分断の時代を越える2.2シンポ(小倉利丸さん他)に参加して

by ジグザグ会/大川ふとし

 先日、ジグザグ会のメンバーも何人か主催者側にいるという縁もあり、小倉利丸さんの話も聞いてみたかったので、「分断の時代を越える2.2シンポ」に参加してきました。個人的に印象に残ったことを書いてみます。
 前回のシンポもそうですが、この講座は講師とテーマの選定が興味をひかれるので、宣伝していないわりには参加者も多く、とりわけ従来の左翼系の催しには来なかったような新しい層の参加が目立つように思いました。

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小倉利丸さんのお話はよかった

 まず、小倉さんのお話はとても面白く、刺激を受けました。小倉さんのお話の全体はレジュメを載せておきますので、是非ともそちらを見ていただきたいと思うのですが、私が特に印象に残っている部分は、フランスのイエローベスト運動などを例にあげながら、全世界的に右翼が左翼の専売特許である資本主義批判の主張を簒奪して大衆に侵食、あろうことかこれまで日本のマスコミでは「左翼過激派」扱いされていた左派のブラックブロック戦術までもが、イエローベストの中で右翼に模倣、横領されているという指摘でした。

イエローベスト運動

 このように、イエローベストなど大衆の自然発生的な運動の高揚に、右翼が左派の主張と戦術を横取りして介入しているのに対し、むしろ今こそ先頭に立つべき従来の左翼勢力やネグリなどの知識人が、基本的には運動を支持しつつも、この運動に戸惑い、一歩引いたスタンスになってしまっていると。
 ちなみにこれは日本の反原発運動の高揚でも一部見られた現象であって、これに歯がゆい思いで「左派は何を萎縮しているんだ」と、従来の左右を問わずあった悪しき運動統制のような、自分たち以外の主張の排除ではなく、まったく逆に運動の多様性と自由で風通しのよい伸び伸びした明るさを求めて結成されたという私たちジグザグ会の原点にもかかわるお話でした。

 くわしくはレジュメを見ていただきたいのですが、小倉さんは問題点を言いっぱなしではなく、このようになった原因や構造、そしてちゃんと右翼の主張内容やその適否なども公平に検討し、左派の従来の主張の弱点、そしてなにより現在の資本主義の枠組みや構造を正しく把握し、そこにおける「反資本主義」とはどういうことであるのかにまで踏み込んで、問題を提起しておられたと思います。

補足
レジュメの内容については小倉さんのサイトに全文が掲載されています。集会の規模や持ち時間に比して、非常に本格的な論考になっており、この講座にかなり期待されて力を入れておられたのではと推察します。

パネラー3人からのお話

分断の時代を越える2.2シンポ

 つづいて主催者側から3人のパネラー(なのかな?)の発言がありました。
 山口智之さんのお話は、大きな力《権力》による分断、小さな場面《大衆的な日常場面=内面化された差別意識等》での分断といったお話で、当日のテーマの中で、私としては小倉さんの提起する反資本主義左派の課題とからめて理解し、興味のある内容でした。

 津川勤さんのお話は、ご本人の経験談みたいな感じで、世代間の分断(?)とか、自然発生性とか突然変異とか、笠井潔の「ユートピアの冒険」に入れ込んだとか、ザイトク右翼の暴力の激化が逆に左翼の復興を呼び起こすと期待したんだがぁとか、話すうちに続きは討論の中で……とかになりました。ご本人も常々「俺はまとめる気なんかない」とおっしゃっているそうですが、その通りになってしまって、私の能力と経験では何が言いたいのかよくわかりませんでした。

 最後の原 隆さんのお話は、レジュメを用意してこられたので、だいたいこの通りのお話でした。くわしくはレジュメを見ていただくとして、「左翼の問題点」に関しては、私のような政治党派や団体に属さない人間にとってみれば「まあそりゃそうだよね」という感じで、そんなこと会場に来ていた一般の人に力こぶ出して論じても受け止められないだろうというか、現役左翼の方との感覚の乖離を感じました。今後については「反資本主義、直接民主制」の「プラットフォーム」を作ろうということでしたが、「左翼としての意気込み」以外は具体的には何をしたいのかはよくわかりませんでした。思想運動かな?

質疑応答

 休憩をはさんで、50分ほどのシンポ(というか質疑応答)にうつりました。。
 会場2名から小倉さんへの質問がありました。たしか「富山は日本のスウェーデンという話題をどう思う?」とか、シールズ系の運動評価をめぐってだったかな?直接には小倉さんの提起とは関係ないお話でした。その後も津川さんが先の続きのような調子でいろいろと長く話していたような。ただあまり興味をひかれなかったので、申し訳ないけどよくおぼえていません(笑)。

 この辺から小倉さんもだいぶ疲れた顔をされていましたが、途中でその小倉さんが自身が手を挙げて移民労働者の問題に取り組んでいる山口さんに質問され、右翼が「移民労働者も本当は祖国で暮らしたい。祖国を真っ当な国にして《それはただの口実-レトリックである》移民労働者を送り返そうという主張があるが?」ということなどについて論議され、そこは聞いていて参考になりました。

終わっての感想

 全体的な感想としては、前半の、特に小倉さんのお話が興味深かったし、行って良かったと思います。ただ、後半の討論(?)については、前半の発言や問題提起を深めるような内容は皆無で、小倉さんと山口さんの質疑をのぞけば、みんなが他のパネラーのことなど関係なく、自分の言いたいことだけを言ってる印象。要するに前半に小倉さんの講演を聞いて、後半に「各団体個人からの決意表明」が続く「○○総決起集会」なんかと変わらないなと思いました。そう言って悪ければ「放談会」というか。

 それならそれで全然いいんですが、ただ「討論会」とか、ましてや「シンポジウム」では絶対なかったよね(笑)。会場も含めて幅広い議論をしようという雰囲気はあまりなかったです。「悪しき左翼のあり方」をどうこうすると言うのなら、そのへん考えてほしかったかな。あれは発言者と同じ「現役」か、鉄の心臓をもっている人でもなければ「富山は日本のスウェーデン」くらいのことしか素面では言えないでしょうね。

今後への意見(シンポを名乗る必要があるのか)

分断の時代を越える2.2シンポ

 それで思ったのですが、たしかに酒の席での話なら、津川さんのトークも活きて、とても楽しくて面白かったかもです!本当に小さい声で言いますが、あれは素面の席で聞く話ではありません。最近は居酒屋で「トークイベント」とか題して、酒飲みながら会場と共に放談する形式もあるのですから、変にシンポとか講座とか言うから、わけがわからんのです。かえってもったいないかもです。そうすると今度は「身内うけ」にしかならないという危険もありますし、まあ、居酒屋の放談会に小倉さん呼んで、あんなすごいレジュメ(見た時驚きました)を作ってもらって、あのレベルのお話をお願いするわけにはいかないでしょうが。

 そのへんを、現在ご家族が倒れられて実家に帰省中の草加さん(当日も欠席)に電話で聞いたら「講演会ではないので、事前の打ち合わせで予定調和的に話をまとめるようなことはやめようね」という確認があったとのことでした。確かにそれもアリだとは思います。ただ予定調和というか、いわゆる《型》を崩してマンネリ打破とか新味を出すというのは、《型》が完璧にできるようになってはじめて言えることであって、そうでなければ単に己の未熟さへの言い訳にしかならないと思う。結局は身に染み付いた「総決起集会」方式になってたし。

 草加さんにそのへん言ったら、「『シンポジウム』という形式とか、その運営方法とか、いろいろ検索して本とか文章読んで調べてはいたんだけど、時間的にそれを提起して全体化する機会もなかった」とのことでした。しかし、読んだだけでそれができるのだろうかと聞いたら、「学者レベルの人が参加するシンポの運営とか、オレには無理だろう」と。だったら最初から「シンポジウム」とか名乗んなよ~(笑)。

 ご家族の事情もあって参加できなかった人に言うのは酷かもしれませんが、せっかくこれまで来なかったような新しい層が、テーマや講師に惹かれて来てくれてるんだから、このまま回を追うごとに少なくなって、結局は「いつもの顔ぶれ」しか残らなかったみたいなオチにならないように。この最後の章は書かなくてもいいようなもんだけど、むしろ高く評価して面白かったし、今後に期待するからこそ書くんだから、しっかりしてね草加さん!

(注:元は3本の投稿だったものを草加の責任で1本にまとめました。したがいまして掲載の可否も含め、内容の文責は草加にあります)

   

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