1996年サンフランシスコ、第1回チベタン・フリーダム・コンサートの会場で、ビースティ・ボーイズ、ビョーク、オノ・ヨーコらのミュージシャンとともに一人のチベット僧が平和を訴えた。彼の名はパルデン・ギャツォ。中国軍の侵攻に対しチベット民族が蜂起した1959年に、平和的なデモを行ったという「罪」で投獄されたチベット僧である。むごい拷問を受けながら獄中33年を生き抜き、非業の死を遂げた同胞のため、現在も闘い続ける。
「チベットの問題を世界の人々に知ってほしい」と、静かな口調で淡々と語るパルデン。怒りや憎しみの感情を超越し、「人の破滅を願うことは、己の破滅を招く」と、慈悲の心を忘れない彼の姿勢に感銘を受ける。この映画は、パルデン・ギャツォの苦悩の人生を通してチベット問題を浮かび上がらせると同時に、人間が持つ精神の計り知れない可能性を私たちに見せつける。
監督はニューヨーク在住のドキュメンタリー作家・楽真琴(ささ・まこと) 。パルデンの自叙伝「雪の下の炎」と出会い、彼の不屈の精神に尊敬の念を抱き映画化を決心した。映画はパルデンの友人や元政治囚、フリー・チベット活動家の証言を交えながら、過去の記憶に苛まれる現在のパルデンを描き出す。
これが長編デビュー作となる 楽監督は、チベット、インド、イタリア、アメリカで撮影し、一年間の編集を経て公開。この映画で「何者にも侵されない強靭な精神の美しさというものを撮りたかった」と語っている。