間のように無視される当事者たち

 さて、話は現場の様子に戻りますが、こうしている間にも記者会見がすすんで、2週間後の「代替措置なしの住民票削除」が既成事実化されようとしています。入り口前の職員たちに呼びかけて取次ぎや説明を求めますが、何の反応もありません。

 労働者たちの怒りもどんどん高まって爆発寸前。そのうちに一人の労働者が、市側がこれみよがしに置いていた「示威行動禁止」みたいなことが書いてある看板(これに書いてある事項は労働者側も守っていました)をゆすりはじめました。それに対して職員が大声で警告したのをきっかけに、あちこちで口論がはじまります。

 「私たちは混乱や争いをさけて、おとなしく外で待っているのに、誰も出てこないし取次ぎもしてくれない、さらに当事者が話し合いを求めているのに、またもや誰もいなかのごとく無視し、一方的な記者会見で私達の運命が決められようとしている。出てきていただけないのなら、中に入って直接に面会をもとめよう!」

 こうして労働者たちは職員をよけて、そのまま市役所に入ろうとします。ピケをくんでそれを押し戻そうとする職員とガードマンたち。「押さないで!」「やめてください!」と絶叫する職員たち。「押してない!市民が用事があって市役所に入るだけだ!君たちこそどけ!」押しあいへしあいで現場はたちまち大混乱となり、ガードマンの帽子が空を飛びます。慌てふためいて市役所入り口のシャッターが閉められました(下の動画参照.動画のダウンロードはこちらからどうぞ)

 とりあえず担当者が出てきて説明するということでその場は落ち着きましたが、今度は労働者たちがばらけたところで、今まで職員のはるか後方の安全な場所をゲットしつつ、こそこそ違法な写真撮影をしていた公安刑事たちがいっせいに出てきて、さかんに支援のボランティア活動家たちを口汚く挑発しはじめました。いやもう、そのやり方の卑劣なこと、びっくりしますね。

 騒ぎがおさまって安全になってから、わざわざ挑発して逮捕の口実を作ろうとしていることは明らかです。労働者たちもすごく怒っていましたが、支援ボランティアはむしろ必死で労働者を止めるほうに回っていましたね。学生の一人が口頭で抗議しただけでデッチ上げ逮捕されそうになりましたが、数人で間に入って引き離し、それは阻止しました。この学生は、その直前に、公安たちの違法な写真撮影を注意していました。自分たちの違法行為を注意されたことが癪に障るもんで、腹いせに逮捕しようとしたのでしょう。それを注意した労働者にまで「なんじゃ、おどれは!」「いてもうたんど!」などとヤクザみたいな暴言を吐いてすごんでいました。

※注:「大阪の刑事さん」がどんな感じかご存知ない他府県人の方は→こちらをご覧の上で続きをお読みください

安全になってからコソコソ弾圧する卑劣な公安刑事たち

 余談ですが、違法な撮影行為を行っていた公安の一人が、去年のうつぼ公園の強制代執行でも撮影班だった刑事と同じ方でした。まだ若い人のようですが、たった一年でものすごく人相が悪くなっていたのでびっくりしました。これは皮肉や悪意ではなく、素直な感想っす。これって「目つきが刑事らしくなった」ってことなんだろうか?やはり撮影班なんて一年もやっていると、どうしても悪人顔になってしまうのかなあ。

 そういえばこの頃は、昔なら皆無だった女性公安刑事も見かけるようになりました。それは喜ばしい(?)ことなのですが、残念ながら、今のところ男性の公安が優しく見えるくらいにすんごく性格が悪い人ばっかりなんだよなあ。普通の婦人警官とかは性格もごく普通なんだけどなあ。

 連日市役所前に来ていた女性公安の方も、ごく普通に話しかけても「っさい!!」としか言わない人で、とにかく言動が意地悪。同じ女性の間で、この公安刑事に対する評判がすごく悪かった。同性を見る目は厳しいのだろうか(笑)。とにかく「あの人最低!」って感じで噂になってました。まあ、若い女性が「男社会」でやっていくには、それくらいの強さがないとダメなんでしょう(と、いうことにしておいてあげましょうよ)。そうは言っても、こちらが穏やかに質問してるのに「っさい!!」以外は(マジに)何も言わないってのはないだろうけど。

ようやく市の担当者が登場

 さて、そうこうしているうちに、またいつもの末長課長代理が出てきました。一瞬、「またあなたですか」と思いましたが、今回は末長さんは同行しただけ。もう一人、佐藤総務課長が今回のメインで応対されました。おお、判決のおかげで課長代理から一つグレードが上がった(笑)。それともいいかげん、末長さんがもう精神的に限界とか?

 その佐藤課長の手にはワープロ打ちで2行ほどの紙が握られており、佐藤さんは私達の前でそれを読み上げられました。

「昨日の高等裁判所の決定を受けて、当面、簡易宿舎での住民登録が可能であることについて、広く周知することが必要であると判断した。選挙日程を考慮して3週間程度の周知期間を設け、また、その間区役所で相談窓口を設け相談を受けることとした。そのうえでの対応とし、本日付けの職権消除は行わないこととした」

大阪市 佐藤総務課長

これに対していろいろな質問が出ましたが、それは大きくわけで次の2点です。

1)「相談と対応」の具体的な中身⇒それは何らかの「代替措置」がとられるということなのか?
2)3週間の「周知期間」が終了した時点で、解放会館などに住民票が残っている人はどうなるのか?

市民局総務課長の佐藤さん

 これらに対して佐藤さんは、「繰り返しになりますが」という言葉をそれこそ何回も「繰り返し」ながら、「相談を受けた上で対応したい」としかおっしゃられませんでした。「3週間の期間中に遠方に働きに行っている人や、病気で入院している人もいるが?」とか「相談を重ねて本人も努力した上で、どうしても住民票を移せなかった場合はどうなるのか?」という重要な質問にも同じ答えです。「簡易宿泊に住民票を移すための具体的なルールは?」についても同じ答え。市の担当者が現場で口走った「ドヤに一泊でもすればそこに住民票を認める」ということを確認しても同じ答え。

 ただ一つだけ、「すでに記者会見が開かれて『周知期間』の終了時点で結局は住民票を削除すると発表されたそうだが、それは事実ですか?」という質問にだけ、ちょっと動揺したようなそぶりで「そのような会見が開かれたとは聞いていませんが…開いておりません」と述べられました。記者に確認したら、やはり開かれていたようで、可愛そうに佐藤さんには知らされてなかったみたいですね。「単に延期するだけで(住民票を移せない場合も)削除するんなら、今からそうはっきり言ってもらえないと困ります」というしごくもっともな質問にも、「相談を受けた上で…」と同じ答えでした。

質問: 「つまりは何も決まっていないということですね?いったい何を『周知』するのですか?周知するべき内容が決まってから『周知期間』のカウントをはじめるべきではないのですか?それではただ単に、削除する日付が変わっただけのことですよね?それも選挙に投票させない手続きのために、ギリギリの期間が3週間ということから逆算しただけの日付ではないのですか?」

佐藤課長回答:「えー、繰り返しになりますが、3週間の間に相談を受けた上で適正に対処したいということでございます」

 なんか一昔前の国会答弁みたいになってきました。
 らちがあかないので、午前中はいったんここで終了し、具体的な対応の中身、および会見で新聞記者に「削除する」と発言した人と発言の真意を確認して意見をまとめてくること、午後3時に再度ここで説明をおこなうことを約束してもらった。「その時間には仕事がありますので」という佐藤さんの発言に、一瞬怒りのオーラーがあがりました。なぜならここにいる日雇いの方々は、その日暮らしの中でも日当を蹴って参加している人も多く、不安定な雇用で休みがとれないのに、事態のあまりの重大性ゆえ、首を覚悟ででも休んできた人が多くいるからです。ですがそのへんは「別にあなたでなくてもいいですから…」と聞き流されていました。

昼飯まで邪魔する大阪市

 二人が引っ込んだところでちょうどお昼になったので、昼食の準備をはじめました。別の公園で炊いた(というかアルファ米を戻した)白米が届きましたので、私も手伝って、それを人数分にわけ、漬物とふりかけや卵をつけて配ろうとしました。すると、米を使い捨ての弁当容器にわけている私たちにむかって、白ヘルにマスクと水色の作業着に安全靴といった、例の強制代執行の時のスタイルで完全武装した市の職員数十人が押し寄せてきました。この人達の本来の仕事って何だろうとか思いますが、今やガードマンとならんで、いわば大阪市の「暴力装置」「実力部隊」みたいになっています。どうも「道路で飯を食うな」ということらしい。

完全装備の大阪市実力部隊

 んなこと言われても、ここにじっと待たされていたら腹もへるし飯も食う。ちゃんと通路をあけて通行の邪魔にならないように気をつけているし、歩道の端に座って弁当を食べている道路工事の人が逮捕されたという話も聞いたことがない。だいたいじっと座って待っているのが良くて、端によって弁当を食べたら排除って、どういう理屈なのかよくわからんです。すぐに労働者の人達が集まってきて、米を人数分にわけている私たちと、押し寄せる完全装備の職員の間にわってはいってくれました。その人達が口頭で抗議してくれている間になんとか弁当を全員に配ることができました。

 ここから3時まではいわば「自由時間」みたいになりました。初日はあいた時間にマイクで市役所にむかい、職員への呼びかけなどをしている人もおられました。それで私もこういった時間に「旗旗2号」を使って職員に呼びかけを行おうと思って、しゃべる内容なんかも考えてきていました。それ以外に「旗旗2号」を使うような機会もないだろうしと思って。

 ところが弁当を詰めている時からどうにもこうにも頭が割れるように痛くなってきました。職員に取り囲まれながらも、本人はそれどころではありませんでした。実は数日前から熱などもあったのですが、この時ばかりは半端でないくらい痛くて、もう辛抱できないくらい。支援の女性の方から痛み止めの薬をいただきましたが、少しマシになったくらいで、またすぐに激しく痛くなります。薬局をさがして周辺を2時間くらい歩き回りました。結局は市役所前から梅田の百貨店まで行って帰ってきましたが、どうにか落ち着いた時にはもう3時前でした。痛み止めを5回分くらいまとめて飲んでどうにかおさまりましたが、疲れたというよりはホッとしたいう感じです。

再交渉、市は話し合いに応じることを約束

市側との再交渉で話し合いの場を設けることに

 さて、いよいよ約束の時間になって、職員とガードマンが大勢ものものしく囲む中、佐藤さんと末長さんが現れました。佐藤さんは仕事があるとおっしゃっていましたが、それがなくなったのか、都合をつけていただいのか、それとも他に誰も行ってくれる人がいなかったのか、ともかく午前中に引き続いて説明に着ていただきました。どういう返答があるのだろうかと注意して聞いてみますが、基本的に午前中と同じ返答で、労働者にとっては実質ゼロ回答です。具体的なことはこれから検討していくということでした。3週間後にはどうなるのかという、労働者が一番聞きたかったことについても具体的な返答はなしです。マスコミは記者会見を受けて、3週間後には削除されることがまるで既定のように報道していますが、実際には何も決めていませんとのこと(本当か?)。

 その場にいた個別の労働者からも、そういう理念や総論ではなく、個別具体的に自分達はどうなるのかといった質問が次々と飛びますが、午前中と同じような総論が返ってくるばかりで、話し合いはかみ合わずに空回り、押し問答となってらちがあきません。労働者側の怒りは強く、あちこちで市の職員に向かって、自分たちの生存にとって住民票がどれだけ大切な役割をはたしているのか、一方的な削除で、労働者を「住所不定者の浮浪者」扱いする関市長の言動に、どれだけ誇りを傷つけられたかなどを口々に訴えておられます。「この市役所の建物だって、わしら釜ヶ崎の日雇いが作ったんじゃないか!」と。現場は収拾がつかないほど騒然としてきました。

生死のかかった野宿労働者の抗議にうつむく大阪市

 結局はこのまま決裂してしまうのかと思われましたが、ここで重要な前進がありました。労働者側から「このままでは仕方が無いから、日をおいて、労働者の質問に答える説明会を開催しましょう」という提案に、佐藤課長が応じたのです。
 しかし、いつもは「代表数人に課長代理が面会する」という形式でお茶を濁されるのが通例です。それでは意味がないから、個別の労働者にも質問して意見を言う機会を設ける意味で、最低でも50人から100人規模で面会してほしいと要望しました。すると佐藤課長は「えっ、いや、そんな、30人くらいなら…」とおっしゃったので、労働者側も「じゃあ30人にしましょう。30人で話し合いに応じると。で、それまでに具体的な対応の中身と、3週間後にはどうなるかを説明していただくということでよろしいですね」ということになりました。

 話し合いの期日は遅くとも来週中。さらにそこにマスコミを入れることにも双方が同意しました。今まで大阪市が応じてきた「代表数人」との面会では、大阪市はその場しのぎのいい加減なことばかり言うのが通例でした。「今後は気をつけます」とか言って、本当に気をつけてくれるのかと思ったら何も変わらないというのが相場です。そしてその場での合意事項を文書にして残そうと提案すると、尋常でなくものすごく嫌がる。自分で言ったことを確認するだけなのに。今回の住民票削除の問題でも、西成区役所の役人は労働者の前では「簡易宿泊所(ドヤ)に一泊でもすれば住民票を作るから問題ない」とか適当なことを言っています。「それでいいんですね?」という労働者の質問に、佐藤課長は「いや、それは…」と、あいまいで否定的な発言をしました。実際に大阪市が文書で出している条件は、宿代を前払いして長期間滞在していることが明らかで、その証明書がある者です。マスコミを入れることによって、こういういい加減で人を小ばかにした対応ができなくなります。

もう一度確認しておきましょう。大阪市の回答は以下の通りです。

1)本日の住民票削除は中止する
2)3週間の周知期間をおき、その間に必要な対応をとる
3)具体的な対応の中身についてはまだ何も決まっていない(白紙である)
4)3週間後に削除するかどうかもまだ決めていないし、マスコミにも削除するとは言っていない
5)周知期間内に大阪を離れている人への対応も決めていない
6)上記の点について決定の上、来週中に30人規模で話し合いに応じる
7)話し合いの席上にマスコミを同席させることを認める

 まだまだ不充分な回答だし、住民票削除が決して中止されたわけではない。しかしずっと頑なに話し合いを拒否してゼロ回答を続けてきた大阪市が、はじめて譲歩し、話し合いに応じるとした成果は大きいと思います。大阪市が正式に削除の方針を打ち出し、催告書を発送したのが1月25日です。それまでまさか現実に釜ヶ崎に住んでいる人の住民票3000人余を削除してしまうなんて、誰も予想もしていませんでした。それからたったの一ヶ月ちょっと、長居公園での強制代執行をもはさみながら、よくぞここまでこれたと思います。当事者である日雇い・野宿労働者の方々の努力に、心からの敬意を表したいと思います。

通りすがりの市民や労働者まで続々と合流!

夕方情宣では新聞を見た大阪市民から同情の声が続々

 この回答(市の譲歩)を受けて、労働者たちはいったん市役所前から撤収することとしました。時間はそろそろ5時です。6時まで、帰宅する市の職員や通行人の方々に向けて、報告の情宣・ビラまきをすることにしました。この時間になりますと、心配していた多くの労働者の皆さんが、早めに仕事を切り上げて駆けつけてくださる姿が目に付きました。中でも連帯労組の方々は20人近くが駆けつけてくださり、憲法と請願法に基づく個人の権利として、市長への請願を行ってくださりました。残念ながら大勢の職員が廊下でピケをはっていたため、それを突破して市長室に近づくことはできなかったけれども、ともかく請願書だけは届けてきたそうです。

 ビラをまいている最中に、私の目の前でいっしょにビラをまいていた人が、過労で棒のようにぶっ倒れて意識を失うということがありました。正直なところ、雨の中でも連日市役所前にたちつくしていた仲間たちは、みんなもう、体力的にも限界にきていたのです。
 この方は、介抱する私たちに何度も何度も「すいません、すいません…」とつぶやくように謝っておられました。この方が謝ることなんて何もないのに!悪いのは全部関市長です!なぜ、こんな善良な人々が、関市長一人のためにここまで苦労しなくてはならないのでしょうか?

通りすがりの大阪市民が「マイクで一言」

 ビラまきを終えて市役所前に戻ります。そこで、一人の通りかかったおばさんが、「私も市に一言いいたい」としゃべりだされましたので、マイクを貸してあげました。なんでもこのおばさんは、たまたま保険の手続きで市役所を訪れた方のようです。ビラをまいていた労働者の訴えを聞いて、怒りのあまりどうしても一言いいたいとのことでした。

 「自分は介護の仕事をしているけれども、いくら働いても月収は10万円もない。まもなくやってくる定年後は月5万円の年金だけが頼りです。住宅も維持できるかどうかわかりません。そうしたら私の住民票もなくなるということですか?困っている人を助けるのが市の仕事だと思っていたのに、逆ではないですか!」と。

 その他にも昼休みに通りがかって署名してくれたOLやサラリーマンの方が、わざわざ様子を見にきてくれたり、市民の反応はとてもいいです。地元局制作のワイドショー番組でも、労働者側の主張を公平に紹介したり(当然なんですけどね)、大阪市の行き当たりばったりの対応を批判する内容が大半でした。とにかく前日の判決でガラリと空気が変わった。ざまあみろ、大阪市!

 撤収にあたって、何人かの労働者や当事者団体の方々が挨拶。その中には前日の高裁判決を引き出した原告の労働者の方も元気に発言されました。続いて夕方になって駆けつけてくれたり、連日共に市役所前で共に行動してくれた労組や各種団体の方に挨拶をお願いしました。日本人民委員会、関西単一労組、愛女性会議、全港湾、東京の野宿者団体の方、そして最後に連帯労組からの挨拶をうけ、全員で「団結頑張ろう!」を三唱して締めくくりました。

次々と立つ発言者

闘いは続く、けれども大きな可能性を残した

連日の座り込みの締めくくりに「団結ガンバロー」

 このあたりになっても、仕事帰りにかけつけてくれた人がどんどん増えてきます。遠方からこられた人は帰りはじめていますが、新しく来られた人が合流してくるので、いつまでたっても人数が減りません。市役所前の中ノ島公園に移動して、食事をとります。この日はメニュー係入魂のトマトベースのシチューでした。「P-navi info」のビーさんや、「勝つときだってあるだろう」のヒデヨヴィッチ上杉さんの顔も見えます。

 夕食を食べたら、泊まり込み体制の撤収で、誰ともなしに片づけが始まった。布団などをトラックに積み込んだりしているかたわらで、ひとりのおじさんが箒とちり取りを手に、周辺を掃きだしているのが印象的だった。

 後から考えてみると、ずっと行動に参加していたわけでもなく、突然やってきて、何が何やらわからない人間にまで「ご飯あるよ」とみんなが声をかけるのは、あまり「普通」ではないような気がする。 私はただ単にそこを通りがかっただけの人間みたいなものだったが、そんなことにはおかまいなく、そこらにいれば、「ご飯食べや」と声をかけるのが、当たり前だという空気があった。 何一つ差し出していないのに、受け取るだけの人がいることを誰も気に留めていないようだった。

 これが釜ヶ崎の運動のなかで作られてきたものなのか、今回の泊まり込み抗議行動のなかで作られてきたものなのか、なんだか偶然なのか、それは私にはわからないのだけれど、どんな人にでも必要なら分け与えようという雰囲気だった。そこには人の線引きがどこにもなかった。そのこだわりのなさが清々しかった。

 自分たちが生きていく、食べていくための共同作業から生まれるものが、他の人たちにも自然と与えられる。というか、ここでは「他の人たち」という区分けが見えなかった。私はジャック・デリダのいう「歓待」がここにあったような気がする。大阪市から住所を奪われかけている人たち、それによって人間としての社会的な権利を失いかけている人たちのところで、私はとても大事なものを分けてもらってきたと思っている。

(ブログP-navi info「大阪市役所前でご飯を食べさせてもらう」より)

 こういう人々の相互扶助や助け合いの精神が、大阪市や関市長の非道な精神を凌駕してきたことの中に、今回の前進の一番の根拠があると思うのです。前回の長居公園での強制排除抗議の時も食事を用意しましたが、みんなでそれを食べながら「野宿者だけではなく、通りがかった人が誰でも利用できる、お金のある人はお金を出して、ない人は無料で食べる、それもすべて自主申告、そんな食堂を作ろう」という会話がかわされていました。

「心のレストラン」と「モデスタ・ヴァレンティ通り」そして大阪市

 その時まだ私は、フランスの「心のレストラン」という先例があるを知らなかったのです。確かに「心のレストラン」は素晴らしい。特にフランス全土をまきこんで、全国民的な協力があった点がすごいと思います。ひるがえって未だに野宿者への襲撃事件を頻発させている日本人に、これほど大きな「野宿者支援」を行う能力があるだろうかと思うと、暗い気持ちにならざるを得ません。

 イタリアでは「モデスタ・ヴァレンティ通り」という、行政の書類の中にしか存在しない架空の地名があります。住所をもたない野宿者たちは、この架空の土地に住民登録することで、各種の行政サービスにアクセスすることが可能になっています。ちょうど関市長がやろうとしていることの正反対の政策です。今や全世界的にホームレスを援助し、貧困と闘うことが課題になりつつあります。

 この世界的な流れに対し、日本では正反対に貧困を助長し、ホームレスを叩くことが日常茶飯です。どこの国でもボランティアのメニューには、当たり前にホームレス支援があります。しかし日本のボランティアのメニューにはない。それどころかホームレスのみならず、それを支援しているボランティアにさえ、偏見の目が注がれてきたのがお寒い日本の現状です。フランスではホームレスを支援する人には税制上の優遇措置(コリューシュ法)まであるというのに。

 けれども、日本にだって、誇るべき素晴らしい側面があります。このような迫害や弾圧よってむしろホームレスやそれを支援する人々は鍛えられ、野宿労働者自身の手による運動が主体となりました。支援のボランティアはそれを外から「助けてやる」のではなく、むしろ自分たちの社会ではすたれてしまった、野宿者や貧困の労働者たちのいたわりあいと相互扶助の精神を学び、人間として尊敬し、そこに連帯していく、そういった質が高くて、それにふれる人々を魅了してやまない運動に成長しています。

 フランスも「ホームレスの人々との連帯」を掲げていますが、日本ではさらにホームレスなどの貧困者自身が主体になることにより、最初から実践的に「施し」の思想を乗り越えているのです。なんとなく「日本のクリスチャンは数が少ないかわりにすごく質が高い」というのと似ている話かもしれません。今後は「質をうすめて大衆化する」のではなく、この高い質を維持したまま、逆に社会全体の質のほうをを向上させていくような形での「広がり」が求められると思います。日雇い・野宿者運動には、そういった無限の可能性を感じます。

 関市長や公安刑事の、弱いものにばかり向けられる自己保身(しかも権力をふりかざした)には、本当に同じ人間として絶望しますが、決して未来や日本や人間を諦めることなく、尊敬すべき野宿者や貧困労働者の実践にこそ学んで生きていきたいと思います。

資料

資料1)市議・府議・国会議員が関大阪市長に提出した公開質問状

釜ヶ崎住民登録職権消除についての緊急要望書及び公開質問状

大阪市長   関 淳一 様

釜ヶ崎の炊き出しを支援する会

挨拶する小沢福子さん

【世話人】
豊中市議会議員 一村和幸
大阪府議会議員 小沢福子
高槻市議会議員 松川泰樹
川西市議会議員 北上哲仁
能勢町議会議員 八木 修

【賛同人】
衆議院議員 阿部とも子
衆院議議員 辻元清美
尼崎市議会議員 塩見幸治
伊丹市議会議員 高塚ばんこ
宝塚市議会議員 古谷 仁
箕面市議会議員 中西智子
高槻市議会議員 野々上愛
向日市議会議員 飛鳥井佳子
島本町議会議員 南部由美子
吹田市議会議員 池渕佐知子
豊中市議会議員 入部香代子
加茂町議会議員 曾我千代子
元大阪府議会議員 山中紀代子
箕面市議会議員 北川照子
元衆議院議員 植田むねのり
宝塚市議会議員 大島淡紅子
茨木市議会議員 小林美智子
茨木市議会議員 山下慶喜
木津町議会議員 呉羽真弓
川西市議会議員 小西佑佳子
守口市議会議員 三浦たけお
門真市議会議員 戸田ひさよし
寝屋川市議会議員 吉本ひろ子
箕面市議会議員 牧野直子
川西市議会議員 宮坂満貴子(順不同)

 私たちは、釜ヶ崎の炊き出しを支援している市民団体です。
 貴市は、昨年12月、釜ヶ崎解放会館への住民登録報道を受けて、「住民基本台帳法に基づいて適正化を行う」として、住民票の職権消除をすると発表しました。そして、3日2日を期限とし、実際に住んでいる場所を届け出ない場合、登録抹消を強行するとしています。

 日雇い労働者は、解放会館への住民登録によって、国民健康保険の加入、郵便局・銀行の口座開設、運転免許証の切り替えにはじまり、就労、日雇い手帳の交付、特掃(高齢者特別清掃事業)登録などの行政サービスを受けています。住民票の職権消除は、日雇い労働者の生活実態を無視した措置に他ならず、行政サービスの切り捨てを意味しています。

 また、住民票の住所と居所が違うのは、日雇い労働者・野宿者に限られた問題ではありません。悪質な消費者金融からの借金やDVなど、諸事情で実際の居所では住民登録できない人もいます。長期にわたる遠隔地への派遣労働を余儀なくされている労働者や単身赴任者、国会議員、海外赴任者や学生など、現在の社会状況の中で住民票の住所と居所が違う人もたくさんいます。

 私たちは、今回の大阪市による釜ヶ崎解放会館、NPO釜ヶ崎支援機構、ふるさとの家で住民登録している人々に対する住民票の職権消除は、日雇い労働者・野宿者の基本的人権を奪い、弱者の切り捨てであり、釜ヶ崎に対する差別であると考えます。また、住民票と居所が違う全ての人々の基本的人権を奪うことにつながるものであり、看過できない問題と考えています。
 私たちは、大阪市が3月2日を期限として強行しようとしている住民票の職権消除をとりやめるよう強く要望するとともに、大阪市に対し下記の公開質問を行います。

-記-
1、 今まで、住民登録を認めていたのはなぜか。これは、誰の責任で行ってきたのか。
2、 なぜ、今、職権消除を行うのか。
3、 現在の住民登録で行政上どのような問題があるのか。
4、 大阪市には、住所と実際の居所が違う海外赴任者、単身赴任者、国会議員、学生など、社会状況 が生み出した住民票の住所と居所が異なる市民が何人いるのか。
5、 彼らに対して全て職権消除を行うのか。

 以上の質問に対して、2007年3月10日までに書面にて回答されるよう要求いたします。なお、この問題は国民全体の問題であると考え、多くの国民に訴えて大阪市の人権侵害の責任を追及していくことを申し添えておきます。

資料2)2日当日に提出された申し入れ書

申し入れ書
大阪市長 関淳一殿

2007年3月2日

本日、大阪市は、釜ヶ崎解放会館や「ふるさとの家」などに住民登録している、日雇・野宿労働者の住民票の消除を行う事を、3週間延期すると言明した。しかしながら、3週間後、住民票を消除するかしないかという点については、ただ単に「対応する」と言うあいまいな言葉で、大阪市は態度を明確にしていない。
ともかく、この3週間という期間の設定は、あくまでも、この4月に行なわれる選挙の前に住民票を消除したいと言う、大阪市の強い意志を感じざるを得ない。
よって、以下の3点について申し入れる。

1)住民票削除の延期期間を、3週間とした理由を明らかにされたい。
2)3週間後の対応の具体的内容について明らかにされたい。
3)飯場に長期滞在したり、長期間入院している労働者に対して、今回の住民票消除の件をどの様に伝えるのか、明らかにされたい。

釜ヶ崎労働者の住民票強制消除に反対する有志一同
連絡先:釜ヶ崎解放会館TEL:06-6631-7460
FAX:06-6631-7490

資料3)釜ヶ崎現地で労働者にまかれたビラ

3週間延期?!大阪市は「住民票削除」をあきらめてない! 関市長よ、釜ヶ崎労働者を人間あつかいしないのか!

釜ヶ崎労働者の皆さん、お早うございます。
今週26日(月)から、きのう2日(金)までの5日間、大阪市役所前での野営闘争をやり抜くことができました。

とりあえず、きのうでいったん市役所前から撤収しました。雨風にさらされて、大変でしたが、釜ヶ崎労働者の誇りと団結をもって、「ワシらの生きる拠り所である住民票を勝手に消すな!」という怒りを、大阪市に叩きつけることができました。「3月2日で住民票を削除する」という関市長のたわ言も阻止できました。お疲れさまでした。

3月1日に大阪高裁は、解放会館に住民登録しているKさんの仮処分の求めに対して、「大阪市は、Kさんの住民票を職権で消したらアカン」と認めました。これで大阪市は、住民票削除を断念するほかに、道はないはずでした。

ところが、大阪市はきのう2日、「ドヤでも住民登録できる。その事を3週間かけて宣伝する。西成区役所に相談窓口も設ける」と発表しました。それも外で待っている労働者よりも先に、記者発表をするという、イヤらしいやり方です。
つまり、大阪市は「裁判所がイランこと言うてきよったから、しゃあない。3週間延期や」と、まだ住民票削除をあきらめてないのです。どこまで釜ヶ崎労働者をナメたら気がすむんや!やっぱり、大阪市のやることは油断できん!

「エエかげんにせえ!」ということで、市役所に次の3点を申し入れました。1)延期するのが3週間て、その理由は何やねん?2)3週間たったら、具体的に何する気なんや?3)飯場に長期滞在したり、長期間入院している労働者に対して、今回の住民票消除の件をどうやって伝えるんや?

この3つの申し入れに対して、来週中に回答を出して、30人程度での話し合いに応じると大阪市に約束させました。今後の取り組みについては、またこのビラでお知らせします。

きのう、皆さんから集めた2471筆の署名を、大阪市に叩きつけました。たった2週間でこれだけの人が、「釜ヶ崎労働者の住民票削除なんて許されへん!大阪市は人権侵害をやめろ!」という声に賛同してくれているわけです。元気が出てきます。

釜ヶ崎労働者のたたかいは、みんなが注目してくれています。たたかいの先行きは長いですが、これからも私たちは、皆さんとともにたたかっていきます。

2007年3月3日

上記ビラのPDFファイルはこちらです

資料4)高裁決定を引き出したKさんの掲示板への書き込み

ど、ど、どうもKです。ウロウロしていたらここにたどりつきました。とりあえず権力に一泡吹かせることができてよかったとです。記者会見では、関の行為が国賠法一条にいう過失に該当することを縷々述べたのですが、見事に紙面では無視されていました。

というわけで、権力は、大阪高裁が、ドヤ組合との居住実態を確認するためのルールが周知されていないと判示したことを逆手にとり、そのルールを3週間以内に周知させたうえで、解放会館からドヤに住民登録を移動しない者の住民票については消除すると発表しました。でも、この決定は、前回の決定よりますます違憲・違法性が高いものなんですよ。

まず、今回の裁判は、一定の投票区に生活の本拠を持ちながら、その投票区に一定の住居を持つことのできない建設労働者に対する選挙権の制限の合憲性が争点だったわけです。

で、大阪高裁は(地裁もですが)、1年のうち5割から6割程度、釜ヶ崎のドヤに居住し、その他は各地の飯場に出張に行っている労働者については、釜ヶ崎において行使可能な選挙権を有していると判示しました。そうすると、本年の3月から本年の5月まで飯場に出張に行っている労働者は、確実に釜ヶ崎において行使できる選挙権を有していることになります。

その点、私は、3月2日にされた権力の記者会見に一之瀬さんと潜入し、市職員に対し、投票日の4月8日に飯場にいる者の選挙権の行使の可否について質問しました。すると、市職員は飯場にいたら投票できない、と回答しました。私が、日帰りで帰ってきて投票したらええやん、と言うと市職員は黙秘してしまいました(笑)。

大阪高裁は、釜ヶ崎を生活の本拠として飯場で稼動する建設労働者の選挙権の制限を禁止したのですが、権力は、現実に飯場に出張に行っている労働者には選挙権を行使させないとなんとも間抜けなことを言うのです。また、これまでは、出張先の飯場から西成区役所選挙管理委員会に不在者投票宣誓書・請求書を郵送し、投票用紙を飯場に送ってもらうことで、飯場近くの投票所で投票することができましたが、3月2日にされた決定ではそれらのことも確実にできなくなるのです。

飯場にいる建設労働者が飯場での仕事を中断したうえで釜ヶ崎に戻らなければ選挙権を行使できないというのであれば、その建設労働者が選挙権の行使に躊躇・萎縮することは極めて自明です。よって、3月2日の決定が、憲法14条、15条に重大に違反することは明らかと言えます。

また、権力による不当な住民票の消除処分については、本来であれば、裁判所の救済を求めることができるのですが、投票日からわずか2週間前にされる処分について、投票日までに裁判所の判断を求めることは極めて困難です。即時抗告することは絶対に不可能でしょう。期日前投票に限っていうとわずか1週間前の処分になってしまいます。よって、3月2日にされた決定が憲法32条にも重大に違反することは明らかなのです。

というわけでありまして、権力は、選挙無効の原因になるから、我々の住民票は消除しなければならない、と繰り返し主張してきたのですから、このまま住民票の消除処分を阻止続けたら、4月8日の市議会選挙を粉砕できるかもしれませんね(笑)。

戸田ひさよしHP、「ちょいマジ掲示板」より)

コメントを見る

  • 私も、2日に、職権消除を行なわないことを求めて大阪市市民局に請願書、大阪市会に陳情書を提出しました。住民登録は参政権、生存権などが保障されるために必要な手続き的制度であり、やむを得ない事由がある方には法令の運用において配慮がされるべき旨、指摘しておきました。

  •  薬疹で非常に辛い状態なのに長文の報告記事の作成、本当にご苦労さまでした。

  • 余りにも当たり前の結論ですが、権利とか自由ということは、闘わない限り守ることも勝ち取ることもできないということが、よく分かります。
    そして、歴史の主人公が無名の民であるということも。

  • 草加さん、臨場感のある報告、食い入るように読みました。そして、泣きました。住民登録を消されそうな人々は、明日の私の姿かもしれないから。現場に身体を持っていくことのかなわない私ですが、せめて声は届けたい。

    ところで、私、大阪市役所職員でなくてよかったです。良心に反する仕事をさせられて精神状態がおかしくなってしまったかもしれません。逆に、自分の生活のために良心を曲げてしまい、そのことが一生の汚点になっていたかもしれません。

  • 玲奈さん>
    労働者たちは、市の職員は敵ではないと、みな口々に言っています。もちろん個別の労働者によって考え方や温度差はありますが、運動全体としてはそうです。大阪市のやっていることはには怒るけれども「罪を憎んで職員を憎まず」というところでしょうか。

    しかし今のところ、それは労働者たちの「片思い」に終わっています。大きな声では言えないけれど、市役所の内部からは、いくらでも心のある職員たちの、関市長のやり方に対する疑問や恨み節が聞こえてきます。ですが組合がリストラの脅しで首根っこを押さえられていることもあり、それが声ある声にならない状況です。

    確かにストレスがたまっておかしくなりそうな状況ですね。心のない人形になって、上の言う通りに自己保身していかないと生きていけない。役所に限らず日本中がそうなっているのかもしれません。

  • 土岐さん>
    ご自身のブログで「人間がもっともよいときに時折成しとげるかもしれないことにあるよりもむしろ、人間がもっともわるい時に害悪となる機会をできるだけすくなくすること」というハイエクの左翼批判の言葉を紹介しておられましたね。大阪市の職員や公安刑事を見ていると、確かに政治とはそういうものかと思います。

    しかし同時に日雇い・野宿労働者が「成しとげ」ている無償の相互扶助などを見ていますと、やはりどうしても「左翼の夢」がうずきますね。こういうものが社会の主流になるということを夢見てはいけないのだろうかと。

    「無名の民」が「権利とか自由を守る」闘いの中に「時折成しとげる」ものとしてしか、そういうものは成立しないのだろうかと。「もっともわるい時の害悪」と闘うためには、こちらがそれを道徳的に凌駕して対置するだけのイデオロギー(価値観)を持つことはやはり必要だとは思います。問題はそれができるだけ穏健で寛容であるべきということなんでしょうか。