10
年よった悪魔は、三人の兄弟を取っちめたと言う便りが来るか来るかと待っていました。が待っても待っても来ませんでした。そこで自分で出かけて行って、調べはじめました。
かれはさんざんさがしまわりました。ところが三人の小悪魔にはあえないで、三つの小さな穴を見つけただけでした。
「てっきりやりしくじったにちがいない。そうとすりゃおれがやりゃよかった。」
そこで年よった悪魔は三人の兄弟をさがしに出かけましたが、かれらは元のところには住んでいないで、めいめいちがった国にいるのがわかりました。三人が三人とも、いい身分になって、立派に国を治めていました。それが、年よった悪魔をひどく困らせました。
「ようし。じゃおれの腕でやらなくちゃなるまい。」
と年よった悪魔は言いました。
年よった悪魔は、まず一番にシモン王のところへ、出かけました。しかし自分のほんとの姿ではなく、悪魔は将軍の姿にばけて、シモンの御殿へのり込んだのでした。
「シモン王様。」と年寄りの悪魔は言いました。
「かねてお勇ましい御名前はよくうけたまわっております。つきまして、私(わたくし)も兵のことについてはいろいろと心得ております。ぜひあなたに御奉公申し上げたいと存じます。」と言いました。
シモン王は、将軍にばけた悪魔にいろいろたずねてみました。そして、かれが役にたつことがわかったので、そば近く置いて使うことにしました。
この新しい司令官は、シモン王に強い軍隊の作りかたを教えはじめました。
「まず第一にもっと兵隊を集めましょう。国にはまだうんと遊んでいるものがおります。若い者は一人残らず兵隊にしなくちゃいけません。すると今の五倍だけの兵隊を得ることになります。」
「次には新しい銃と大砲を手に入れなくちゃなりません。私(わたくし)は一時に五百発の弾丸(たま)を打ち出す銃をお目にかけることにいたしましょう。それは弾丸が豆のように飛び出します。さてそれから大砲も備えましょう。この大砲はあたれば人でも馬でも城でも焼いてしまいます。何でもみんな燃えてしまう大砲です。」
シモン王はこの新しい司令官の言うことに耳をかたむけて、国中の若者残らずを兵隊にしてしまい、また新式の銃や大砲をつくるために、新しくたくさんの工場をたてて、それらのものをこさえさせました。
やがて、シモン王は、隣りの国の王に戦をしかけました。そして敵の軍隊に出あうやいなや、シモン王は兵隊たちに命令して新しい銃や大砲を雨霰(あめあられ)のように打ちかけて、またたく間に敵の軍隊の半分を打ち倒してしまいました。そこで隣の国の王はふるえ上って降参し、その領地のすべてを引きわたしました。
シモン王は大喜びでした。
「今度は印度王をうち平げてやろう。」
とシモン王は言いました。
ところが印度王はシモン王のことを聞いて、すっかりその考えをまねてしまいました。そしてそればかりでなく、自分の方でいろいろと工夫しました。印度王の兵隊は、若い者ばかりでなく、よめ入前の娘まで加えて、シモン王の兵隊よりもずっとたくさんの兵隊を集めました。その上シモン王の銃や大砲とそっくり、同じものを作り、なお空を飛んで爆弾を投げ下す方法まで考えつきました。
シモン王は、隣の国の王を打ち負かしたと同じように印度王を負かしてやろうと考えて、いよいよ戦をはじめました。けれども、そんなに切れ味のよかった鎌も、今ではすっかり刃がかけてしまっていました。
印度王はシモンの兵隊が弾丸(たま)のあたる場所まで行かないうちに、娘たちを空へ出して爆弾を投げ下させました。娘たちは、まるで油虫(あぶらむし)に砂でもまくように、シモンの兵隊の上に、爆弾を投げ下しました。そこで、シモン王の兵隊は逃げ出し、シモン王一人だけ、とり残されてしまいました。
印度王はシモンの領地を取り上げてしまい、兵隊のシモンは命からがら逃げ出しました。
さて、年よった悪魔はこちらを片づけたので今度はタラス王の方へ向いました。悪魔は商人に化けてタラスの国に足をとめ、店を出して、金を使いはじめました。
かれは何を買っても大へん高くお金を払うので、誰もかれもお金欲しさに、どしどしこの新しい商人のところへ集まって来ました。そこで大したお金が人々のふところに入って、人民たちはとどこおりなく税金を払うことが出来ました。
タラス王はほくほくもので喜びました。
「今度来たあの商人は気に入った。これでおれはよりたくさんの金を残すことが出来た。したがっておれの暮しはますますゆかいになるというものだ。」
とタラス王は思いました。
そこでタラス王は、新しい御殿をたてることにしました。かれは掲示を出して、材木や石材などを買入れることから、人夫を使うことをふれさせ、何によらず高い価(ね)を払うことにしました。タラス王はこうしておけば、今までのように人民たちが先を争って来るだろう、と考えていました。
ところが、驚いたことには、材木も石材も人夫もすっかりれいの商人のところへ取られてしまいました。タラス王は価(ね)を引き上げました。すると商人は、それよりもずっと上につけました。タラス王はたくさんの金がありましたが、れいの商人はもっとたくさん持っています。で、商人は何から何までタラス王の上に出ました。タラス王の御殿はそのままで、普請(ふしん)はちっともはかどりませんでした。
タラス王は庭をこさえようと考えました。秋になったので、その庭へ木を植えさせるつもりで、人民たちを呼びましたが、誰一人やって来ませんでした。みんな、れいの商人の家(うち)の池を掘りに行っていました。
冬が来て、タラス王は、新しい外套につける黒貂(くろてん)の皮が欲しくなったので、使(つかい)の者に買わせにやりました。すると使のものは帰って来て、言いました。
「黒貂の皮は一枚もございません。あの商人がすっかり高価(たかね)で買いしめてしまって、敷物をこさえてしまいました。」
タラス王は今度は馬を買おうと思って、使をやりました。すると使の者が帰って来て言いました。
「あの商人が、残らず買ってしまいました。池に満たす水を運ばすためでございます。」
タラス王のすることは、何もかも、すっかり止まってしまいました。人民たちは誰一人タラス王の仕事をしようとはしませんでした。毎日せっせと働いて、例の商人から貰った金を、王のところへ持って来て納めるだけでした。
こうして、タラス王はしまい切れないほどの金を集めることは出来ましたが、その暮しといったら、それはみじめになりました。王はもういろんなくわだてをやめて、ただ生きて行けるだけでがまんするようになりましたが、やがてそれも出来なくなりました。
すべてに不自由しました。料理人も、馭者(ぎょしゃ)も、召使も、家来も、一人々々王を置き去りにして、れいの商人のところへ行ってしまいました。まもなく食物(たべもの)にもさしつかえるようになりました。市場へ人をやってみると、何も買うものがありませんでした。――つまり例の商人が何もかも買い占めてしまって、人民たちはただ税金だけ王のところへ納めに来るだけでした。
タラス王は大へん腹を立てて、例の商人を国より外へ追い出してしまいました。ところが商人は、国ざかいのすぐ近くへ住まって、やはり前と同じようにやっています。人民たちは金欲しさに王をのけ者にしてしまって、何でもすべて商人のところへ持って行ってしまいました。
タラス王はいよいよ困ってしまいました。何日もの間、食べるものがありませんでした。そしてうわさに聞くと、例の商人は今度はタラス王を買うと言って、いばっていると言うことでした。タラス王はすっかり胆をつぶして、どうしていいかわからなくなってしまいました。
ちょうどこの時兵隊のシモンがやって来て、
「助けてくれ、印度王にすっかりやられてしまった。」
と言いました。
しかし、タラス王自身も動きのとれないくらい苦しい立場になっていましたので、
「おれももう二日間というもの何一つ食べるものがないのだ。」
と言いました。
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