『法務省は16日、最高裁で強制退去処分が確定した群馬県高崎市のイラン人、アミネ・カリルさん(43)の長女マリアムさん(18)に在留特別許可を与えた。マリアムさんは同県内の短大に合格しており、イランに帰国せずそのまま進学できることになった。一方、残る一家3人に対しては、帰国を条件に4月27日まで仮放免期限を延長した』(毎日新聞)
アミネさんの弁護士は「(法相が)国民の声に耳を傾けた結果ではないか」と述べたそうです。私たちも少しは役に立ったのでしょうか?
アミネさん問題とは?
新聞等の報道でご存知の方もいらっしゃるかと存じますが、2歳から18歳になった今日に至るまで、日本で暮らしてきたマリアムさんとその家族が、イランに強制送還される見込みが高くなっています。昔から保育士になりたいという夢を抱いていたマリアムさんは、最近、育英短期大学保育学科への推薦入学が無事に決まったばかりです。
【事件の概要】
マリアムさんのお父さん、アミネ・カリルさんは、1990年、日本がまだ好景気でバブルに湧き、イランとの間でビザなし渡航を維持していた時期に、移住労働者として日本に入国。翌年には奥さんのファロキさんと、2歳のマリアムちゃんが入国しました。1996年には次女のシャザデちゃんが日本で誕生します。
ご推察のとおり、アミネさん、奥さん、マリアムちゃんは全員、短期滞在の資格しかなかったので、すぐにオーバーステイになりました。シャザデちゃんにも在留資格はありません。
しかしながら、一家は摘発など全く受けることなく、むしろ、他の多くのオーバーステイの外国人と同様、役所に行って外国人登録もし、子ども達は公立の学校に入学し、日本人の友達と共に、日本人と同じように成長していきました。アミネさんもファロキさんも子ども達の生活を支えるため真面目に働き、その温厚な人柄から、職場や地域から厚い信頼を獲得していました。
日本の自由な文化の中で成長していった娘二人は、宗教を強制され、ことに女性に関しては肌を隠さなければならない、一人で出かけられないといった厳しい文化が根強く存在するイランへの帰国を望みませんでした。ご両親は、このまま日本に残ることができないものかと葛藤しながら日々は過ぎていきました。
そんな家族に大きな転機が訪れたのは1999年のこと。APFS(Asian People’s Friendship Society)という外国人支援団体が、アミネさん達のように日本人と同化した外国人の子ども達を抱えるオーバーステイの家族に在留特別許可を求める一斉行動を提起したのです。このとき、5家族と単身者2人が出頭しましたが、その中にアミネさん家族もいました。
在留特別許可とは、オーバーステイであっても、人道的に特別な理由があれば、日本に合法的に在留することができるという入管法上の許可で、法務大臣の判断によって与えられます。一斉行動当時、この在特がどのような基準で与えられるのかは、一切公表されていませんでした。
当時マリアムちゃんは11歳、小学校6年生でしたが在特は降りませんでした。一方、同時期に出頭した、同じく11歳、しかし中学1年生になっていた子どもがいる別のイラン人家族には在特が与えられました。その他の事例と合わせても、法務大臣が、「10年以上滞在しており、子どもが中学校1年生以上の子どもがいる家族か否か(年齢ではなく)」で線引きをしていることが明らかになりました。
マリアムちゃんが中学校に入るまであと数ヶ月待っていれば在特が認められた可能性が高い、しかしその数ヶ月でここまで運命を分けるのはあんまりだと感じたアミネさん家族は、法務大臣の判断を取り消して欲しいという裁判を起こしました。そして2003年、東京地方裁判所は、アミネさん達の主張を全面的に認め、法務大臣に対して判断の取り消しを命じましたが、2004年に高等裁判所がこれを覆しました。弁護団はすぐさま上告しましたが、最高裁判所はその2年後に、「最高裁に上告するための要件がない」という理由で、内容の判断に踏み込まず不受理決定を下しました。これが今年の10月の出来事です。
というわけで、法的な解決手段を失った家族は、今、法務大臣に対して、自主的に退去強制処分を取り消して欲しいというお願い(「再審情願」といいます)をしているのですが、今のところ法務大臣は一家に対し、「12月8日までにイランに帰国せよ。」と言っており、それに応じない場合は家族を収容する見込みが高いのです。
どうか法務省へ「アミネさん一家に在留特別許可を認めてください。マリアムちゃんの夢をこわさないでください!」という内容のFAXをお送りください。18歳の娘の人生を救うためにご協力ください!
(法務省FAX番号:03-3592-7393)
【Q&A】
Q アミネさん達は最高裁でも負けているのに、何故、法務大臣が在特を与えなければいけないのでしょうか?
A まず今回の裁判は、マリアムちゃんが11歳の時に下された処分が違法か否かが争点でした。つまり、処分後の事情は今回の裁判には一切反映されていません。しかし、その裁判をやっているうちにマリアムちゃんは18歳になり、短大への入学も決まっている状態であり、次女も次春から中学校に進学します。処分時とは事情が全く異なり、日本に住み続ける必要性が格段に高まっています。
なお、最高裁は内容に踏み込んで判断したのではなく、最高裁判所が受理するための要件が揃っていないという、いわば門前払いの判断を下しただけです。(最高裁は、憲法違反や過去の判例違反など、限られた条件の下でのみ事件を受け付けることとなっています。)
Q そもそも自分たちで法律違反(オーバーステイ)したのだから、仕方ないのではないでしょうか?
A 2歳の時に日本に連れてこられたマリアムちゃんと、日本で生まれたシャザデちゃんたちには、オーバーステイについて一切責任がありません。かといって、この二人だけ日本に残って親は帰れと言って一家を引き裂くのもまた、余りにも残酷であり非現実的です。また、彼らが現在求めている在留特別許可とは、まさにオーバーステイ(その他退去強制事由全般)した人について、人道的な理由がある場合に認められるものです。
Q この人たちに在留許可を与えてしまうと、日本中のオーバーステイ家族が合法化されて、それを目的とした悪い外国人が一気に押し寄せる危険性はありませんか?
A 1999年の一斉行動によって、中学校1年生以上の子どもがいて10年以上滞在している家族については、在留特別許可が認められるという法務省内部の事実上の基準が明らかになりました。したがって、現状でも、上記の基準に合致する家族については合法化が図られています。それ以上に在特の基準を広がるかどうかは政府が決めることであり、アミネさん家族に現在も在特を与えない日本政府の姿勢からして、一気に在特の基準が広がって、オーバーステイ家族が皆合法化されるなどという可能性は極めて低いと言えます。
Q 上のAを読んで良く分からなくなったのですが、「中学校1年生以上の子どもがいて10年以上滞在している家族については、在留特別許可が認められるという法務省内部の事実上の基準」があるなら、何故法務大臣はアミネさん達に在特を与えないのですか?
A 最初に在特を求めて出頭したときはまだそのような内部基準が明らかでなかったため、マリアムちゃんは小学校6年生でした。そして、在特が認められず、裁判でも負けてしまい、法務大臣の処分が確定しました。法務大臣は、この、「小学校6年生の時に下された処分」の合法性が裁判で確定したのだから、改めて在特を出してあげる必要性がないという見解です。これに対して我々は、「あと数ヶ月待って出頭すれば在特が認められたのだったら、それから6年も経った今、認めてやってあげても良いではないか。」という主張をしているのです。
(以下、法務大臣の11月20日の記者会見でのコメントをそのまま全文掲載します。)
10日でしたですかね、あの許可期限が切れていますので出頭していただいて、帰国されるように要請したって聞いています。その際。といいますか強制退去を取り消してほしいという要望があったと、それにあわせて手紙を届けたっていうふうに報告聞いています。えー。まあ三つの時から日本に来ているんですね、大学ですか短大ですか、どっかに行くことになるんで置いてほしいという要望の文書であります。あの、最高裁でも決着のついた問題ですし、いろいろと事情があるにせよですね、きちんとした対応すべきことだと原則的には思っています。あの、いろいろ人権だ、人道だというはなしはもちろん大事な問題ですが、だからといって法律を破っていいというはなしになるのか、ならないのかは慎重に考えなきゃならない問題でですね、人道だ人権だといえばなんでも法律を破ってもいいんだということにはならないということは当然のこと。12月8日までは猶予はしたようでありますので、そこは理解してもらわないといかんのかなと思っています。
Q ならば現在の事情に基づいてもう一度在特を申請すれば良いのではないですか。それを認めてくれないなら、また裁判を起こせば良いのではないですか?
A 一旦、在特が却下=退去強制処分が下されてしまうと、法的には再度の在特申請が認められません。そのため、今残された方法は、法務大臣が「自主的に」過去の退去強制処分を撤回することしかないのです。
参考】歴史的な勝利!! 退去強制令書を取り消し!!~アミネ・カリルさん一家裁判~
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