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 去る12月16日、横浜地裁第6民事部において、公安警察の弾圧被害者が損害賠償を求めていた裁判の判決がありました。判決では被害者側の主張をほぼ認め、公安警察のでっちあげストーリーを全面否定しています。個人をつけ回しては理由にもならない「理由」をこじつけ、まるで駐禁の切符を切るくらいの手軽さで違法逮捕を繰り返してきたここ数年の公安の「悪ノリ弾圧」、その治安機能の劣化(ネトウヨ化)に対し、これを一般の社会常識に従ってちゃんと「違法」と認定し、公安警察の人権侵害に歯止めをかけた意義は大きいと思います。

 今回、「違法」と認定された逮捕容疑は、免状等不実記載です。つまり、運転免許証に実家の住所を記載したまま放置しているから逮捕だというものです。神奈川県警公安三課は、06年10月24日、小田原市に住むAさんをこの「容疑」で逮捕しました。Aさんは10日間も勾留された上、自宅と実家を家宅捜索されました。さらに容疑とは無関係の出版社や左派系団体3箇所も家宅捜索されるという被害にあっています。なお、ここでは先入観をもった色眼鏡で見ず、正しい事実だけを判断していただくために、Aさんが関係している団体については言及しません。

 そもそも大学生や出稼ぎの派遣労働者、さらには国会議員にいたるまで、住民票は自宅や実家に置いたまま別の場所に部屋を借りたりして住んでいる人は膨大な数にのぼります。これを読んでいる人の中にもそういう方は多いでしょうし、ましてやそれが役所の窓口で注意されるような「不備」だとしても、いくらなんでもいきなり逮捕されるような「犯罪」だという認識は社会的にもないでしょう。事実、住民票のある自宅や実家が全くの架空・虚偽の住所だというならいざしらず、そうでない限りは社会通念上も行政手続上もなんらの不都合はなく、普通はそれで何かの問題になることはありません。

 しかしもし、そういう人がたまたま反戦運動や市民運動への参加をはじめたとしたらどうなるでしょうか。一般には信じられないことかもしれませんが、実は日本では公安警察が一般市民を「住民票と違う住所に住んでいる」ことを理由に逮捕し、長期拘留して生活を滅茶苦茶に破壊したあげく、参加している市民運動や反戦運動の事務所や連絡先住所、さらには何の関係もないその人の友人や家族の家までを威嚇・恫喝の目的で家宅捜索するという、露骨な思想・言論弾圧が昔から頻繁に行われてきたのです。

 もし公安警察の諸君がこれを「言論弾圧ではない」と強弁するのであれば、住民票と違う場所に部屋を借りている何十万、何百万人という人間を(国会議員も含め)全員逮捕しなければ説明がつかないのはもちろんです。Aさんはこういう違法な逮捕に泣き寝入りせず、友人たちとの応援で「国賠裁判に勝利する会」を結成し、国と神奈川県(県警公安三課)、そして逮捕・家宅捜索令状を何のチェックもなしに発布した裁判所の3者を被告に、横浜地裁に国家賠償請求を起こし(06年12月25日)、この日の勝利判決を迎えたものです。

以下、判決の内容について、その意義と限界を考察したいと思います。

 判決は、公安警察のでっち上げ逮捕のストーリーを証拠に基づいてことごとく否定した上で、「住民票上の住所を実家のままにしておく例や転居後も住所変更の届出をしないでいる例は世上よくみられることなどを考え合わせると、本件更新の実質は、住民票上、本来の住所の変更手続きをしていないことに端を発したものであり」「犯行態様が悪質なものであったとはいえない」「Aの逃亡及び罪証隠滅のおそれがあるとした判断(=逮捕理由)には合理的根拠がなかった」と認定。「(公安警察が)逮捕状を請求したことについて少なくとも過失が認められるというべきである」と公安警察の政治弾圧の手法を批判し、今後の公安警察の暴走に一定の歯止めをかける判決となりました。

 このように、逮捕を「請求」した公安警察の責任を認める一方で、その請求理由をなんらチェックしないで逮捕や家宅捜索の令状に判子を押し続け、「令状発行マシーン」と化している自分たち裁判所の責任については、あっさりと「違法性はなかった」という結論ありきで、門前払いの対応を行いました。このあたりは「合理的根拠がない」公安警察の逮捕状の請求には明確な違法の故意があったと認定すべきだし、それをチェックなしに認めた裁判所の判断についても「少なくとも過失が認められるというべきである」と思います。

 判決の趣旨を一言でまとめるならば、「何故、たかがそんなことくらいで(個人生活にとって非常に重大な結果をもたらす)逮捕までしたの?本当にそんな必要があったの?なかったでしょ?」ということです。それは私だけでなく、そして思想の左右にも関係なく、世の中の99%の人がそう感じることでしょう。公安警察に媚を売ったり、政治的な判断から思想弾圧を正当化したりせず、そういう当たり前の社会常識に従った判断をしたことは評価したいと思います。

 ただ、判決を手放しで評価することもできません。この裁判の最大の争点は、反戦運動をしている人だけを選抜し、口実をこじつけて逮捕して潰していくという、国家権力による言論弾圧を許さないということだったからです。つまり逮捕した警察にとっては、免状不実記載なんてとるにたらない微罪なんてどうでもよいことだったのです。そうではなく、Aさんがなぜ逮捕されたのかと言えば、与党の政策とは違う考えをもっていたからという理由で逮捕されたのです。それこそがこの裁判の最大の焦点だったのです。裁判所はこの争点については何も答えず、単に「逮捕まですることはなかったじゃないか」という形式的な判断に逃げたと言うべきです。

 公安警察が逮捕まではせず、在宅起訴や書類送検などをもって、ありとあらゆる理由(なんくせ)をつけ、与党と違う考えをもっている国民だけを選抜して徹底的につけまわし、嫌がらせ的な弾圧をおこなってきたらどうでしょうか。この判決では、それを防ぐことができません。一つ一つは外形的に「合法」であろうとも、それがただ単なる思想弾圧の口実として行われる嫌がらせであるのなら、それは総体として違法な言論弾圧行為であることは小学生でもわかることです。それは古今東西の世界中の独裁国家で弾圧の手始めに行われてきた嫌がらせに他なりません。

 付け加えるならば、近年、在日朝鮮人に対しても、公安がらみでこういう姿勢が目に付くことに胸をいためています。私たちが北朝鮮に向かって堂々と抗議や批判をしたとしても、はっと気がつけばその後で在日の方々に執拗な嫌がらせが行われていたとしたら、胸をはって北朝鮮に抗議することができなくなってしまうじゃないですか!それを一部に「そうだそうだ、もっとやれ」みたいに容認し、煽ってさえいる人がいることは、日本人の一人としてホントに恥ずかしい限りです。

 こういうことには思想の左右なんてことは関係ないのです。みんなでしっかりと監視・抗議していかなくてはなりません。

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