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左翼的発想の研究

レーニン『帝国主義論』ノート/谷川 昇

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四、帝国主義間戦争が必然化していった歴史的な過程

 以上のような金融資本の形成とその再生産構造の確立は、資本の過熱→資本の輸出を必然化し、資本の輸出先を排他的に自分の政治的勢力圏にくみ入れようとする傾向があらわれてくる。金融資本の利益のためにするこうした積極的な対外進出政策が、帝国主義政策である。それをシェーマ化して示せぱ次のようになる。

  1. 金融資本は、強固な独占体を形成することにより独占価格を維持し、独占利潤を最大にすることをめざす。しかし、金融資本の下で急速に増大する生産に比して国内市場は狭くなり、商品輸出をのばすことが重要な課題となった。
  2. そのために、関税とダンピング輸出を政策的におこなう。関税により国内市場から外国資本を排除し、国内での独占利潤を確保しながら、この独占利潤をもとでにして国外へと組織的にダンピング輸出を展開した。
  3. しかしながら、他国との競争が激化するなかで、採算を無視して無際限にダンピングを展開し、輸出を拡大することが困難になってくる。
  4. このため金融資本は、最大限の利潤をあげるために却って、生産そのものを制限しなければならなくなる。ここに国内においてはこれ以上投資してもより多くの利潤が得られなくなるという資本の過剰が生ずる。
  5. この過剰資本は、資本として海外に輸出される。後進諸国の高い利子、低賃金と安価な原料は、証券投資(外債などに応募・貸付)、直接投資(外国の企業の設立・投資)双方とも有利な価値増殖を可能にする。
  6. 同時に資本の輸出は、たとえばドイツ資本が在外企業に直接投下される場合はもちろん、鉄道建設のための外債をひきうけるときにも、それらに関連して必要となる資材をドイツから買いつけることを条件としているというように、商品の輸出の拡大をもたらしていった。

 以上のことから明らかであるように、資本の輸出はドイツ金融資本が存立していくための不可欠な一環としてあるのである。そこで、一方では自らが輸出した資本の利益を擁護するために資本輸出先の国を排他的に支配して勢力圏・植民地として従属させようとし、他方では更なる資本輸出先を求めて勢力圏・植民地の獲得・拡大の要求を強めることになる。

 ところが植民地の領有そのものは、十九世紀末までにイギリス・フランスによってほぼ分割されつくしていた。これに比べてドイツ・アメリカはいちじるしく遅れていた。ここに、急速に発展しつつあり、積極的な資本輸出を行いながら狭隘な植民地しかもたないドイツと、広大な植民地を領有して排他的な資本輸出・商品輸出により自らの既存の地位を守らんとするイギリス・フランスとの対立が激化していくこととなるのである。
 こうした対立の激化に対応して独英の間にいわゆる建艦競争が展開され、軍事的対立も激化していった。またこうした軍備増強を人民の負担においておこなうためにも、金融資本は人民を排外主義的に集約していった。

 このような政治的・軍事的・経済的対立が、油田開発と鉄道建設をめぐりバルカン半島において爆発し、第一次世界大戦のひきがねとなっていった。
 ちなみにアメリカはドイツと同じく金融資本の成立により急速な工業成長をとげたが、もともと広大なフロンティアを国内市場としてもっていたことにより対外進出の欲求も比較的に弱く、ヨーロッパから離れていたこともあって国際的対立の渦中からはずれた位置にあったといえる。

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五、帝国主義国内での階級関係の変化

 先にも述べたように、ドイツではイギリスのように階級関係が単純化する方向をとらなかった。それは金融資本の成立とその再生産構造に起因している。

 つまり第一に、イギリスにあっては産業資本の確立過程において囲い込み運動による農民層の分解→無産労働者の大量創出ということを経ていったのに対し、ドイツでははじめから社会的に集中された巨額の資本で蓄積がおこなわれ、必要以上の農民の分解はおこらなかった。
 第二に、金融資本は非独占部門の中小生産者層を解体するのでなく、むしろこれを圧迫・収奪することによって存立していたのである。
 第三に独占体と中小企業との分裂に対応して労働者階級内部でも、熟練工と不熟練工、男子青年労働者と婦人・児童労働者、ドイツ人労働者と外国人労働者の格差が固定化していった。こうして労働者階級内部での階層分化が進行して、労働貴族と呼ばれる新しい層を生み出す。
 第四に、独占企業での経営の組織化や国家権力機構の肥大化により、サラリーマン・官吏・軍人といった層を生み出す。

 総じて旧中間層・新中間層が滞留する傾向をみせ、これらの層をどうとりまとめていくのかが金融資本にとり課題となってくる。そこでおこなわれるのが「買収」としての社会政策(福祉政策)である。農業協同組合の設立などの農民保護政策、中小企業保護政策、社会保険等々は、新旧中間層の社会主義勢力化をおさえこむための社会政策である。
 かくして社会のほとんど全ての階級階層が、金融資本の動向に直接(株の配当・賃金など)、間接(社会政策など)に影響をうけるようになり、「金融資本の発展が国民生活、国民の福祉に役立つ」といわれるようになるのである。そこからさらには、「国民経済の『高度成長』のためには対外進出(国益防衛)が必要だ」という形で、人民を排外主義者にしたてていったのである。

 労働運動における日和見主義(ひよりみしゅぎ)の発生は、こうした資本主義の攻撃(戦争遂行政策)に屈伏するものに外ならない。その客観的な根拠となったのは、先に述べた労働貴族層の形成と労働官僚の発生であるが、社会民主党がブルジョア議会での議席数の拡大にあけくれ、「党勢をのばす」ために中間層に迎合して「国民政党」化していったことも大きな原因の一つである。

 かかる日和見主義の発生根拠をつきとめ、日和見主義と徹底してたたかったレーニンのみが唯一、帝国主義戦争のなかから革命情勢を切り拓き、内乱の勝利をもぎとったのである。この教訓を見てもわかるように、帝国主義国内の革命闘争にとって、「革命的祖国敗北主義、自国帝国主義打倒」の旗の下に、帝国主義のための労働運動と訣別することが戦争阻止の核心となるのである。

六、『帝国主義論』と現代の世界

 これまでわれわれはレーニンの『帝国主義論』の内容に沿い、それに肉づけしながら帝国主義のもつ政治・経済的傾向について見てきたわけだが、ここでわれわれはレーニン当時の世界と現代世界との共通点・相違点を明らかにしつつ、現代世界を対象化するための一助としたいと思う。

 一部の論者によれぱ、今日世界経済はアメリカ、日本、西ヨーロッパの相対立するブロック化の時代に入りつつあるという。第二次大戦後の世界経済はアメリカの絶対的優位にもとづき、IMF・GATTの自由・多角・無差別の貿易体制が統一的枠組みとなつてきた。これは三〇年代を帝国主義なりに教訓化して打ち出した施策であった。
 ところがこの体制のもとでアメリカは、日本・西ヨーロッパの「高度成長」をもたらした結果、自らが没落するに至った。六〇年代ドル危機の発生→七〇年代のIMF・GATT体制の崩壊はこうした不均等発展の結果であり、統一的世界経済編成の喪失→ブロック化をもたらす、と言うのである。それをシェーマ化すれぱ、不均等発展→排他的関税障壁→独自の経済圏創出→ブロック化→帝国主義間戦争となる。

 たしかに現代の帝国主義は、レーニンが対象とした二十世紀初頭の帝国主義と同じく金融資本を支配的な資本の形態とする段階である。しかしながら歴史的現実を見てみるならば、日米安保やNATOのような帝国主義どうしの軍事同盟形成(双方ともアメリカ帝国主義を盟主とした)という事実は、「不均等発展→市場再分割→帝国主義戦争」というレーニン帝国主義論の分析や、上述の第二次大戦におけるブロック化とは全く異なっていることが明らかだ。

 したがって同じく金融資本の支配という経済的基礎のうえにたちながらも、事実としてその矛盾(経済的対外膨張はふだんになされているのだが)がなぜ帝国主義間戦争として直線的に爆発していかないのか、その問題こそを考察すべきであろう。

 それは第一に、一九一七年のロシア革命を世界史的起点として「労働者国家」が成立するようになり、これが帝国主義の対外膨張を阻む存在となっていることである。こうした「労働者国家」―帝国主義に政治・軍事的に敵対する存在―の登場は、帝国主義どうしを政治・軍事的に結合させる客観的な要因となっている。

 第二に、今日の米帝の没落は目に見えているわけだが、それでもなお帝国主義の世界政策を統一的に展開しうるのは米帝のみであり、日・西ヨーロッパ帝も米帝を中心とした反革命体制に身をよせずしては延命できないことである。

 第三に、帝国主義各国が相互の間で水平分業依存をつよめあい、互いに互いを市場としなければやっていけないことである。この水平分業依存の強化の問題は、そのうちに不均等発展による貿易摩擦といったことを孕みながらも、それを政治・軍事的対立へと至らせない内在的要因となっている。

 そして第四に、もっとも重要なことだが、今日資本主義は自ら歴史的につくりあげてきた植民地・従属国の貧困問題=「南北問題」を解決することができないままに、いわゆる第三世界ですさまじい反体制(=反帝国主義・反独裁)のエネルギーの爆発に直面していることである。

 いうまでもなく戦後の帝国主義各国の「高度経済成長」の根拠の一つには、低開発国からの安価な一次産品の収奪、低廉・大量な労働力の搾取・収奪、工業製品の市場としての確保などがあったが、それは低開発国の工業的発展をもたらすものではなかった。むしろこうした要因により伝統的な農業共同体が解体しているにもかかわらず、一つには帝国主義国の農民保護政策、農業生産力の飛躍的拡大、代替原料(ゴム・化繊・プラスチック)開発により農業国として存立しえず、他方では、帝国主義国とのすさまじい生産力格差、援助という名の経済侵略により工業国としても存立しえない。このためすさまじい大衆的貧困が構造化されるのである。.

 このような構造の下、不可避的に爆発する反帝・反独裁闘争の高揚を共同して圧殺することが帝国主義の課題となってくる。(べトナム・エルサルバドル・イラン・韓国等を見よ。しかも、そこで米帝が敗退したからといって、他帝が植民地分割・争奪戦にのりだしていくといったことも見られない。つまり帝国主義は互いに帝国主義間戦争をおこなう生命力を完全に喪失している。)

 第五に、二度の世界大戦を経験した帝国主義国内労働者階級人民の主体的階級的成熟が高まっているため、帝間戦争での前提となった人民の排外主義への集約・革命闘争の圧殺が容易になしえなくなったことである。

 以上のことから総じていえることは、帝国主義は、「労働者国家」の存在、第三世界の反帝反独裁闘争、国内の革命闘争の圧殺のために結束した政策を展開しているということである。(サミットはこのようなものとしてある。)
 こうしたなかで、極東における反革命同盟として安保-日韓体制が存在している。それは、フィリピン、韓国、タイ、インドネシアや、日本の革命勢力に対抗するものとしてあるのだ。

 現代におけるレーニンの立場の復権とは何か。それは第三次世界大戦を願望して、それを内乱に転化するというスローガンを唱えることではない。第二、第三のベトナムとして発現する人民の解放闘争と連帯し、これを圧殺せんとする帝国主義の侵略反革命を内側からくいやぶっていく第二、第三のベトナム反戦闘争を内乱へとおしあげ、帝国主義を打倒し、プロレタリア世界革命の完遂に向けて奮闘することに外ならないのである。(本稿以上)

参考リンク

「帝国主義論」全文テキスト(レッドモール党サイト)
レーニンの『帝国主義論』(santaboaの日記)
帝国主義論(れんだいこの人生学院)
帝国主義論ネット学習会 過去ログ一覧(大坂仰山党サイト)
帝国主義論 (光文社古典新訳文庫)感想(読書メーター)
「なにをいかに学習すべきか」(6)帝国主義論(レッドモール党サイト)
帝国主義論(wikipedia)

書籍リンク(Amazon書店)
帝国主義論 (光文社古典新訳文庫) 訳:角田安正 Kindle版見本あり
帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫)訳:宇高基輔
帝国主義論-科学的社会主義の古典選書(新日本出版)訳:聴濤弘 共産党系

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