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反弾圧

家宅捜索にいかに対処するか

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家宅捜索にいかに対処するか

はじめに

連帯労組へのガサ

 家宅捜索は通常、まず不当逮捕を行ってから、その関連で強行するというのが今までの基本であった。だが最近の公安警察は、たとえ軽犯罪法違反の微罪であろうとも、何年前の事件であろうとも、それを口実としてガサ入れを乱発し、反戦運動を威嚇・破壊することのみを目的としたあからさまな思想弾圧-悪質な職権濫用行為-が常態化している。

 つまり、公安警察による家宅捜索は、もはや「容疑の捜査」という本来の目的とは何の関係もなく日常的に行われている。集会前の事前弾圧を主軸にし、活動家へのいやがらせ、威嚇、情報収集そのものが自己目的化した、きわめて違法な捜索を平然とおこなっているのが公安警察の実態である。さらにその対象は左翼組織に限らず、近年では一般の市民運動や労組などにまでおよぶようになっている。

 その上、捜索の範囲にしても、従来の地区事務所・AGT・逮捕者の自宅・会社だけでなく、その友人、家族、はては何十年も前に運動を離れた人のところにまでガサ入れをおこなうなど、まさに手当り次第である。もはや「自分は左翼でも、ましてや過激派でもないから大丈夫」などということはできず、誰しもが身におぼえのない容疑で突然に家宅捜索を受ける可能性があるのだ。

 こういう現実の中にあって、ましてわれわれ活動家にとっては、たとえそれが違法捜索を目的としたものであっても、現行の法律においてそれを拒否できない現実を考慮したとき、これをいかにはね返すのか―その要領を活動家の「一般常識」、心得として体得しておく必要がある。

1)活動家としての事前の心がまえと用意すべきもの

 ところでガサ入れに対するわれわれの対処とは、敵がガサ入れにきたらどうするのかといった現場応急的な対処だけでは、敵の弾圧を防ぐことはほぼ困難である。それを許さない体制ー事務所・AGTを何としても守り抜いていくといったわれわれ一人ひとりの決意と構えを前もって作りあげていくことがまず必要なのである。

 それは第一に、われわれがガサ入れに対して決して受身になるのではなく、訓練のつみ重ねにより、いついかなるときでもそれに対処できる心がまえと自覚を高めていくことに他ならない。

 通常ガサ入れはある日突然に、しかも早朝や就寝中をねらってやってくることが多い。それに動揺し、あわてて大事なMMやNB、TB(注:メモ・ノート・テレホンブック)などを処理したりすることを忘れ、やすやすと権力に押収を許してしまうといったことがある。
 ガサ入れは敵との真剣勝負であり、たとえ政治経験が浅いからといって許されるものではない。一人の不注意・警戒心の欠如が組織に多大の損害を与えてしまうことを肝に銘ずるべきである。

 したがってわれわれは常日頃から、就寝時にはNB・TB・MMなどを身につけて寝る、月に何度かはガサ入れを想定して訓練をつみ重ね、いざというときに冷静に対処できるよう気をつけていかなけれぱならない。
 また、日ごろから暗号化を進め、不必要な事項はスミ入れ、WS(注:水溶紙のメモを水に溶かすこと)などを速やかになすなど、たとえ不注意から押収された場合でも被害を最小限にくいとめられるようにしておくことが絶対に必要である。

 第二に、われわれが事務所・AGTなどでの活動・生活において一個の習慣性を身につけていくことである。

 すなわち、それは部屋の整理整頓であり、私物と組織物を区別し、ガサ物を指定した場所にまとめて保管するということである。自分のもち物がどこにあるのかわからないといったことでは敵にみすみす情報を与えるようなものである。押収目録を見れば、その押収品の多さによって事務所の整理整頓の状況はつかむことができる。
 ましてや権力にとり捜索・押収の対象が闘争の事前弾圧を基本としている以上、組織の実態や意志統一の内容などの記載されたメモ・レジメ類は会議の終了時に必ず焼却、WSする習慣を身につけ、焼却の場合、完全に灰となり、それをこまかく砕くことにまで気をくばることが肝要である。

※救対名簿や組織内文書などは事務所に置いてはならない。それらは秘匿性の高い場所に移すべきである

 すなわち、ガサ入れへの対処とはこれといった即効薬がある訳でなく、われわれがこうした訓練・習慣性を常日頃から身につけていくことが肝要なのである。「備えあれば憂いなし」といった観点でもって実践するなら、突然のガサ入れによる組織破壊を十分とまでいかなくても基本的にははねかえすことができるということを是非とも認識してもらいたい。

 第三に、用意すべきものとして、事務所・AGT(できれば個人宅)にもテープレコーダーやカメラを備えることである。これは現在のガサ入れが捜索の対象を越え出た違法なものが多いため、防衛上の対処として用意するのである。

 すなわち、権力の不当な捜索に対してテープレコーダーを活用して捜索の過程でのやりとりや権力の違法行為を写真にとることにより敵を牽制すると同時に、不法押収物の返還を求める準抗告の申し立てのための証拠物にしていくためである。

※権力は違法なガサ入れへの抗議行動や、自分たちの違法行為を証拠として公にされることを極端に嫌がる
※公務執行中の公務員に肖像権は認められておらず、権力はガサ入れ中の写真撮影を拒否することはできない

 ともあれ、われわれはガサ入れに対して受身になったり恐れたりする必要はない。問題はこれに対処できるだけの事前の体制、構えをつくり出しているかどうかで勝敗は左右されるのである。

 次に権力がガサ入れに来たことを想定して、そこでのわれわれの具体的対処について確認していきたい。

2)突然にガサ入れにきた場合の対処について

 権力がきて突然に戸を開けろといっても、すぐに戸を開けてはならない。事務所などのばあい、上級のメンバーか権力弾圧の経験のある同志を立会人として選び、戸の内と外で交渉を開始する。チェーン・ロックがある場合はチェーン・ロックを外さないで行う。

 立会人の任務は(1)家宅捜索が法律的手続きを踏んだものであるかどうか、(2)捜索の容疑(被疑事実等)、(3)捜索の対象(場所・押収対象等)を厳格に一つひとつチェックすることである。このことが結果的には、他のメンバーがガサ入れに対して十分対応できる余裕を生むこととなるのであり、こうしたチェックを怠ると不当な押収にもつながりかねない。

チェックは次の順序で行う。
 まず権力の責任者の名前と官職名を明らかにさせ、本人であるかどうか警察手帳の提示を求める。同行者についても同様である。もし権力がこれを拒否したならば「身元不明の人間を部屋に入れることはできない」といってはっきりと断わるべきである。現在われわれは権力のみならず、他党派との緊張関係に突入しているのであり、権力を装っての右翼や内ゲバ党派の襲撃も予想されるので、十分な警戒心をもって対処していかなければならない。

※この時点でレコーダーを用意して録音し、その後も回しておいて権力とのやりとりを証拠として残しておく

 次に捜索令状(捜索差押許可書)の提示を求める。もし夜間のガサ入れの場合、日没後の捜索はできないことになっているので、夜間の特別令状になっているかどうか確かめることも必要である。

※捜索が日中から始まり夜間に及ぶことについては法的規制はない

 それを立会人は落ち着いて一字一句をよく読み、令状の記載にまちがいがないかを確かめ、それを書き写す。もし令状の住所の番地・氏名が一字でも違っていたら「この番地の家とちがう」「このような名前の人はいない」といって断わり、改めて令状を取り直してくるよう要求していかなければならない。

※「氏名不詳の者の○○容疑」と記載の場合、住所に間違いがない限り入室を拒むことはできない

 さらに立会人は、とくに令状に記載された「差し押えるもの」「捜索場所の範囲」をしっかりと確認することも重要である。おおむね捜索・押収の対象はビラ・機関紙・メモ・名簿・議事録・住所録などであるが、もし事件に関係ないものを押収しようとするなら絶対に許してはならない。

※立会い可能な範囲で捜索させるため警官の人数を減らすよう要求することも大事である

 そして最後に、権力の責任者に捜索後の物品の紛失・散乱がないよう現状に戻すことを確認してから入室を認めていかなければならない。

 なお、この立会人のチェックの間に、他の者は部屋の整理・整頓などを行っておくべきで、漫然と待っているようなことをしてはならない。ただし文書等の焼却・WSについてはそれが見つかると、証拠いん減として逮捕される場合があるので十分注意する。

3)捜索中における立会人の対処について

 立会人は権力とのやりとりにおいて、こちら側の窓口となるべき位置にあるので、その役割りは非常に重要である。

 とくに最近の公安刑事は悪質で、どさくさまぎれに部屋になかったものをもってきて、いかにもそこにあったかのように工作したり、また部屋にある私物などを無断で持ち去る者がいるので権力の一挙手一投足について厳重に目をひからせることが是非とも必要となってくる。ただばく然とつっ立っているだけでは権力の捜査に協力するようなものである。

 部屋がいくつもある場合、立会人なしの捜索を認めず、一室ずつ立会人の目前で捜索するよう立会人は要求しなければならない。上記のことからもこれは重要なポイントなので是非追求してほしい。
 また、立会人以外のメンバーについては退去を命じられることはないが、許可なく外へ出ることはできない。いったん外に出たら中に入ることができないので注意する。また出る場合には、身体検査をやろうとするので、出るか否かは判断が必要である。

※なお、捜索中の電話の発信・受信は制限なくできる

 次に、むやみやたらな写真撮影は実質的な押収となるので即刻やめるよう厳重に抗議していかなければならない。写真撮影はガサの開始と終了の状況・押収物の室内配置状況を示す以外はすべて違法であることを立会人は認識しておく必要がある。

 例えば、差押えするべきでないもの(手帳・会計簿・原稿などが押収対象に指定されていない場合)を写真撮影していたら、ただちに中止させるか、それとも責任者に対して「そこのブルーの背広を着た背の高い色黒の男が手帳を一枚ずつ写真にとっているが、違法で実質的な押収になるのでやめよ。写真を感光せよ」と大声で、リアルに現場状況を指摘してテープにおさめ、証拠としていく。できればカメラで逆撮影することも重要である。これは後に、捜索・押収の違法性を争う準抗告を申し立てるときの証拠となる。

※このようにテープ・写真で証拠を残すようにすると権力は違法行為を控えるようになる。ただし違法行為を物理的に制止しただけで「公務執行妨害」を口実に不当逮捕してくるので注意する

 立会いにおいて特に重要な点は、立会人は権力が捜索し押収しようとしている場所が令状に記載された範囲を越えた違法なものでないか注意することである。

 例えば被疑者が在宅のところを令状逮捕されたときは身体捜索をうけるが、立会人とその関係者の場合は別に身体捜索令状がない限り身体検査はできないといったことを理解しておかなくてはならない。
 またLNやNB(注:個人の学習ノート)など、容疑事件とはなんの関係ないものを違法に押収しようとしても渡してはならない。

※立会人やその関係者のカバン・バックは身体捜索令状とは関係なく捜索できるので注意する
※女性の身体捜索については、成人女性(婦人警官)を立ち会わせなければならない

 ともあれ立会人は権力の一つ一つの動きを監視し、たとえ小さな違法行為であっても決して許さず厳重に抗議して毅然たる態度で対処していく姿勢が大事である。

 最後に、押収品が決まったら、立会人の目の前で押収品目録を交付させ、権力の責任者に署名・捺印させてから受けとる。その場合、立会人は押収品目録の品目を確かめ、まちがいがないかどうか確かめる。例えば権力はわざと手帳をノートと書いたりしてごまかそうとするので、より具体的に内容性質まで表示する名称を書かせるよう要求しなければならない。

 また押収品がない場合でも、必ず申し立てて「押収品なし」の証明書をとっておくことが必要である。だまっていると権力は知らぬふりをして絶対に書かない。「押収目録書」や「押収品なし」の証明書はこれによって捜索が終了したことの証明であり、いったん外に出た権力がもう一度もどってきて「捜索し忘れたところがあるので捜索したい」といってきても、これをタテに絶対に応じてはならない。「もう一度令状をとって出直してこい」と言って拒否することである。

4)ガサが終った後の対処について

 立会人は権力が立ち去ったらただちに上級機関に報告し、今後の対処、指示をうけるようしなければならない。「とくに重要なものを押収されたわけではない」といった立会人の独自の判断で報告を怠っては決してならない。押収目録だけでなく、権力はなにを重点的に捜索していたか、どのような話をしていたか、何人で来たかなど家宅捜索の過程での出来事をことこまかに報告していくことが必要である。

 これらたとえ小さなことであっても何ヵ所かのガサ入れ、押収品、捜索場所などをつき合わせてみると、権力の弾圧の意図、ねらいを浮かび上がらせることは可能であり、今後の権力弾圧に対処していくことに役立っていくのである。また、捜索に来た権力の使用車両(車種・ナンバー)をチェックし、一覧表を作成していくことも必要である。

草加による注
一般市民の皆さんの場合も、必ず救援連絡センター(電話:03-3591-1301)などの人権擁護団体に連絡して相談を受けてください。「身におぼえのないことだから」と放置していると、その後のでっち上げや冤罪逮捕、公安刑事によるつきまとい(ストーカー行為)などにエスカレートすることもあります。それらを防止するためにも絶対に必要です。

5)立会人不在の場合のガサ入れに対する対処について

 ガサ入れは立会人を必要とし、基本的には居住者がなる。だが最近の公安刑事は意図的に居住者がいないときを見はからってガサ入れを行うことがある。家主・管理人や近くの消防署員を形式的な立会人にして不当な捜索・押収をくりひろげている。
 しかもわれわれのメンバーがいないことをさいわいにして部屋を無責任に荒らし、勝手に私物を持ち去ったり、でっち上げのための物件を外から持ち込んで証拠品として記載していくことがあるので注意することである。

 そのことを発見しだい、われわれは立会人になった者を呼び、現場写真をとり、立会人から捜索状況をことこまかに聞き出し記録していかなければならない。
 その場合、立会人がガサ入れにどこまで立ち合っていたのか、押収品が部屋のどこにあったのかなどを聞きただし、少しでも記憶があいまいなことや見ていなかったなら、そのことを書きしるし、立会人からもその旨一筆とっておくことが絶対に重要である。これは権力によるガサ入れの不法性を明らかにし、デッチ上げをくいとめる証拠となるのである。

6)押収物の返還について

 公安刑事によるガサ入れは違法な物件を押収したり、ガサ入れそのものが違法・不当であることがほとんどである。われわれは押収が違法・不当な場合「不服申し立て」としての「準抗告」を地方裁判所に提出することができる。

 いずれの場合も理由として(1)長いあいだ押収する必要がないこと、(2)日常業務に支障をきたすこと、(3)放置しておくとそのものが使用不能になること、(4)こちらの証拠としてその物件が必要であることなどである。
 その場合、権力のガサ入れの違法性を指摘できるテープ・写真や押収目録の一つ一つの内容の説明と、見当違いの押収であることを具体的に書いてとりまとめ、地方裁判所に一週間以内に提出する。

 公安刑事は自分たちの違法行為が立証されることを極端に恐れるがゆえに、準抗告を申し立てた段階で、裁判所の審査がはじまる前に、あわてふためいて押収物を返してくることが多くある。

 ともあれわれわれは、以上の諸点をガサ入れに対する一般常識として押えていかなければならない。どんなささいなことであろうとも、われわれはそれを不法で不当な弾圧としてうち破っていく必要がある。敵の破防法弾圧の強まりの中で、一個一個の攻撃を確実に粉砕していく姿勢の中にこそ党の武装とそれを担う主体の飛躍はあることを肝に銘じ、組織実践の習熟をさらに深めていくよう訴えるものである。

(一九八四年五月公開)

※公安警察など弾圧機関以外の一般人にはわかりにくい表現について、一部草加による加筆修正を行いました

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