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反原発

菅の施政方針演説を読み直してー原発の現状を隠蔽せずに向き合え

by 味岡 修

 季節でいえば今は「大寒」というところなのだが、「寒の入り」という言葉があるように季節の上では今が一番の寒い時期である。「大寒小寒山から小僧が飛んできた」というのが口をついて出るが、この時期は寒さを実感するものだ。都市の暮らしはこういう季節感を薄れさせるのであるが、最近はこういう季節感を狂わせもする。寒い日が多いことは確かであるが、結構暖かい日もある。暖かい日でも陽が落ちれば寒くなるし、風は冷たくて寒い感じはするのだが。ただ、これは何だろう、と思う日も多いのである。やはり、気候変動がこんな形であらわれているのだろうか。

気候変動に取り組むとは言うけれど

 アメリカではバイデン大統領が、気候変動に対応するパリ協定に復帰するという。気候変動問題なんてインチキな議論だとパリ協定から離脱したトランプの方針を覆したのである。日本では菅政権が脱炭素社会を目指すと宣言した。

 気候変動問題は基本的には環境問題であるし、自然との交流(循環)に異変をもたらしていることである。こういう問題に取り組もうとするのは良いことだ。ただ、この自然との交流に異変をもたらしつつある原因を究明しないで、脱炭素化社会ということを掲げ、それを経済の高成長に結びつけるのはどうだろうか。これは政治的な戦略として作り出されたものであり、具体的かつ有効な方策には結びついて行かないと思える。

 つまり単純に言ってしまえば気候変動問題は高度成長という経済のありかた、資本主義の生産様式と関係しており、そこの転換ということなしに問題は解決しない。バイデンや菅の提起にはこういう根本的なところの認識が欠落していると思えるが、それでもこういう問題に向かおうとする点には注目したい。

 ただ気候変動問題は具体的にと、全体的にという両面で問題が提起されなければならないのだが、その双方でバイデンの提起も菅の提起も曖昧であり、これでは先が見えているということになる。特に菅の提起には欺瞞的なことが隠されていて、目はそこに向く。

「グリーン」政策に、矛盾する原発を滑り込ませる欺瞞

 菅首相の施政方針演説にはこうある。「まずは、次の成長の原動力を創り出します。『グリーン』と『デジタル』です」と。これは2050年カーボンニュートラルを宣言しましたと続き、そして「もはや環境対策は経済の制約ではなく、社会経済をおおきく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す鍵となるものです。」とくる。

 さらに「次世代太陽光発電、低コストの蓄電池、カーボンリサイクルなど野心的イノベーションに挑戦する企業を、腰を据えて支援することで、最先端技術の開発・実用化を加速させます。水素や、洋上風力など再生可能エネルギーを思い切って拡充し、送電線を増強します。デジタル技術によりダムの発電を効率的に行います。安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立します。2035年までに、新車販売で電動車100%を実現します。」と語られる。

 ここに語られていることを画餅であると批判することはしない。たとえそうであっても菅の「目指す方向」として理解するように努めたいと思う。ただ、この中にさりげなく、滑り込まされている「安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギーを確立します」とあるところを見逃すわけではない。狡猾に滑り込まされている原発再稼働―保存(原子力政策)はカーボンニュートラルという形の環境問題の解決に矛盾するし、実際のところ、それが再生エネルギーへの転換ということを妨げているのだからである。

311以降の歴史も議論も無視する暴論

 かつて原子力発電はエネルギー技術の最先端にあるものであり、石炭や石油などの化石燃料のもたらす汚染を解決するものであり、グリーンなエネルギーだと宣伝されてきた。これが真っ赤な嘘だということを福島第一原発事故は明らかにした。放射能汚染や核ゴミなど、環境汚染をもたらすものであり、危険なものである。それは新しい技術のリスクということを超えた危険な代物であることを示した。

 また、再生エネルギ―への転換ということを陰に陽に妨げ、妨害してきたのは「原発の保存」という原子力政策であることは歴史的には誰の目にも明瞭である。電力独占体の送電線の支配という事も含め、再生エネルギーへの転換政策を妨げ、その産業的発展と技術力を低下させてきた。

 原発の再稼働と保存という原子力政策が、再生エネルギ―への転換という問題を遅らせながら、その一方で「再生エネルギーに取り組んでいます」という宣伝を恥ずかしげもなくやっているのを僕らは見てきた。経産省の広報看板(広報パネル)でそれをいつも見ている。かつて僕らのテントが立っていた場所に経産省は広報パネルをたて、そこに再生エネルギーを推進しているかのような掲示をしているのだ。それを見るたびに欺瞞的なことはよせ、と蹴飛ばしたくなる。

 成長産業と言われた原子力産業は今や衰退している。それは東芝や日立の姿を見れば明瞭である。彼等はそれをどうみているというのだ。まだ、原子力産業は高度成長産業だというのか。いったい菅は原子力を再生エネルギーの一つとでもしているのかと疑いたくなる。

原発問題に隠蔽的に向き合う姿勢は許せない

 菅の施政方針演説はこの十年、「3・11」以降、エネルギー問題の最大の問題であった原発問題をすり抜けるように処理しているのだが、これは原発問題への欺瞞的な対応でもある。僕らが直面してきたこの十年の最大問題だった原発問題に隠蔽的に対応し、彼の絵にさりげなく滑り込ませようとしたって、だれも騙されなんかしない。日本の政治の悪しき姿を見てうんざりというのが僕の偽らざる感想である。

 テントへの通い路の中で、たまたま、バイデンの就任演説を読みながら、カバンに入れてあった菅の施政方針演説を取り出し、読み直してみた。彼等のこの10年の原子力政策を思い腹立たしい思いにかられたのだが、これは僕だけの感想ではあるまい。

味岡 修(三上治)

味岡 修(三上 治)

文筆家。1941年三重県生まれ。60年中央大学入学、安保闘争に参加。学生時代より吉本隆明氏宅に出入りし思想的影響を受ける。62年、社会主義学生同盟全国委員長。66年中央大学中退、第二次ブントに加わり、叛旗派のリーダーとなる。1975年叛旗派を辞め、執筆活動に転じる。現在は思想批評誌『流砂』の共同責任編集者(栗本慎一郎氏と)を務めながら、『九条改憲阻止の会』、『経産省前テントひろば』などの活動に関わる。