補足
1.この問答集は1986年に出版された『戦旗派理論の基礎』という本の再録です。内容は80年代当時、新左翼(過激派)が、街頭や運動現場でよく聞かれた質問とその回答をまとめたFAQです。
2.右派との論争ではなく、一定の反戦意識や左翼運動への関心をもつ一般大衆を読者層として想定しています。
3.冷戦構造を前提に書かれた時代的な制約があるため、現代の情勢を加味して一部に加筆・訂正を加えました。時事性が強い部分については、あえて「歴史的な文書」として当時のまま掲載します。
4.原本の発行元である戦旗派(戦旗・共産主義者同盟、俗称:戦旗日向派)は現存しません。現在も機関紙『戦旗』を発行しているのは、文中に「アダチグループ」の名前で登場する「戦旗西田派」の後継組織、「共産主義者同盟統一委員会」であり、別組織です。
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連載中(現在100+3項目のうち29項目まで掲載済み)
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私が活動家だったある日のことです。本部から提起された定例会議の議題の中に、「一問一答集について」という項目がありました。
「なんじゃそりゃ?」と思ってよく見てみますと、どうも埼玉あたりの支部の方々が、日常活動で大衆からよく聞かれるような項目とその回答をまとめた冊子を手作りし、オルグ(大衆の組織化)活動に使っているという。つまり今で言うところの「FAQ」みたいなものですね。で、それが本部活動家の目にもとまり、「これはいいじゃないか、まとめる過程でみんなの勉強にもなるし」ということで、いっちょ全員でやってみないかという提起でした。
なーんか、めんどいな(笑)と思いつつも、そういうものの有効性はよくわかるので、うちの地区―支部でも各人があいた時間を見つけて作成に取り組みました。自分でよく聞かれたり疑問を持たれたようなことを質問にして、それに対する短い回答をつけていきます。読者対象は左翼運動について何も知らない一般の方。確かに勉強にはなりましたよ。物事を簡単にわかりやすく説明するためには、そのことについてかなり深く調べて知っていないと書けないもんです。左翼用語をちりばめて小難しく書くほうがよほど簡単なんですよね。
そうやってみんなが書いたものを、地区で冊子にして回覧しました。なかなか面白かったですよ。同人誌の感覚かな(笑)。もちろん本部にも送りました。本部では各地区から集まった一問一答集から抜粋して、内部機関紙である「闘う労働者」に掲載したように憶えています。残念ながら私の作品は「入選」しなかったように記憶していますが。
この「戦旗派理論の基礎」という本は、それから数年後に本部活動家も加わって編集された「決定版」です。最初にこの書名を見た時に「ページ数も薄いただの一問一答集なのにこのタイトルは羊頭狗肉ではないか」と思いました。ですが、よく読みこんでみますと、各回答に参考文献も付されていて、この本でだいたいの方向性みたいなものをつかんだ後、参考文献の当該論文を読み、さらにそこに引用されたりしているマルクス・レーニン主義の古典に進むという感じで使えば、この本は非常によくできた「学習ガイドブック」になっていることがわかりました。まあ、そのことがわかるためには、多少は左翼的・戦旗派的な知識が必要だとは思います。
本書の目的は二つあったと思います。一つはオルグや情宣の現場で一般大衆の質問に要領よく答え、討論を組織していくためのガイドとして。そしてもう一つは組織メンバーが理論学習をする際に、その「学習のお供」としての使い方です。ここに載っている質問やその派生項目は、わりとよく聞かれたことですので、その意味では「役に立った」とも言えますが、まさか現場で実際にこの本を見ながら回答するわけにもいきませんので、そこはまず自分が学習するためにこそ役にたったという感じです。
現在の読者の皆さんの中には、「こんな質問をする『一般大衆』なんているのか?」という疑問を持つ方もおられるかもしれません。しかしそこはそれ「オルグや情宣の現場」での話ですから、ある程度は漠然とした反戦意識を持った人が対象であり、また、新左翼運動に対する一般の人の知名度や同情心も今よりはあったわけです。若い人が成田空港で反対運動があったことすら知らない今とは違うのですよ。特に「内ゲバについてどう思うか?」や「分裂ばかりしないで統一して闘うべきだ」というのは本当によく聞かれました。
ですからこの本は、もう箸にも棒にもかからないようなゴリゴリの保守派や右翼的人士、左翼に強い偏見や敵対心を持っている人と「論争」することを目的にした本ではありません。あくまでも当時の時代状況の中で、一般の方々の疑問に答えることと、メンバーの学習のガイドを目的に編集されています。そういう意味ではあなたの期待に応えるような項目はないかもしれません(爆
まあそりゃいろいろありますよ(苦笑)。それに今の人に見せたら基本的には「こういう人はこういう反応をかえすだろうな」というのはだいたい今から予想がつきます。
それにたとえば「世界共産主義」とか、現在的には絶望的に遠い希望というか、むしろこれをストレートに見せたらカルト扱いだろうなとか。しかし、別にそんな内容でもってストレートに訴えたり活動していたわけではないですしね。こういうことが問題になるのは自分の死後の時代だろうと思っていたし。
それよりも、当時(80年代)と現在の社会状況が、ほとんど何も変わっていないことに驚きをおぼえます。もうソ連もなくなったというのに……。本書で出てくるテーマも改憲だの核武装だの教育改悪だの靖国だの、さらに民衆や反戦運動に対する警察の弾圧体制、民衆に対する犠牲のしわ寄せなど。いくつかの国名や政治家の固有名詞を入れ替えれば、そのまんま今でも使えてしまうような文章が多い。要は「変わった」のは左翼だけであって、世の中は一歩も進歩していないということなのか?
これは思うに当時の中曽根政権がはじめた「改革」が、小泉―安倍政権でいよいよ具体的に完成の域に達してきたということなんだろうと思う。中曽根時代には掛け声や理念先行ではじまったものが、小泉以降でいよいよ私たちの身近に目に見える形になってきたということでしょう。自衛隊の海外出兵も当たり前のようになってしまった。
思えば当時の私たちは「中曽根ファシスト政権」と規定し、この打倒を訴えた。しかし左派陣営でもこの規定は大袈裟で政治的な言い回しだと思っている人が多かった。ところが実際に私たちが当時に「中曽根政権はこういうことを狙っている」と訴えていた内容は、その後次々と現実のものとなっていきました。国鉄分割民営化も、私たちは「闘う労働運動と総評‐社会党ブロックを壊滅させるためにやっている」と主張しましたが、近年になって中曽根さん本人が「それを目的にしてやったことで成功だった」と自分の口で語っているのを見て驚きました。
また、当時の活動家はおしなべて「若者の無関心」に手こずっていました。みんなが無関心でいるのをいいことに、どんどん戦争体制が進んでいるんだという言い方をする人が多かった。そんな中で私たちは、若者の無関心を中曽根政権は喜んでなどいない。人々が無関心でシラケている間は戦争なんかできないんだ。そうではなくて中曽根は若者の無関心を上から切り崩して右翼的に集約することを狙っている。それが教育であり靖国で天皇制なんだという言い方をしました。これにも他の活動家の人は「無関心の美化」みたいに言って反発しました。ですが結果としては私たちのほうが正鵠を射ていたわけです。
他にも、今「過激派」にかけられている弾圧は、やがて一般の人々にも当たり前にかけられるようになるだろうみたいなことも言っていました。これもその通りになりました。あと、当時の「予言」でまだ成就していないのは改憲と核武装くらい。これもそのうち…危ないですね。
とにかく敵の動向や狙いについては見事に洞察され、ほぼ的中しているので、パラパラと読んでいてもかえって憮然としてしまいます。ただ、味方の勢力や未来の展望については大はずれもいいとこです。人民は決起しませんでした。そこが問題なんですね。
ただ、これは左翼側の主体的な問題、すなわち人民から信頼されるような主体になれなかったということであって、責任や原因を人民の側に負わせるのは違うような気がします。だって自称「前衛党」がいなくなったり弱くなったことで、かえっていろいろな希望や可能性が見てきていると思うから。左翼的には全く絶望するような状況ではありません。私なんかかえってワクワクするくらいの毎日です。
もちろん左派全体はいまだにカオスの中にあります。人々の不満は鬱積していますが、それを吸収して吐き出し口を作ることができません。その中から何が生まれるか、それとも生まれないかという楽しみはありますが、「民衆の多数が持っている不満を少数の人間で先鋭的に表現することで支持を集めていく」のが新左翼の得意技だったわけで、その意味ではむしろ今がチャンスだとさえ思うのですがね。あんまり遅れすぎると人々の不満はファシズムに吸収されてしまうのは、歴史の教えるところです。まさにそれが中曽根‐小泉‐安倍だったわけですしね。
(2008年3月23日 草加耕助)
初版まえがき
本書は、八三年十月埼玉地区労共闘、社学同埼玉ブロツクの同志諸君の手によって作成された『激動の80年代と革命運動の方向』『80年代安保―日韓―三里塚闘争の勝利へ向けて』の二つの一問一答集をもとに編集し、一冊の単行本としてまとめたものです。
編集の過程では、八三年当時と現時点における帝国主義の動向や闘いの現状の変化に対応した変更・加筆を行なったほか、旧一問一答集ではふれていなかった、戦旗・共産同の革命戦略、共産主義論など、主として『過渡期世界の革命』改訂版で論じられているイデオロギー的諸問題についての問答も新たに加えました。そのうえで全体を十一項目にわけ、問答の順序も手直しを行い、百問百答集として編集されています。
一問一答という限られた形式の中で、現代過渡期世界論や共産主義論、帝国主義論についても言及しているため、個々の文章の中ではわかりずらい箇所もあると思います。しかし本書でふれている諸内容はいずれも戦旗派の理論、闘い方、物の考え方の基礎をなすものばかりです。必要と思われる答の末尾には参考文献として戦旗派出版物所収の論文をあげてありますので、本書から更にそれらの文献へと進むならば、戦旗派理論の理解もより深められるに違いありません。本書を組織活動において活用する同志諸君にあっては、参考文献としてあげた論文はもとより、さらにマルクス主義の古典文献の学習にも取り組み、本書を十二分に主体化すべく奮闘してもらいたいと考えます。
旧一問一答集は、八三年、党の武装へと着手する過程で作成され、以降多くの同志諸君の組織化の武器となり、新たに結集した同志たちにとって、戦旗派の理論、共同主観を学ぶきっかけとなってきました。以来三年を経て、私たちは今、三・二五ゲリラ・パルチザン闘争の勝利・右翼民間反革命との攻防の中での四・二九―五・四闘争の大爆発をかちとった地平をふま上え・党の武装の新たな段階への突入を果たし、戦略的武装をうち固めつつ、三里塚二期決戦を中軸とする八○年代中後期階級攻防を全カをあげて闘いぬく決意を固めています。本『戦旗派理論の基礎』を通じ、そうした私たち戦旗・共産同の価値観・世界観をより多くの人々が共有されんことを願ってやみません。
ブルジョアイデオローの束縛から自らを解放し、全世界人民の勝利の進撃に応え、共に日本人民の未来を切り拓こうではありませんか!
(1986年8月10日 『戦旗派理論の基礎』編集委員会)
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防衛省の人間と共に立ち上げている「クラウゼビッツ」研究所に清水太吉赤軍指導者は、2006年度まで元立正大学哲学科名誉教授で居られた。
先輩諸氏はやはり凄い
> 防衛省の人間と共に立ち上げている「クラウゼビッツ」研究所に清水太吉赤軍指導者は、2006年度まで元立正大学哲学科名誉教授で居られた。
清水太吉ではなく多吉です。
清水多吉先生はフランクフルト学派の研究者でマルクーゼの「ユートピアの終焉」を翻訳したり、雑誌「情況」に執筆したりと新左翼的スタンスではありましたが、赤軍派とは無関係です