〔長文〕ちょっと待て!楢葉町の「帰町宣言」(第2弾)

松本幸英 楢葉町長
松本幸英 楢葉町長
by ときわ列車

 5月10日、JR東日本水戸支社は常磐線の広野〜竜田間の営業運転を6月1日から再開するため、同区間の試運転を開始しました。国鉄水戸動力車労働組合(動労水戸)は試運転の強行と運転再開に抗議してストライキを敢行し、いわき駅前といわき運輸区前で抗議行動を行いました。

本当に帰ることができるのか?

 広野〜竜田間は現在「避難指示解除準備区域」となっている福島県楢葉町があり、国は「除染は終了した」として避難指示を解除する方針を打ち出しており、町長も5月中には帰還時期を「判断する」としています。

 しかし、国が終了したとしている「除染」とは環境省から指示された「施工」の方法にしたがっただけのものであり、町内には山林などまだ手つかずのところが多く、毎時2マイクロシーベルトを超えるような場所も未だ点在しているとのことです。

 それだけでなく町内の至る所に汚染土などを詰め込んだ黒いバッグが積まれた「仮置き場」があります。そこに雨が降ればバッグを通った雨水は放射性物質を多く含んだ汚染水になるのですが、まったく処理されずに外に垂れ流されていいます。さらに、バッグの中身が発酵・腐敗すると、その時に出た熱でバッグの劣化が加速するおそれもあります。

 ただでさえこれから外気温が上がる季節になると言うのに、そうしたリスクを考えているのか甚だ疑問です。もし、発酵によって発生した可燃性ガスが引火したり、劣化したバッグが破れたりしたら放射性物質が拡散してしまうではありませんか。

 福島第一原子力発電所では4号機の燃料棒取り出し作業など危険な作業が行われているさなか、町自体もまだまだ住むのが不安で簡単に帰れる状況ではないはずです。

矛盾だらけの運転再開

 それにもかかわらず、JRは「地域住民のため」を大義名分に運転再開を推し進めようとしています。しかし、動労水戸に提示された運行ダイヤではいわき駅発竜田駅着の列車は19時半頃で終電になり、竜田駅発の終電はその折り返しで20時半頃の出発です。これでは高校生などは満足に部活動できず、労働者は残業になってしまったら列車で帰ることができなくなることが予想されます。これのどこが「住民のため」なのでしょうか。

 さらに、同じ福島県内の只見線は2011年の豪雨で会津川口〜只見間が不通になっていますが、JR当局はホームページの中ですでに復旧させた区間を含めた総工事費が85憶円かかるとし、「当該区間の鉄道での復旧の可否については関係自治体と打合せを重ねている」「今後も地元の方々との相互理解に努める」と言いつつ利用客の少ない「赤字路線」であることを資料で全面に押し出し、復旧に乗り気でないことを遠回しに示しています。

 一方、広野〜竜田間の復旧費用は34億円なので、一見常磐線の復旧の方が合理的に見えます。しかし、只見線の方は只見町が全町募金運動を行い、今年3月27日までに350万円近い寄付が集まりました(福島民報2014年3月28日付)。一方楢葉町で同じような募金活動があったのでしょうか?いや、そもそも避難を強いられている楢葉の人びとに募金をする余裕はあるのでしょうか?

住民も「知らなかった」運転再開

 僕たちNAZENいわきが動労水戸と共に仮設住宅の皆さんへビラ配りをしたところ、「帰町宣言なんて出せるはずがない」、「JRが運転再開なんて聞いていない」といった驚きと怒りの声が挙がっています。もはや復旧の優先度は火を見るより明らかです。

 ましてJR東日本は内部留保を2011年時点で1兆3000億円も抱えています(日刊動労千葉2011年5月11日付)。これだけの資金を持っていながら岩手・岩泉線は廃止し、只見線も切り捨てようとしています。それなのに放射線量も高く、原発に近付く常磐線は延伸するのです。

 楢葉町の現状からすれば岩泉線や只見線よりもずっとひどい「赤字路線」となるのは目に見えているはずです。現に先に運転を再開した広野町・広野駅の利用人数は、震災前年の2010年時点でのべ336人だったのに対し、震災後の2012年はのべ81人と激減しています(http://ja.wikipedia.org/wiki/広野駅_(福島県))。広野延伸の意義があったのか甚だ疑問です。再開を住民に知らせていなかった楢葉町の木戸駅・竜田駅はそれ以上の乗降が見込めるのでしょうか?

運転再開の「本当の狙い」

 こんな矛盾だらけの運転再開を強行する意図は明らかです。JRは国や東電の意向に沿って「帰還キャンペーン」の旗振り役を担うということです。

 東電は今年3月以降の賠償は来年2月までの1年分で打ち切り、原則延長しない方針を示しています。その一方、避難指示が解除された後、1年以内に帰還した人が現在の収入を下回った場合は減収分を最大1年間賠償するとしています。

 4月1日に避難指示が解除された福島県田村市都路(みやこじ)地区の場合、避難住民が来年3月末までに帰還すれば賠償の延長対象にするといいます。楢葉町でもこの方式が取られる可能性が高く、「早く帰れば賠償を多くする」というエサをちらつかせて帰還を「強制」しようとしています。しかも、たとえ帰還をしたところで延長されるのは2016年2月末まで。これで生活再建ができるはずがありません。

 そして賠償を打ち切った上で「雇用はここにしかない」として楢葉町に作ろうとしている「がれき焼却灰処理施設」へ住民を動員することを狙っているようにも思えます。それは大熊・双葉町での「中間貯蔵施設」の建設、そしてそこへ富岡町、浪江町など周辺自治体を含めて住民を動員する足がかりとなるものです。戻るだけでも被曝リスクが高くなるのに住民やJR労働者に被曝労働を強制するのでしょうか?

「帰還」強制の先にあるもの

 楢葉町の「帰還運動」とは、政府・東電が原発事故の責任を取らないことを居直るものであり、原発再稼働と福島「棄民」に突き進むというものです。政府は福島県民の味方のような顔をして、被曝による健康問題を描いた漫画『美味しんぼ』を批難しています。しかし、被曝を否定し、帰還の基準を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトに押し上げ、福島に「中間貯蔵施設」を作ろうとしている彼らにその資格はありません。

 もう騙されません!政府・東電・JRは絶対に許しません!!共に声を挙げ、行動に立ち上がりましょう!!!

5・31いわき行動に参加を!

 動労水戸は5月31日に緊急のいわき集会を開くこととなりました。僕たちNAZENいわきもこれに連帯し、結集を呼び掛けさせていただきます。

ときわ列車
名称:「福島切り捨てを許さない!竜田延伸絶対反対!総決起集会」
日時:2014年5月31日(土)13時
※15時(予定)よりデモ行進(いわき駅前まで)
場所:いわき市・平中央公園(JRいわき駅より徒歩15分)

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