2021.03.30 学習会】文政権 VS 検察 ー韓国で今、何が起きているか? に参加

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(動画撮影:U PLAN様

 3月に出席した学習講演会ですが、下書きのまま忘れていました!(ノ≧ڡ≦)
 最近、近づく韓国大統領選の話題を見かけるようになりましたので、今なら出せる的な。

 一応、下記のコモンズの記事で最低限の基礎知識はあったのですが、その後の推移を心配していました。韓国の検察改革は徹底的な抵抗の中でもひるまず、なんとか最後まで成し遂げられたということで、とりあえずはよかったと思います。定着するまでまだ安心はできないでしょうが。

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学習会呼びかけ文から

〇 ろうそく市民が選んだ文大統領
 2016年冬から翌春にかけて、極端な貧富の格差、雇用、低賃金、学費など様々な問題を抱えた市民が、1700万本のろうそくに火を灯した。これは朴槿恵現職大統領を弾劾(罷免)しただけではない。一人ひとりが抱えている、切実な全ての問題は民主的な政府が成立しない限り解決できないとし、最も民主主義的価値に相応する文在寅を大統領に選んだ。
「主権は国民にあり」とひたすら叫んだろうそく市民。

「闇は光に勝てない」ろうそく革命


〇 「ろうそく市民の申し子」と自認する文大統領は
 国会内外の既得権益層、保守メディアによる抵抗・反撃の中、真の民主主義確立のための新法、改正法を制定。
 →検察改革、司法改革、経済民主化…。

〇 文在寅政権VS検察
 検察改革はろうそく市民が要求した積弊の清算の本丸。これに対し反撃に出た検察、加担する保守メディア。
 邦字新聞は「韓国メディアによると…」という記事を垂れ流す
 →信憑性は??
 また、対立の背景にある歴史を無視し、非は大統領にあるという論調。読者もまたそのまま信じ、ワイドショーなどの無責任な解説やネット上で更に歪められ、増幅・拡散している。

隣国・韓国で今、本当は何が起きているか?北川さんに分析・解説していただきます。

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当日のレジュメから

スペースたんぽぽ 2021.3.30

文在寅政権 VS 伊錫悦検察
ー韓国で今、何が起きているか?ー

講師:北川広和(「日韓分析」編集人)

※以下、講演の内容等で個人的にレジュメを補足したので文責は草加とします。
※上の北川さん講演の動画を聞きながらご覧いただくとわかりやすいと思います。

はじめに

「日韓分析」の方法/「社説余滴」(2.14 朝日
  →「文政権はリベラルではない」と指摘

「反北朝鮮」かどうか「親日本(政府)」かどうかだけでしか判断しない。そうでなければ全部がダメみたいな日本マスコミの論調。民族分断国家という事情、友好国だが侵略を受けた歴史、そういう複雑な事情をまったく無視して単純化などできないはず。

Ⅰ.文政権が清算すべき積弊とはー民主化こそロウソク革命の願い

1.政経癒着の打破と経済の民主化

  • 韓国民衆のロウソク革命は、李明博・朴槿恵政権が生んだ積弊の清算を文在寅政権に託した。
  • 朴槿恵に李在錦・サムスン電子副会長が賄賂など政経癒着が頻繁に。
  • 財閥による経済支配の弊害。貧富の拡大、若者の貧困化、生まれた家に金がないと教育に多額の経費をかけらない→多くの若者が財閥企業に就職できない三無世代に。

・「積弊清算」はロウソク革命民衆の願いであり、文在寅はそれを全面的に受け入れ公約した候補だった。→政治の民主化・金権支配一掃、経済の民主化
・若者が子供を持てない社会(出生率0.8人の少子化)
・文政権で「政経癒着」は絶てたが、財閥そのものは手つかず「経済の民主化」はできていない→サムスンだけで韓国GDPの20%という強大な力をもっている

三無(三放世代 恋愛・結婚・出産を放棄している若者世代のこと。韓国国内で増大する低賃金かつ不安定なワーキングプアの産物であるとみなされている。就職・マイホームも諦めた五放世代、さらに人間関係・夢の7つを諦めざるを得なくなる七放世代という表現も現れた(wikipedia より)。

2.政治の民主化―文大統領が公約の第1に掲げたのが検察権力の改革

※文大統領が「政治の民主化」で第一に公約していたのが検察改革だった

(1) 韓国の民主化運動・労働運動の弾圧
  • KCIA → 国家安全企画部 → 国家情報院
  • 検察権力が肥大化した背景一日帝による朝鮮植民地支配が関係

・諸外国のような起訴権(司法)に加えて通常捜査権(警察権力)までもっている
・「国家保安法」によって民主化運動、労働運動を弾圧する強大な権力
→植民地時代の日帝警察は起訴権まで持っており、自由自在に弾圧が可能で警察権が肥大化。もともとは独立後にこれとのバランスをとって警察権を弱めるための措置だった

(2) 文政権と検察の攻防

検察改革の内容=検察の警察権を廃し、諸外国と同じく起訴権のみとして司法に集中させる。権力犯罪については政治的に中立で専任の特捜部(公捜庁)を設置.(検察を絶対権力を持つ恣意的な政治弾圧の機関から、諸外国と同じ通常の行政機関へ)。

  • 2019年8月9日 文大統領が閣僚 10名の内閣改造を発表。曺国(チョ・グク)民情首席補佐官を法相に任命。→とりわけ検察改革に熱心。検察による全力での抵抗がはじまる。
  • 8月26日 与野党が、曺国氏が法相に適任か問う人事聴聞会を9月初めに開催と発表。
  • 8月27日 ソウル中央地検が聴聞会の直前に「曺国氏の娘が、大学に不正入学し、不正に奨学金を受給した」として、高麗大など関係先の強制捜査に乗り出す。その後、「妻の大学教授が、大学総長の表彰状を偽造した」などの疑惑を地検が保守系紙に次々とリーク
  • 日本のマスコミ(特にワイドショー番組)は保守系紙の記事を元ネタに文政権を攻撃
    →産経新聞の社説だけを紹介して「これが日本人の意見だ」というようなもの
  • 9月6日 曺国氏が国会聴聞会で、自分としては身に覚えがないと無実を主張。
    検察、曺国氏の妻を私文書偽造で在宅起訴。→ 李洛淵首相が批判。
    ただの一度も事情聴取など通常の手順をふまず、聴聞会当日にあわせた政治的起訴
  • 9月9日 曺国氏が正式に法相に就任。
    検察、曺国相の妻が私設ファンドに不透明な投資をした疑いで、ファンドの代表の逮捕状を請求 →裁判所は請求を棄却。
  • 9月16日 野党・自由韓国党の黄教安代表が国会前で丸刈りのパフォーマンス。「曺国法相は辞任せよ」と叫ぶ。保守野党が検察を援護射撃。
  • 9月17日 法相が、高位公職者の犯罪を捜査する部署の設置に向け「検察改革支援団」発足。
    →のちの公捜庁設置につながる重要な動き
  • 9月23日 ソウル中央地検、報復として法相の自宅を罪状を明らかにしないまま家宅捜索。
  • 9月25日 検察、法相の息子を事情聴取。「インターンシップの偽造された証明書を大学院の入試に活用した疑いで」と保守メディアが報じる。保守メディアが検察を援護。
  • 9月28日 「検察改革・司法積弊清算 汎国民市民連帯」がソウルの大検察庁前で 200万人のキャンドル集会を開催→民意の支持。
  • 10月14日 曺国法相が包括的検察改革案を示す。同時に「これ以上、私の家族のことで政府に負担をかけることはできない」と表明し、辞任した。(第一幕の終わり)
韓国検察改革
ソウル地検前で200万人が参加した「検察改革・司法積弊清算 汎国民市民連帯
日本のマスコミはこういった検察改革に対する世論の支持は全く報じなかった。

3.攻防はなぜ起きたのか

  • 韓国の保守言論も日本のマスコミも、検察が文政権の不正腐敗を次々と暴きだしたので、文政権はこれを止めさせようと検察権力に圧力を加えた、と報じてきた。
  • 事実は、まったく逆である。それは、上の経過から明らかである。
    →検察改革のほうが先。検察権力がこれを止めさせようと文政権に圧力を加えた

4.攻防の第2幕 —秋美愛法相と伊錫悦検事総長の対立

  • 2019年12月30日 韓国国会が「高位公職者犯罪捜査庁(公捜庁)」を設置する法案を可決・成立。
  • 12月31日 ソウル中央地検、曺国氏を家族の不正疑惑に関与したと、12の罪状で在宅起訴。
    → なぜ辞任した曺国前法相をさらに追及したのか?
     後任の法曹に「検察改革するならお前もこうしてやるぞ」という脅し

韓国の検察は、大統領が退任した時に本人(無理なら親族)の強制捜査を行い、新大統領に「我々の権力に手を出すな」と圧力をかけるのが常→労働・民衆運動に弾圧を行いながら、三権に並ぶ不可侵の「第四の権力」と呼ばれ、韓国の民主主義を歪めてきた存在(最大の政治的積弊)

2019年100万人が参加した検察包囲行動
  • 2020年1月2日 文大統領が、曺国氏の後任として、秋美愛(チュ・ミエ)議員を法相に任命。
  • 1月8日 秋法相が、検察幹部 32人の人事異動を発表。
  • 1月23日 秋法相が、検事 759 人の人事異動を発表。
  • 1月31日 検察の報告、秋法相の息子の兵役疑惑を提起。保守メディアが大々的に報じる。
    →「兵役休暇の不当延長」実は足の手術で動けなかっただけだった。以後も検察は必死で「捜査」するも、うまく事件化するようなネタをだせなかった。
  • 4月15日 韓国総選挙 文政権が地滑り的な大勝→民主化後最大の巨大与党に
    ・与党「共に民主党」 128 → 180 議席(全300議席中)
    ・野党「未来韓国党」 112 → 103 議席
    ・野党「正義党」6 → 6議席
    【参考】韓国総選挙詳細分析(日韓ネット・かもめ)
  • 11月24日 秋法相が、尹検事総長の懲戒を請求。同時に職務停止を命令。
  • 12月初旬 尹総長の職務復帰が認められる。懲戒も棄却される。
  • 12月10日 国会で「公捜庁」設置のための改正案が可決・成立
  • 12月15日 文大統領は「民主主義的改革を達成できた」と表明。
  • 12月16日 秋法相が辞意を表明。後任は、朴範界議員に。
    →日本では「文政権の敗北」のように評したが実際は逆だった。
  • 12月30日「公捜庁」の初代長官に金鉉星・憲法裁判所常任研究員を指名。
    →これまで検察自身の不正を監視する機関がなく万能で不可侵の権力だった。今後は公捜庁の権限の範囲に検察も含まれる。

5.今年(2021)に入っての動向

  • 2021年1月 公捜庁が正式に設置され始動。検察が持つ捜査権を警察に移管する法律が施行。
    →同時に捜査権を移管した警察の権力肥大化を防ぐために、各地方の警察(自治警察)と中央(国家警察)に分割した
    民主主義的改革の成功→改革は文政権の検察権力に対する勝利で終わった。
  • 2月 共に民主党の議員らが「重大犯罪捜査庁」の設置に関する法律を発表。検察がもつ6大犯罪(腐敗、経済、公職者、選挙、防衛産業、大型惨事)の捜査権を警察内に設置される「捜査庁」に移すとしている。早ければ3月中にも成立と報道。
  • 3月4日 尹錫悦検事総長が任期を残して法務省に辞表を提出。
    →「検察での私の任務はもうこれまでだ」との敗北宣言であると同時に、いずれかの保守政党から大統領選挙に出馬することを示唆

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Ⅱ.残された対外的な積弊

1.南北交流による平和実現を米国が妨害

  • 文大統領は、韓国民衆の願いを受け入れて、金正恩総書記と首脳会談を実現。
  • トランプ前政権が「米韓ワーキンググループ」を無理やり設置。
    バイデン新政権も維持すると同時に、米韓合同軍事演習を強行。

2.植民地支配も清算すべき重大な積弊

(1) 日韓慰安婦合意の問題性
(2) 裁判の判決に「主権免除」と主張する菅政権
(3) 韓国大法院が元徴用工勝訴の判決
(4)菅首相の責務 「韓国と外交せよ」「過去の清算に取り組め」「歴史認識を明らかにせよ」

以上

補足】韓国映画「ザ・キング」

 韓国で大ヒットした検察を舞台にしたエンターテインメント映画です。コミカルな描写も多く、そんなに重々しい政治性はありませんが、日本ではわかりにくい「検察権力」というものについて、あるいは韓国で検察という世界がどのように見られているかを知るにはいいかもしれません。
 前提として韓国検察は自由な捜査権(警察権)と起訴権を同時にもつ万能の存在であると知っていると楽しめると思います。
あらすじ(ネタバレあり)はこちら(Mirtomo)

韓国映画「ザ・キング」予告編

 基本的に政治性はありませんが、それでも文大統領と同じく、公約の検察改革に手をつけようとした盧武鉉(ノムヒョン)大統領が、保守マスコミ+保守野党を味方につけた検察に徹底的に潰されるエピソードもでてきます。盧武鉉は退任後も後継政権への見せしめに、検察から周辺家族のスキャンダルを大々的にリークされて、最後は自殺にまで追い込まれます。ろうそく革命前まで「検察改革」は進歩派(革新派)大統領の鬼門だったのです。ちょっと民主党政権を思い出します。

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