(投稿者:司宮二)
大統領選陰謀論、日本語で特に拡散 米教授らSNS分析
(朝日2月10日:記事全文)
昨年の米大統領選をめぐって、「票が操作された」などという根拠のない情報は米国にとどまらず、世界中に広がった。米国の研究によると、特に日本語での拡散が目立ったという。なぜなのか。
米コーネル大の関連教育機関「コーネルテック」のモル・ネーマン教授らのチームは、「選挙を盗むな」「投票詐欺」などをキーワードに、大統領選前後の760万件のツイート、2560万件のリツイートを抽出、分析した。対象者は260万人に上った。
情報の流れ方を追ったところ、3万人以上の利用者で構成される大規模な日本語話者の集団が見つかった。米国に多く暮らす、スペイン語話者の規模も上回っていたという。
この日本語話者の集団の中には、著名な作家や、保守系の政治活動家のツイッターアカウントなども含まれていた。ネーマン教授らは朝日新聞の取材に「日本を事前に選んだのではなく、データ分析の中から見つかった」と語った。
(…中略…)米国の陰謀論が、日本で特に拡散しているという分析結果は、他にもある。
米国のソーシャルメディア分析会社「グラフィカ」によると、「QAnon」を広めようとする集団は昨年、米国以外では日本とブラジルで確認された。グラフィカは昨年8月の報告書で、日本の集団は米国発の「情報」を翻訳するなど、全体としては米国から影響を受けつつ、違った形で発展したと指摘。特に、トランプ氏に近いマイケル・フリン元大統領補佐官への支持が、日本では集団を活気づけていたという。
米大統領選をめぐって、日本のSNS上でどのような情報が広まったのか。一つの例は、ジョー・バイデン氏が昨年10月にポッドキャストのインタビューで話した内容がきっかけだった。
(…中略…)「voter fraud」は英語で「投票不正」を意味する。バイデン氏は本来は、「有権者を支援するための組織」を作ったと話そうとしていたが、意味が違う言葉を誤って使ったのだ。インタビュー全体を聞けば趣旨は明らかであり、陣営も後から修正した。
しかし、「voter fraud organization」という部分だけを切り取った動画がすぐに作成され、トランプ陣営などによって「バイデン氏が不正投票をする組織を作った」という誤った意味で広められた。日本でも「不正投票組織」と訳され、一気に拡散した。
(…中略…)同じように英語から日本語へとつたわっていく例は、大統領選の投開票をめぐってもあった。中西部ウィスコンシン州では最大都市ミルウォーキーの票が加わったことでバイデン氏がトランプ氏を逆転したが、「バイデン氏の得票数が短時間で増え、投票率が200%を超える計算になる」という誤情報が広がり、日本語でも「投票率200%」というフレーズが拡散。11月4日から6日に「ウィスコンシン」と「200%」の両単語を含むツイートは英語で約8200件に対し、日本語では約5万2千件と、大幅に多かった。
ネット炎上の仕組みに詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授はこうした情報が拡散した理由として「バックファイア効果」「メディアへの不満」「検証の難しさ」の3点を挙げる。
「バックファイア効果」とは、人は信じたい情報を否定されればされるほどその情報をより強固に信じてしまうことがある、という心理学の現象だ。(…中略…)ファクトチェックでそれを否定しても「メディアがウソを言っているんだ」と反発し、むしろその情報をより強く信じるようになる。
山口准教授によると、メディアへの信頼度が世界的に下がっていることも、「間接的に(真偽不明の情報の拡散に)影響を与えている」。さらに「郵便投票で不正があった」という市民が独自に検証することが難しい投稿に対し、SNS事業者が「警告」マークを付けるなどした結果、「SNSが独自の判断をしたのは許せない」などと、怒りを増幅させたとみる。
(…中略…)こうした情報の発信者については「必ずしも知識不足な人ではなく、むしろデータをグラフで見せるなど、論理的な面もある」と指摘する。
(…中略…)真偽不明の情報は、今後も日本のSNS上で広がっていくのか。山口准教授は「警戒はしないといけない」としつつも、「陰謀論」それ自体を恐れてはいけないと言う。
「人づてに広がっていた情報がSNSの登場で可視され、拡散も加速した。しかし、陰謀論は昔からあり、すべてなくそうとすることは現実的ではない。むしろその存在を前提に、政治や社会に与える影響をどう軽減できるかを考えていくべきだ」
→記事全文
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(一)
ご紹介いただいた記事は無料登録者でも読めたので、引用されておられる部分以外の、誤情報が拡散されていく経緯などを興味深く読みました。トランプ氏は感覚的で検証必要なツィートを何千何万と次々と発信し、ファクトチェックや冷静な議論も追いつかない様相を作り出すことを戦略にしていました。「ポスト真実」「反知性」なんて言われてましたが、元からそういうことを集団でしていた日本のネトウヨさんたちには、ぴったりツボにはまるところがあるのでしょうね。
こういった日本語ツィートのみを分析した日本人研究者の追跡では、実際にはその6%くらいの発信者が全体を牽引していたという記事もあったと記憶してます。それがネット限定とはいえ、ネトウヨやQAnon信者、レイシストらが擬制的な「世論」あつかいして、彼らに元気を与えてしまうのも、トランプが残した傷跡と言えるでしょうし、その「世論」が一部の人間にすぎなかったのを明らかにしたのも今回の事態です。しかしいずれにせよこういう負の連鎖の克服は容易ではありません。
(二)
最後の山口准教授の指摘には気づかされることもありました。このようなネット限定の作られた「世論」やデマ、陰謀論に、逆にこちらが振り回されてはいけないと。社会運動の側にも、ネットにどっぷり浸かっていると、精神がこいつらの側(ネット)に侵食されて、こいつらに攻撃されないように先回りして「そんなこと(主張)はやめろ」なんて制動をかけてくる人もいます。それでは本末転倒、まさにこいつらの思う壷です。
山口准教授の言うように、陰謀論やデマやネトウヨ的な言説は、ネットがある前から存在する古臭い所業で、ちっとも新しくもなんでもない。ネットでそれが可視化されたからと言って、今さらそれ自体をなくそうと徒手空拳で相手にしても無理があるし徒労です。今の社会でそういったものは完全にはなくならない。一方で、無視したり軽視することも絶対にできない。許しがたいものであることは明白です。
(三)
問題はそういったものがあることを前提にしつつ、反差別や反戦など、自分の良心に基づいて言いたいこと、やるべきと思ったことをしっかりやることだと思います。それが大前提です。そこではネット上の陰謀論やネトウヨ言説やその拡散を過剰に恐れたり、逆に無視してはいけません。
つまりネットにどっぷり浸かってこいつらに気を使ってやる必要は皆無ですが、一方でこういったデマ、陰謀論によって社会が傷つくのを、左右の主張をも超えて、みんなでできるだけ軽減する(特に中高生などの未成年を守る)方策も考えて行動していくべきかと思います。こいつらに振り回されたり、そのせいで自分たちの口をふさいで、運動の中に亀裂をもちこまれるなど愚の骨頂ですから。
そういったことは私がこのブログの中で何回も主張していたことでもあります。ご紹介いただいた今回の記事を読んで、あらためてその思いを強固にしました。
(四)
今回のトランプが発信した「大統領選陰謀論」の拡散は、現職のアメリカ大統領がデマの発信源という世界的に注目される事態であったからこそ、従軍「慰安婦」や沖縄へのヘイト、各種の差別問題や野宿労働者への蔑視など、普段は見えないこういった構造を白日にさらしたという意味で、逆に意義深く、私たちに勇気と確信を与えるものでもありました。
日本ではだいたい3万人超というアクティブな層(=ネトウヨ)と、そのうち5~7%程度と思われるコア層の人数も見えてきた。おそらくそれに影響を受けた周辺の心情的な付和雷同分子をいれると、その10倍の30数万人というところでしょうか。多いように感じるかしれませんが、70年安保当時の新左翼(マスコミ用語で過激派)勢力と比べてさえもずっと少ないと思う。
日本ではまだ国政選挙や世論全体を左右するほどではありませんが(最高権力者のトランプが扇動していたアメリカではそうとも言い切れない)、いずれにせよこの事態を単に「トランプの悪あがき」としてしまうのではなく、今回のことを忘れず心に留め、ネトウヨ層に攻撃された時などに思い出して、今後も勇気をもって対処していくべきことを教える事態だったと思います。デマを武器とした分断に抗して、社会的連帯を構築していきましょう。
草加さん、お久しぶりです。司です。
そうそう。。。ってすげえな!
こんな考察、わしには絶対かけねえ゚゚(゚´Д`゚)゚
すべて異議ナーーーシ!でございます。
こんな力作、コメント欄に置いとくのももったいないなあ。
昔みたいにエントリーにスピンアウトしたら?
あ、それからいつもいろいろ見栄えを編集してくれてありがとうございます。
本当に何もかもぶんなげですんません。