by ジグザグ会/武峪真樹
米国が研究する「米中戦争」の戦略構想が存在する。2010年2月に米国防総省がその存在を示唆し、この構想を研究する統合参謀本部エアシーバトル室等によって内容が逐次公表されている「エアシーバトル」構想がそれだ。また2012年には同盟国各国への構想内容説明と協議が開始されている。この構想は、現在「アメリカ流非対称戦争」へと進化している。
これらは日本語に翻訳され、海上自衛隊幹部学校のホームページ「海幹校戦略研究」に掲載されている。昨年4月の「変革のアソシエ」第2期発足記念講演にあたって、元宜野湾市長で沖縄意見広告運動全国世話人でもある伊波洋一氏がこれらのデータを用いて「米中戦争」の脅威を明らかにした(月刊「コモンズ」71号を参照)。9月19日に安保法制(事実上の「戦争法」)が強行採決で可決された今、この脅威はますます現実味を帯びて我々に迫っている。
米軍が推進するエアシーバトル構想とは、以下のような想定に基づいて立てられている。
すなわち、米国に比較して戦力が劣る中国がもしも戦争を起こすとすれば、西太平洋海域に広く分布する米軍とその同盟国の「前方展開基地」(沖縄の軍事基地など)および米空母部隊などに対して大規模な先制攻撃を加える作戦をとるだろう。その作戦には、通常戦力のほか弾道ミサイル、衛星破壊兵器、サイバー攻撃、ゲリラ戦なども組み合わせて使用されるだろう。
また、その戦争は、中国軍による「アクセス阻止・エリア拒否」が発動された時に起こりうる。これは作戦を展開しつつある敵軍艦船などの接近を阻止し展開を遅らせる、あるいは作戦を妨害するなどの行為である。
そのような脅威に対して米軍側では、それが大規模な核戦争に至る前に決着をつけ、戦争を終わらせようとする構想である。
しかし、戦争は一旦始まってしまったら、思惑通りに終了するとは限らない。双方が所期の目的を達成するまで兵力を拡大させ、軍事行動をエスカレートさせてゆくのは当然のなりゆきであり、その勝敗は予測不可能であるため、短期に終わるとは限らず、長期戦となる可能性もある。
また核兵器を用いず限定的な戦争に留めようとしてもそれがその意図通りになるとは限らない。一方が劣勢を挽回するために最初に局地的に小型核を使えば、次には敵方からも同レベルの報復があるだろう。また「局地戦」に限定していたつもりが、その作戦領域が拡大し、ついには双方が敵の本国へミサイルを撃ち込む事になれば戦争は一挙に拡大し長期化する。
実際、1950年の朝鮮戦争時、米極東軍司令官ダグラス・マッカーサーは北朝鮮軍を支援する中国への原爆投下をトルーマン大統領に進言していた。結局これは受け容れられずマッカーサーは解任されたが、もし核戦争が実現していれば第三次世界大戦が起きた事を想うと、米中両国ともが膨大な量の核ミサイルを保有する現段階では米中戦争の勃発を想定することすら恐ろしい事だ。
実際、「エアシーバトル」構想では中国本土の攻撃も想定されていたが、中国大陸は縦深(作戦領域の縦の線)が深く、撃破するのは容易ではない。また経済発展とともに軍事力を飛躍的に増強させてきた中国本土を攻撃すれば、攻撃に手間取っている間に米本土にも弾道ミサイルを撃ち込まれる危険があるため、中国本土を戦場とすることはできない。そこで、「アメリカ流非対称戦争」へと戦略構想は手直しされてきた。
これは中国海軍の艦隊が黄海から出撃し台湾の東海岸側へと回り込むのを阻止することから始まる。
中国が緒戦で攻撃するのは西太平洋の各地に分布する米軍基地である。それらの基地にそれぞれ何百発ものミサイルが飛んでくれば基地はひとたまりもなく壊滅する。だから米中戦争開始とともに米軍は速やかに基地を捨てて退却することになる。つまり米軍は日本を守ることなど全く想定していないのだ。
防衛省は宮古島や石垣島に自衛隊ミサイル部隊を移駐させ、与那国島にはレーダー基地の建設が進められているが、その目的は台湾へ向けて出撃してくる中国海軍を攻撃する事だ。つまり南西諸島に展開する自衛隊の任務は「日本防衛」ではなく「台湾防衛」なのだ。それは米軍の対中国戦略の下でおこなわれている。
この「アメリカ流非対称戦争」戦略によれば、ひとたび戦争が起こった時、その「戦場」と想定されているのが、日本列島、南西諸島とその周辺海域である。米中両国は互いに相手国本土を直接攻撃はせず、それぞれ互いに安全圏にいながら日本と沖縄という「限定された地域」を戦場として戦うことを想定している。
両国から飛んで来る何千発ものミサイルは日本を焦土と化すだろう。太平洋戦争の時に沖縄が本土の「楯」となって20万人もの犠牲者を出したが、今度はその時の100数十倍の規模(面積比)で日本全土が米国の「楯」となって米国に犠牲を捧げるというわけだ。
2012年、中国・朝鮮連合軍が鳥取に上陸し大阪の占領に向かうという想定のもとで米陸軍と陸上自衛隊による共同図上演習「ヤマサクラ61」が6000人規模で行なわれたが、これはこの米戦略に基づいている。しかしこの演習では決定的なことが忘れられている。それは、上陸地点から大阪へ向かう途中のルートには多数の原子力発電所が存在することだ。
戦争となれば、これらの原子力施設が軍事目標とならないわけがない。原発が破壊されれば数千年もの間、人が住めなくなる。ゴーストタウンどころか、日本が丸ごと「ゴーストステイト」となるだろう。例え戦争に勝っても、それでは無意味だ。
演習は「最悪のシナリオ」を想定してこそ意味がある。都合の悪い障害を無視して行なう「だろう演習」などに何の価値があるだろうか。
日本は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」(日本国憲法前文)これまで平和を保ってきた。それは決して日米安保と米軍によるものではない。「武力で守る平和」では脆いものしかつくれないことは、2001年の9・11テロを見るまでもない。
しかし安倍政権は集団的自衛権容認を閣議で決定し、安保関連11法案を衆参両院共に強行採決で押し通した。これでいよいよ自衛隊は「自衛の部隊」ではなく「攻撃の軍隊」へと変貌し、米軍の傭兵となる準備ができた。
オバマ政権は、安倍政権のこのような積極的軍事化政策を大いに歓迎している。それは昨年2月に兵力と国防予算の大幅削減を発表したからだ。
米陸軍は52万から44万へと削減され、それとは対照的に中国海軍は昨年度新たに50隻の新造艦を進水させた。年間軍事予算も米国のほぼ3分の1にまで高めてきている。
したがって、オバマ政権にとって安倍政権の諸々の軍事化政策の実施は、今後削減される8万の米軍兵力を自衛隊に肩代わりさせる絶好のタイミングであったと言える。
今後、自衛隊は米軍の世界戦略のもとで東アジア地域を担当し、また中東やソマリアなど世界中の戦場へ出かけていくことになる。そして米軍の指揮・命令の下で米兵に代わって「敵」を殺し、また米兵の身代わりに戦死する。まさに「傭兵」だ。
自衛隊の「参戦」、「殺人」、「戦死」の危機が直近に迫ってきている。自衛隊の参戦を阻止しよう!「戦争」法廃案まで闘おう! 安倍政権打倒! 党派・団体の壁を乗り越え、あらゆる力を結集して自・公政権打倒まで闘おう!
(武峪真希)