村上裁判長、「だまし討ち的」に「結審」強行!
弁護団は「忌避申し立て」
…12/3テント裁判・第9回弁論傍聴報告 山城 峻
衆議院選挙公示の翌日、かつ秘密保護法の施行を1週間後に控えるという政治的激動の真っただ中の、12月3日(火)15時から16時過ぎまで、東京地裁101号室でテント裁判第9回口頭弁論がひらかれた。裁判は被告=テント側からの書面提出とその説明、福島の亀屋幸子さん陳述など「順調に」進行するかに見えたが、閉廷直前、村上正敏裁判長(民事第37部)は突如「弁論終結」を「宣告」し、被告側弁護団の「忌避申し立て」の声を背に法廷を立ち去った。
判決内容を予告するかのごとき強引かつ不当な「結審」強行であり、その後の報告集会では、裁判長の訴訟指揮への疑問と怒りの声が上がった。そして、今後予想される裁判闘争の展開、特に「忌避申し立て」への裁判所側の対応、予想される判決の内容、さらに今後のテントの維持・存続と発展のための方向性などが熱心に質疑、討論された。テント裁判はにわかに緊迫の度を強めその帰趨は楽観を許さない。すべての皆さんがテントの維持と裁判勝利のための闘いに結集されんことを改めて心から要請したい。
不退転の決意を持ってテントを守り抜こう。
第9回弁論は3時に開廷された。なお、今回は前回の法廷で当事者参加をした43名中陳述を行う亀屋さんをはじめ6名が法廷のバー内に入った。冒頭、被告=テント側弁護団が多数の書面を提出、書類の確認などこの間15分ほどかかる。通常ならここで裁判長から苦情や注文が付くのだが、どういうわけか特に文句も言わなかった。あとから考えると、最後は「結審」強行との腹積もりで、多少の時間的ロスには「寛容」な態度を示したのであろう。この後、各弁護士から、提出書面についての弁論がなされた。
まず河合弁護士が自らの初監督作品で証拠として提出した映画『日本と原発』について説明した。福島原発事故における経産省の責任、再稼働の不当性、「原子力村」における経産省のもつ悪しき影響力などを詳しく実証したこの映画を裁判官がしっかり見るよう訴えた。河合弁護士の22年間の、また海渡雄一弁護士の30年以上の原発訴訟の経験・知見を踏まえ、文字通り心血を注いだ作品を証拠として提出したのである。
ついで大口弁護士が、「原告=経産省による『土地占有者は正清・渕上の被告2名で、他は補助者である』との主張は虚構に過ぎない」ことを論証した。具体的には、原告が提出した「証拠」で正清氏とした写真の人物は全く別のA氏であったこと、また経産省は不断にテントの監視・情報収集を行っているにもかかわらずビデオを証拠として出さないなど占有者についての直接的・現実的証明ができないでいること、第二テントの設立・運営は福島の女性・母親たちを中心になされており2人の指示や関与はないこと、さらに「仮処分命令執行調書」の記載は不正確で信頼に値せず、仮に正確であったとして「被告2名」が占有者としては特定し得ないこと等、経産省側の主張に対して詳細に反論した。
続いて、長谷川弁護士から、本件「テント設置」の土地が本来的に「歩行者・通行者の小休息のためのポケット広場・小公園」であること、それゆえ経産省の行政財産ではあっても、事実上の敷地外で国の損害や行政事務の阻害などあり得ないこと、そのような土地について賃貸評価をもとに計算し1日2万円の損害賠償を要求するのは不適切極まりないことが述べられた。原告=経産省の主張の不当性はこの点でも明らかにされたのである。
そのあと、青木弁護士は、「原子力立国」政策の策定と実施、「安全神話の流布」等、福島事故に対する経産省の責任をその職務、組織・機構などの面から総括的に明らかにし、さらに現在の再稼働推進政策を厳しく批判した。そして、「テント広場はそのような経産省に対する国民の異議申し立て・意見表明の場としてあり、それを阻害するこの訴訟は原告=経産省の『訴権の濫用』に他ならない」と断じた。
以上、いずれの弁論も時間の制約の下ではあったが、きわめて説得力に満ちて、聞き応えがあった。
弁護団の弁論のあと、福島県双葉町で被災して現在も港区に避難生活を強いられ、この裁判に当事者参加を申し立てた亀屋幸子さんが約15分の陳述を行った。亀屋さんの陳述は2011年3月11日午後2時44分、地震に遭遇しての避難、その後の「放射能漏れ」からの避難、その過程での寒さ、衣服・食糧の欠乏、情報の不在、住宅難等「地獄の始まり」ともいうべき過酷な体験を切々と語るもので、聞くものみな心を打たれた。しかも、その間東京電力や政府は何もしてくれず、自分の身は自分で守るしかなかったとの話は、改めて事態の深刻さ、東電や政府の無責任さを痛感させた。
同時に亀屋さんが、絶望していた自分が、反原発・脱原発のデモや集会のことを聞き「がんばっている人たちがいる」ことを知り、また「テントを訪れ、最初は泣いてばかりいたが、話を聞いてもらい少しずつ気持ちが落ち着いて、やはり自分で考えなければという気持ちになった」、「テントに支えられて自分は立ち上がれるようになった」、「ふるさと双葉町は東電に奪われたが、テント広場は第二のふるさとだ」と語った時、法廷は深い感動に包まれた。被災者の心からの叫びは裁判官にも、そしておそらくは経産省側代理人にも届くものと思われた。
亀屋さんの陳述の余韻の残る法廷で、次回法廷をめぐる確認に入った。テント側から一瀬弁護士が(1)「排他的占有の実行者」についての原告側の立証は『仮処分命令』の執行官の記載だけか否か、(2)「ポケットパーク」の図面変更(仮処分請求時と直後の補正書による変更)について、それぞれこの間のテント側の書面・弁論での反論・実証を踏まえて、原告側の反論の有無などの確認をするよう裁判長に求めた。ところが、裁判長は言を左右にして民事訴訟法の条文に触れながら曖昧な態度に終始、経産省に与する法廷指揮を行い傍聴席の不信をかった。
なお原告=経産省側はこの間法廷で一切弁論も反論もせず、一瀬弁護士の追及にも「これ以上の反論などは予定していない」と答えるのみ。原告でありながら法廷で弁論もしないというこの不可解さ、まさにカフカの『審判』を想起させる「不条理」とでもいうべきか。
さらに一瀬弁護士が今後の人証尋問につき11人の証人と2人の当事者尋問を請求すると、裁判長はそれには答えずに、経産省側代理人の発言を促し「本日をもって弁論終結を望む」との発言を引き出し、突如「合議・休息」を宣言した。約5分後に再度出廷した裁判長は、「被告側からの証人・証拠調べの要求は却下する」と発言、これに対し長谷川弁護士がただちに「忌避」「忌避」と繰り返し発言して立ち上がった。しかるに裁判長はこれに耳を傾けず、「本日をもって弁論を終結」と宣告しかけ、被告側弁護団の「忌避申し立て」の声と傍聴席をも含む「却下はおかしい」「審理を続けろ」の声を背にこそこそと、法廷を立ち去った。それまで被告側にそれなりの「配慮」を示し、今回も亀屋さんの陳述を認めるなどの訴訟指揮をしていた裁判長であったがゆえに、被告・支援者は一瞬唖然とする事態であった。
この間に法廷には裁判所衛視が多数入り込み、怒り抗議する傍聴者の追い出しにかかった。開廷前の廊下に普段よりもはるかに衛視が多いことを感じたが、それもまた「結審」強行の伏線だったことに、思い当たった。弁護団は閉廷後直ちに抗議と再度の忌避申し立てを行ったが裁判長は雲隠れして現われなかった。
それにしても、弁護団の説得力に満ちた弁論、そして聞く者の心を打つ亀屋さん訴えを村上裁判長はどのように聞いていたのであろうか。また、裁判の最も基本となるべき証拠・証人調べをおろそかにして真っ当な判決が出せるのか、しかも弁論の前にあった進行協議では裁判長自らが次回弁論期日を2月26日に設定していたという。まさしく「だまし討ち」ともいうべき結審の宣告である。時間がたつに従い怒りが高まるのを禁じ得ない。
参議院議員会館に所を移して約2時間の報告集会は、当面の裁判の進行とテント維持・裁判闘争勝利のための闘争体制の構築に向けて質疑・討論が集中した。
冒頭、「被告」渕上さんから「何があっても脱原発の大きな流れは変えられない、川内でも反対意見はじわじわと広がっている」との挨拶、また「川内の家」で現地の闘いを担う岩下さんから「川内原発再稼働を実際に止める闘いが求められている、そのための具体的な方策の検討を行っている」との強い決意表明を受けた。さらに「原発いらない福島の女たち」の勝又美佐子さんが発言し、今回の法廷での裁判長の落ち着きのなさと、対照的な原告=経産省側の「余裕」の態度を指摘した。勝俣さんはまた知事選を巡る福島の世論の動向や、現在の福島の人々の声に表しがたい複雑な思いや苦しみについて語った。
本日の事態については主に大口弁護士が説明し、河合弁護士からも補足的発言があった。
(以下は、これらの説明と質疑応答の中で明らかになったことの概要)
1)裁判長は結審を強行しようとした。
2)弁護団は裁判官忌避申し立て(憲法32条…「何人も、裁判所において裁判を受ける権利は奪われない」、に基づく公平な裁判を求める請求)をしたので、現在は裁判の進行は停止した状態。
3)ただし裁判部書記官?は「弁論は既に終結した」との認識で、今の司法の状況の中で、忌避申し立てが通る見込みは残念ながら立たない。いずれ判決日が指定される。
4)結審強行からして判決内容も想定される。それには経産省の「仮執行宣言申し立て」を認めて「仮執行宣言」が付く可能性が高い。その場合はテント側が控訴・上告していても撤去できてしまう。
5)仮執行宣言を認めさせない闘い、裁判の結果がどうあれテント撤去をさせない闘いが求められる。困難さを直視しつつ、「現場に身を置く」=テント防衛の闘いが必要となる。社会的に訴えてテント撤去が出来ないような状態を作り出すことも不可欠であろう。
6)目の前の事態に一喜一憂せず「正義は我にあり」の確信を持って、しぶとく、しなやかに闘おう。仮に地裁で敗訴になり仮執行宣言がついても、仮処分への異議申し立てという方法もある。
7)大きな目的は日本から原発をなくすことである。すでに裁判所も原発の再稼働差し止め訴訟などで「原発は安全だ」とは言えなくなっているし、「避難対策もないまま(規制委員会の再稼働についての)許可がおりるはずがない」との認識を持っている。
裁判所が三権分立、権力の相互抑制という建前さえ自ら放棄し、行政の僕と化すことを許してはならない。大衆的な結集をもって反撃の闘いを展開しよう、既にテント村は12月4日には弁護団・「被告」合同での記者会見を行い、東京地裁村上裁判長の不当な訴訟指揮を社会的にアピールし、改めてテントの存在とテント裁判への関心と支援を呼びかけた(12.5付 東京新聞参照)。また、同日5時から6時の間には氷雨降る東京地裁前で、村上裁判長の「不当結審」を糾弾し、弁論再開を求め、テントの正当性を訴える集会を貫徹した。
弁護団の奮闘とともに「被告」・支援者一体となって弁論を再開させ、証拠・証人調べを実現させよう。審理が進めば進むほどテントの正当性は明らかになり、経産省の理不尽さ、不当性が暴露されるであろう。テント裁判開始時、300~400人規模で傍聴希望者が結集したあの態勢を再現・拡大し、東京地裁・経産省を包囲・糾弾し、なんとしても弁論再開を実現しよう。
世論調査等でも「脱原発」「再稼働反対」の声が圧倒的多数であり、経産省前テントは3.11以後の日本の反原発・脱原発運動の「シンボル」的存在としてあり、その意義は国内のみならず国際的にも認知されている。裁判所・経産省一体化しての「結審」強行によりテント包囲網は確実に狭まり、情勢は緊迫の度合いを増している。今こそ、改めてテントの意義を訴え、経産省を追い詰めようではないか。
心あるすべて皆さん、テントに結集されんことを心から要請する。改めてテントに心を寄せ、1時間でも2時間でもテントに立ち寄っていただきたい。皆さんがテント前に座り、そこでともに語ることがテントを守り発展させる道であり、さらには、再稼働阻止、脱原発を実現する道である。
心を一つにして、ともに闘おう。
(2014.12.6記)