ジュゴンからの手紙

「ジュゴンの親子」やどかりさんの作品 辺野古沖の米軍ヘリ基地建設の中止を求め、毎週月曜の夕方には様々な団体や個人が防衛庁・防衛施設庁前に集まり抗議活動を続けています。月並みな表現ですが、本当に粘り強い、薄紙を重ねていくような地道な活動で、毎週集まっておられる方々には頭が下がります。
 さて、そこでは毎週違った抗議文や要請文が読み上げられ、対応に現れた施設庁の職員に直接手渡すことが「恒例」として続けられています。そんな防衛庁へのメッセージの一つに、「ジュゴンからの手紙」があります。ジュゴン保護キャンペーンセンターの人々が、今回の工事で絶滅の危機に瀕している沖縄のジュゴンから託されたメッセージを代筆し、防衛庁に届けたという設定なのでしょう。

 このジュゴンの手紙は、防衛庁や米軍のみならず「人間」という存在をジュゴンや自然動物の目から描き、そして動物の立場から「人間」に要請する形式で、他の抗議文とはかなり趣が違う文学的な体裁になっています。そして今、この手紙はコピーされ、広く運動圏の人々にまわし読みされているようです。
おごりたかぶった「人間の皆さん」に、基地建設への賛否をも超えて読んでほしいと思い、ここに全文を掲載します。

ジュゴンからの手紙(全文)

 人間のみなさん、特に戦争をしている米軍のみなさんと戦争の準備をしている防衛庁のみなさん、
 こんにちは、はじめまして。私は沖縄の辺野古沖に棲むジュゴンです。みなさんは、私達が暮らす海がなんで出来ているかご存知ですか?

 海はなみだで出来ているんです。土のなみだ、草のなみだ、動物のなみだ、空のなみだ、風のなみだ。苦しかったり、悲しかったり、痛かったり、うれしかったり、笑いすぎて流れたなみだが集まって出来ているんです。私たちは海の中に棲んでいるから、なみだと話をします。戦争の話も聞きました。戦争の時に流れたたくさんのなみだを知っています。戦争が終わっても、家族を失った悲しみのなみだがたくさん流れてきます。

 おんなじ人間同士で戦争をするんですね。私たちはしません。私たち動物は、あなた方を「腕っ節ばかり強くってココロとアタマがちょっと弱いやつ」と呼んでいます。あまりにたくさんの悲しいなみだの話を聞くと「僕らは腕がなくて良かったね」と話し合います。ライオン・キングだって、無駄な殺生はしませんよ。そして命をいただいたら、きれいに残さずいただきます。あなた方がなぜ戦争をするのか、私たちには想像できませんが、もし、生きるため、食べるために戦争をするのだったら、イラクにたくさんの人間の肉があると聞きます。それを食べて生きたらいいではないですか?牛や豚や鶏ではなくて。無駄死により食べられた方がましかもしれません。

 腕があるサルたちだって、戦争はしません。戦争だけでなく、お金儲けのために象牙がほしくて、象の顔ごとチェーンソーで切り落としたりするのは人間だけですよ。サルだって腕を持っていて、人間と同じように道具を作ったりしますが、自分たちを殺し会う道具を作りだしたりはしませんでした。サルたちにはココロとアタマがあるから、家族も、地球も大切にします。見習ってください。私たちは、人間がサルに進化するのを待っているのです。いま、私が一番心配しているのは、キリンたちです。彼らは首を長くして、平和を待っているんです。これ以上待っていたら、首がちぎれてしまうかも。何百年も何千年も待っているんです。人間たちが殺しあうのを眺めながら、ずーっと待っているんです。自分たちは争いを避けるために、高い高いところにある葉っぱを食べて生きながら。たくさんたくさんなみだを流しながら。

 もちろん、戦争や殺し合いを止めようと頑張ってきた人間たちのなみだと話をしたこともありますけどね。でもまだ戦争し続けている。とにかく、私たちが棲んでいる海に、戦争をするための基地をつくるのは止めて下さい。海が泣きます。さんごも土も、地球も泣きます。同じ動物として仲良く生きたいとみんな思っているのです。私たちは2つの目を持っていますから、人間のすることを見ているんです。「戦争や殺し合いなんて止めなよ」って何回も何回も叫んでいるのに、聞いていない。おんなじ動物なのに、自分たちはエライと思っている。

 ベトナムの三つ目の胎児の話をしてくれたなみだもいます。二つの目では泣き足らないと思ったのか、三つ目で戦争をする人達をニラミたかったのか、この世の地獄を写し取りたかったのか。エージェント・オレンジ(ダイオキシン)という毒が作り出した三つ目の子。あいにく生まれ出てくることができなかったけれど、生まれ出てきて三つ目でなみだを流したら、地球が爆発したかもしれません。あなたがたが絶滅するのは勝手ですが、私たちもこの地球に暮らしています。地球を壊さないで。私たちの海で戦争の練習をしないで。海の中なら人間はいないからといって核実験するのは止めて。みんなの大地を血で染めるのは止めて。毒や騒音を撒き散らさないで。

 絶滅危惧種のレッドリストのトップにあるのは「人間」です。一度に何十万の命を奪う道具を持っているのは人間だけなのですから。みなさんには見えませんか?

 ではさようなら。健闘を祈ります。平和を祈ります。再会を祈ります。

辺野古沖のジュゴンより (2004/09/27)

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(参考リンク)

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