「自分の政治的位置を知る(1)」からの続きです
前回のPolitical Compassの紹介のあと、すぐに自分のテスト結果を掲載してこの話題は終わる予定でした。2回に分けたのは、単に非常に長くなるからです。しかし、前回のエントリーの後、「太陽に集いしもの」様のコメントや、TAMO2さんのコメントで紹介していただいた大西広さんの記事、さらに秀さんのブログのエントリーと、貴重な意見をいただき、このテストについて、もう少し整理しておかなくてはと思いました。
このエントリーのテーマは「自分の(客観的な)政治的位置を知る」ということです。そのためにPolitical Compassのテストを用いてみようということが出発点だったわけですね。ところが冒頭に本来それとはまったく趣旨の違う「太陽に集いしもの」様の基準をご紹介させていただき、さらに両者を説明なく同一の地平でミックスして論じてしまったがために、読まれる方に混乱を与えてしまいました。申し訳ありません。
前回のエントリーでとりあげたのは、Political Compassで提唱されている政治的分布図についての論及でした。これは社会的に存在する政治的対立を簡潔に説明するには有用な方法ではと思われました。また、そこから見えてくるものについて、いろいろと考察しようと試みたわけです。そこで今回は、そもそもPolitical Compassって何をするものかという趣旨を確認しておきたいと思います。それから皆様にいただいたコメントなどとの関係をみていきたいと思います。
まず、Political Compassのテストは、現在の社会の中での自分の政治的な位置がどのあたりにあるのか、それを客観的に測定するためのテストです。ですから、ここでの左翼・右翼というのは相対的なものであり、明確な定義を確定しようという試みとは、そもそも質が違うものなのです。
テストでは特に政治に関心がなくても、普通に新聞を読んでいれば知っているような問題につき、むしろ論理よりも感情の赴くままに答えることを要請されます。そしてそれを数値化して、その人が(あくまでも現代の社会における平均の中では)どれくらいの政治的位置にいるのかを示そうというものです。ですから、たとえば中世の封建主義イデオロギーの中で生きていた人なら、たとえその時代の中では非常に進歩的な人であったとしても(現代人を基準にしているPolitical Compassでは)権威主義的保守のエリアに分類されてしまうことも充分に考えられます。
このようなテストの場合、どういう質問項目を並べるかということが、客観性を担保する上で大変に重要になってきますが、大学の社会史の教授や、政治ジャーナリストなどの協力を得て作成されているようです。ただし、欧米人を基準にしていますので、質問の意図自体が日本人にはピンとこないものもいくつかあります。
Political Compassの分布図は、従来の右翼・左翼だけではなく、権威主義・自由主義という物差しを加え、縦軸と横軸に配置するという方法をとっています。この点につき、Political Compassのサイト(英文)の説明を、infoseek翻訳を使って翻訳してみるとこうなります。
(Political Compassの)必要を立証すべき豊富な証拠があります。古い一次元カテゴリーの「右」「左」は、1789年のフランス下院の着席順に由来しています。それは今日の複雑な政治的風土にはあまりにも単純すぎます。例えば、「保守主義者」は今日のロシアで誰ですか。それは旧来のスターリン主義者ですか、それともサッチャーのような保守主義者の見解を採用した改革派ですか。
また、従来の左-右の物差しで、どのようにスターリンとガンジーのような左翼を識別しますか。単にスターリンの方がガンジーよりも左だと言うだけでは十分ではありません。彼らには、古い左右のカテゴリーでは説明することができない、基本的な政治上の違いがあります。同様に、私たちは一般に社会の反動主義者を「保守主義者」と評します。しかし、それでは、ホックから、ロバート・ムガベおよびポル・ポトのような革新派の反動主義者を残してしまいます。
この分布を作成するための質問項目には、性に関するものも多くあります。経済政策で左右が鋭く対立しているとも言いがたい欧米(特にアメリカ)では、このへんの同性愛や中絶などに対する態度が、リベラルと保守を分ける大きな違いになっているからでしょう。
しかし実は左翼を自認して外では経済政策などで「進歩的」なことを言っている男性が、一歩家に帰れば非常に「亭主関白」で、旧来の家族イデオロギーに縛られた超保守的な家族観の持ち主であるなんてことは珍しくなかったのです。また、「左翼」であるはずのスターリンは、レーニンがいったんは合法化(非犯罪化)した同性愛を、再び帝政時代と同じ非合法に戻したことが知られています。
だからこのへんの問題に、感情のままに答えていくことは、日本の私達(特に自分が進歩的だと思っている人にとって)自分という人間が、本当はどのあたりにいるかを客観的に知るには良いことだと思います。
このPolitical Compassの有用な使い方としては、各人が自分の社会における位置を知る上での目安に使うということ以外に、様々な階層や年齢の人々のPolitical Compassを大量にサンプリングして分布図を作り、社会学や政治学の研究に役立てるという使い方が考えられます。実際にサンプリング調査をおこなって論文を作成した方がおられるようです。英文のPDFですが、グラフも豊富ですので、興味のある方はこちらをご覧下さい。
日本でこういう調査をすれば、最近よく「社会が権威的・非寛容になってきている」なんて言い方が感覚ではなく、実証的なデーターとして確認されるかもしれません。TAMO2さんが「ある人の軌跡でこれを描くと、面白いかも知れませんね」とおっしゃっておられますが、興味ある特定の人でなくとも、ある国や地域の人々の政治傾向を、Political Compassで何年にも渡って追いかけていっても興味深い結果がでてくるかもしれませんね。
さて、一方で、前回のエントリー以降にいただいたコメントやトラックバックは、従来の「左右」の硬直した定義にとらわれないという点では共通しつつ、Political Compassのような動的で相対的な位置付けというよりは(誤解を恐れずに言えば)比較的静的な新しい定義を考察する中から、何らかの積極的な意義をくみ出そうとするものでした。ですから目的が全然違います。
私は「太陽に集いしもの」さんが提示された観点から、このPolitical Compassの方法論を見てみる、あるいはその逆を行なうことで、何らかの豊富化がなされるのではないかと考えてみたわけですが、この点、非常に未消化で思いつき的だったことを認めないわけにはいきません。
そこで次回のエントリーで私のテスト結果を公表し、それを通じて具体的なテストの内容を紹介したところで、Political Compassについての話題は終わりたいと思います。今後はここで得たヒントもふまえつつ、この問題については皆さんと同じ方向での考察を深めていきたいと考えています。
【つづく】
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