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定番記事

人種差別撤廃条約の講座に参加してきました

 「知識」という面だけで言いますと、いわゆる「総決起集会」とか各種のデモというのは、アウトプットにあたるわけです。それに対して講演会とか学習会みたいなんは、どっちかつーたらインプットになるわけですね。そいで、いつもいつもアウトプットばっかりしてますと、バカサヨク代表を自認し、ただでさえあんまりカシコない私なんぞはすぐに枯れ果ててしまうというわけで、先日の10日、「人種差別撤廃条約講座」に参加させてもらいました。

 講座の詳細はこちらですが、左翼系の告知では全く見かけなかった講座です。NGOボランティア系のサイトで偶然に見つけました。そのことでわかるように、左派色は全くなし。人権・人道・国際法の講座です。ただし実践的でした。

 大変に勉強になりましたが、国連人種差別撤廃委員会の日本審査に実際に参加し、意見を述べられたNGOの方々に、それぞれ自分の分野の問題点や現状について解説していただくという内容でしたので、人種差別撤廃条約について全く予備知識がない私は、国連の日本への勧告について、逐条的に解説していただけるような基礎講座を想像(期待)していたこともあり、極めて実践的な内容には事前の心構えができておらず、少々消化不良になりました。よって何か間違いがあったら指摘してください。

 そんなこんなでどういう順番で紹介しようかなと迷ったのですが、読者の皆様に興味があるだろう順ということで、前後しますけど、一番最後の質疑応答で出た「在特会」の話題について最初に、次に講座の中で印象に残った話題の中からいくつか、最後に、資料として日本政府に対する国連の勧告の全文(仮訳)を掲載することにします。

「在特会」の国連への「抗議」の内容

 これは、こことか、こちら日革連さんが紹介してくれている内容のことですね。この講座の質疑応答の中でその全容がわかりましたので、ご報告しておきます。日革連さんは「彼らは国連大学に抗議に行っている」と教えていただきましたが、正確には国連日本広報部らしいです。

 まず、日本国内における外国人差別の高まりの実例として、「在特会」が京都の朝鮮小学校を襲撃した際の映像が国連で上映されました。これを彼らは「無断で映像を使用された。著作権違反だ」と抗議してきたらしいです。ですが、彼らの言い分は全くのデマです。国連で上映されたのは、このサイトでも何度も使用しているこちらの動画です。これは「在特会」ではなく、被害者側が襲撃の証拠映像として残したもので、「在特会」の公開している映像ではありません。

 このあたりは軽く紹介されたのですが、質問に立たれた一人が、
 「そうは言ってもね、もちろんそうだろうなとみんな思うだろうけど、彼ら(在特会)がこれだけ大々的にデマを流しているうちに、それが本当だと騙される人だって出るでしょう。ちゃんとデマなんだとネットなりで大きく公表するべきではないですか」とおっしゃりました。

 これはもちろん正論で、「在特会」のやっていることは、彼らの祖先であるヒトラーの「嘘も100回言えば本当になる」という言葉を地でいくものです。けど、ネットとかで大きく反論するというのは、きわめて活動家的、いわば左翼的な発想であって、普通のNGOである講師の皆さんは、「それはそうかもしれないけど」と少し困っておられました。

 ま、こういう時こそ左翼サイトの出番というわけで、かわりに大きく言っておきます。

それは「在特会」のデマです

だまされてはいけません。もし、機会がありましたら、「デマだ」と自信を持って広めてあげてください。もちろん、よしんば「在特会」が動画共有サイトに公開した動画であったとしても、こちらの日革連さんへのレスに書いた通りの理由で彼らの主張はまったくの失当です。

 次には、何やら「審査委員が日本人でないのがけしからん」と「抗議」してきたそうで、これには会場から失笑がもれました。
 外人が日本を審査するなんてという発想らしいですが、いったい国連とか人権というものをなんだと思っているのでしょうか?人種差別撤廃条約の審査委員に限らず、国連の役職は加盟国の選挙によって選出されます。各々の審査委員は出身国の利害を代表して派遣されているわけでもなんでもない。たまたまその中に日本国籍の者がいることもあればいないこともある。だいたい条約の加盟国は173か国もあるのです。自国籍の委員がいない国のほうが普通なのです。

 さらには、全くもう次から次という感じで、「われわれを批判するようなNGOだけが意見を述べることができるのはおかしい」と言ってきたそうですが、これも「在特会」の無知ゆえの間違いで、審査に対しては、誰でも意見を提出することができるし、その気になれば国連で直接意見を述べる機会もあるのです。たとえば私だって意見を提出することができます。もちろん、私のように何の実績もなく、日常的な人権擁護活動もしていない個人や団体の意見と、長年の実績が認められているような団体では意見の重みがちがうでしょうが、そんなの当たり前で仕方がないことでしょう。

 そうしてやんわりとたしなめられると今度は、「そんなこと言っても英語がしゃべれないんだ!どうしてくれる」と言い出したそうで、これには会場が爆笑になりました。これじゃクレーマーですよ。
 「意見を提出したNGOも、決してネイティブの人たちではないんですよ、意見書を英訳するにはそれなりの方法があるから、それは自分で調べてください」と当たり前のことを言われたにもかかわらず、「いや、意見書を書くからお前たちで翻訳して国連日本広報部の名前で審査委員会に提出しろ、変な翻訳をしないように、われわれも翻訳に加えてやれ」と無茶なことを言い出したというところまで話が進んだところで、会場からは「バカだ……」「バカじゃないか」「バカだなあ」というつぶやきがもれました。

 まったく、どこまで自分らだけが特権階級だと思っているのでしょうか?他のNGOは、みんな自分たちで勉強して英訳したり、しかるべき人に依頼して翻訳してもらっているのです。なんでなんの人権擁護活動もしていない、チリほどの実績もない自分たちだけが、プロをタダで使えると思っているのか?ネットでよくいますが、「ネット上のものは何でもタダ」と思い込んでいる奴とか、フリーソフトなどをタダで使わせてもらいながら、感謝の言葉の一つもなく、まるで客みたいに文句を言う輩と何も変わらない精神構造ですね。

 一応、わかっているのはここまでということでした。なお、「在特会」は、国連広報部の職員に自分らの文章をタダで翻訳させて、なおかつ国連広報部の名義で審査委員会に送付させたと豪語しているそうです。だいたいそんなクレーマー同然の要求をしたこと自体が恥だと気がついていないのは本人だけですが、それでもこれがどこまで本当なのかはわかりません。国連広報部の方々は、慣れないクレーマーへの対応に振り回された被害者ですから、決して非難はしてはいけないとNGOの方は言っておられましたが、同時に、「それが本当の話なら、今後は私たちは今までみたいに苦労して翻訳し、書式にしたがって意見書を届ける必要がないですね。国連広報部に持っていけば、それこそ誰の意見でも翻訳してくれて、なおかつ国連日本広報部の名前で意見を提出してくれるんでしょうか?」とおっしゃっておられました。ちょっと考えにくいことですね。

 さらにその「意見書」の中身ですが、日革連さんの投稿を読みますと、小学校への襲撃は差別ではなく、子供を標的にしたものでもないと強弁しているそうです。だったらなんでわざわざ、複数の小学校の子供たちが行事で大勢集まっている公園を狙ったのでしょうか?まさにその日、その場所を狙って子供たちに「スパイの子」「キムチくさい」などと拡声器(しかもあれは60W以上の大型拡声器です)を使って暴言を浴びせることが、「差別ではなく」「子供を標的にしたのでもない」と、どの面下げて言えるのか!この恥知らず!

 100歩譲って差別かどうかは「主観」だとしましょう。犯罪でも「主観」の態様を成立要件とするものがあります。殺人罪もそうです。だからと言って、「殺すつもりはなかったので傷害致死です」と言えばなんでもかんでもそうなるわけがないでしょう。心臓を狙ってナイフを突き刺せば、本人がどう言おうが殺人の故意ありと認定されます。「在特会」が言っていることは、まさに人の心臓を狙ってナイフを突き刺しながら、「殺すつもりはまったくありませんでした」と言っているに等しい恥知らずな言い訳です。こんなものが通用する世界があると本気で思っているのでしょうか?あきれ果てるばかりです。

 まあ、何と申しましょうか……。今までね、主に2ちゃんねらーの方とかが、よく「在特会ってバカばっかし」とか「在特会はバカだから」云々みたいなことを書いておられましてね。そういう批判の仕方って嫌いだからしてこなかったんですけどね。でも、今回だけは同意しますわ。やっぱり「バカ」でしたよ。やつらは。痛すぎるでしょ、これじゃフォローのしようがないですよね。

その他、印象に残った話

 まず、日弁連の方からの報告では、家庭裁判所の調停委員の話がありました。少年事件と家庭事件の専門裁判所である家裁は、諸外国から高く評価されている、日本が誇るべき制度です。離婚などの家庭事件では、調停前置主義がとられており、強制力のある裁判を行う前に、強制力のない調停によって当事者同士が話し合うことが義務づけられています。この話し合いをとりもつのが調停委員で、これは一般の民間人から選ばれます。これに在日韓国・朝鮮籍の人が就任できないという差別があるそうです。空席があり、弁護士会などからの推薦があっても、最高裁が全部はねてしまうのです。

 普通に考えれば家裁を利用するのは日本人ばかりではないし、調停委員にはなんの強制力も与えられていないのだから、各家裁に一人くらい在日籍の人がいたほうがスムーズだと思います。また、適任の人物であるならば、国籍にこだわるほうがおかしい。裁判所にとっても日本人にとっても損失だと思います。最高裁は調停も権力の行使だと詭弁を弄していますが、要するに裁判所に在日籍の人を入れたくないだけの、あからさまな差別意識の発露としか思えません。この問題について、双方の意見を聴取して審査した結果、差別の是正が勧告されました。

 北海道アイヌ協会の方のお話では、いわゆる「アイヌ新法」の問題が心に残りました。私はこの法律が制定されたニュースを見た時には、日本が「単一民族国家」などではなく、先住民族の存在を認められたんだろうし、旧土人保護法などという名前からして差別的な法律が撤廃されて「よかったね」くらいの認識でした。

 ところが実際には、法の内容は旧土人保護法を引きずったものであって、「本当は反対したかった」とおっしゃるのを聞いて、自分の認識不足を痛感しました。それでもとにかくこれが小さな第一歩なんだからと、涙をのんで容認したと。ところが法が施行されてみると、この法律さえ実際には北海道だけにしか適用されないことが判明した。石原都知事が強硬に反対した結果、「適用される都道府県は政令で定める」という一項目がそっと忍ばされていたのです。

 なんでも日本政府は、国際社会では「アイヌは先住民族で、わが国は新法を作ってその権利を保護しております」と宣伝しておきながら、日本国内ではアイヌが先住民族であることをなかなか明確に認めたがらない。先住民族であるとすると、様々な権利が発生するからです。野党時代の鳩山首相(北海道選出)は、「政府は日本の国内と国外で二枚舌を使っている」と勇ましく批判していたそうで、政権交代で多少の期待をもったけど、トホホなのは、ここでも同じようです。

 あと、解放同盟の方から部落問題、移住連の方から移民労働者(特に女性や子供)に関する報告がありました。その中で明らかになったのは、日本政府の施策が「間違っている」のではなく、「何もしていない」ということです。そもそもマイノリティに関する統計が全くない。先住民族であるアイヌの人口すらわからない。驚くべきことに、交渉しようとして役所に出かけても、問題を担当する部署そのものが存在していないというのです。法務省に行けば厚労省に行けといわれ、厚労省に行けば法務省に行けと言われるような状態なんだそうです。

 日本政府は人種差別問題に関して何もしていないし、する気もない。要望をしようとしても担当者すらいない。それでどうしても要望先が国連など国際社会全体の問題として取り組む方向にいくのだと、皆さん異口同音に語っておられました。国会で内容の審議を経て多数決で可決批准した条約は、法律と同等の効力をもちます。なのに政府は人種差別撤廃条約に関して他の法律や条約のような通達を自治体におこなっていない。だから誰も知らないし、いつまでも担当部署が決まらないことになっているそうです。

もっとも重要な項目を批准していない日本

 ところで日本はこの人種差別撤廃条約(⇒条約全文はこちら)に参加していますが、実は1条と4条を留保しているそうです。じつはこの1条と4条が人種差別撤廃条約の肝とも言える部分なのだそうです。そこに何がかいてあるかと言いますと

第1条1項 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

 ここで「世系又は民族」と訳されていますが、ここでいう世系(descent)とは、日本語の感覚で素直に表現すれば「門地」となります。つまり、同一国籍同一民族の中で、特定の世系(門地)に属する人々への差別も、現代の基準では人種差別に含まれるわけです。要するに日本最大の人種差別は部落問題ということになる。ここにこの条約を適用することを避けたいという思惑があるわけです。

 次に、4条ですが、これがこの条約の肝中の肝なので、少し長いですが、全文を引用します。

第4条 締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。

 つまり「差別禁止法」の制定を義務付けているわけですが、もともとこの条約は、ナチスのユダヤ人虐殺の歴史を教訓化し、同時にネオナチの台頭や、かつての南アのように差別を法制化・制度化する有力国の出現を許してしまったという歴史的な背景のもと、事前にこれらの主張をおこなう「宣伝及び団体を非難し」「扇動又は行為を根絶することを目的」として制定されたのです。だからこの4条が最も重要な部分です。

 この精神に従い、先進各国ではすでに差別禁止法が制定され、ネオナチ団体の「優越性の思想」や「人種的憎悪」に基づく差別活動は禁止されているのです。要するに現在の先進国の基準では「在特会」は存在そのものが違法なのです。人権に国境がなくなり、私たちが堂々と北朝鮮の人権侵害を非難することが許される今日、いつまでもこんな違法な存在を野放しのままに許しておいていいのでしょうか?この肝中の肝を日本は留保しているということになるわけです。

条約と勧告を生かそう

 あまり一般に知られていないのかもしれませんが、上に書きましたように、条約というのは国会で批准された時点で、法律と同等の効果をもちます。理論的には憲法と条約のどっちが優先するかという講学上の論点すらあるくらいです。実際にそのことが生かされているのは安保条約と日米地位協定くらいのものなのですが、日本は人権に関する条約もいくつか批准しています。

 地位協定をめぐる議論をみればわかる通り、本当はそれらの条約もまた法律と同等以上の効果があるにもかかわらず、ちょっと無知であったかなと反省しました。憲法や法律ばかりでなく、こういう条約にもよく目を通し、政府が留保している項目があるのなら、なぜ留保しているのかもよく考えてみるべきだと思いました。

 法律の制定や改正を求めるのはもちろん重要ですが、こういう条約がすでにあるのなら、それらをもっと生かして考えてもいいと思います。今回の勧告もそうです。次のエントリーで、日本政府に対する勧告の全文を掲載しておきますので、よく読みましょう。

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