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あくる朝、兵隊のシモンはそれを聞いて、イワンのところへ出かけました。
「おい、お前はあの兵隊をどこからつれて来て、どこへつれて行ったんだ。」
とたずねました。
「それを聞いてどうするんだね。」
とイワンは言いました。
「どうするってお前、兵隊さえありゃ何でも出来るよ。国一つでも自分のものになる。」
イワンはびっくりしました。
「ほう? じゃ何だって早くそう言わなかったのだね。私はいくらでも好きなだけこさえることが出来たのに。まあよかった。妹とわしとでたくさん麦を打っといて。」
イワンは兄を納屋へつれて行って言いました。
「だがいいかね、わしが兵隊をこさえたらお前さんはすぐつれて行かなきゃいけないよ。兵隊をこっちで養うことになると、一日で村中食いつぶされてしまうからな。」
シモンは、その兵隊をみんなつれて行くことを約束しました。そこでイワンは、こさえにかかりました。イワンが一束の麦藁を麦打場へほうり出すと、ぽんと一隊の兵隊があらわれました。また一束ほうり出すと、別の一隊があらわれました。こうしてたくさん作ったので、畑中一ぱいになってしまいました。
「もういいかね。」
とイワンは聞きました。
シモンは大へん喜んで、
「いいとも、いいとも。イワンよ全くありがとう。」
と言いました。
「なあに。」
とイワンは言いました。
「もっと入るようなら、また来なさるがいい。今年は麦藁はたくさんあるし、いくらでもこさえてあげるから。」
兵隊のシモンは早速その兵隊を指揮をして、隊伍をととのえると、戦(いくさ)に出かけました。
兵隊のシモンが出かけてまもなく、肥満(ふとっちょ)のタラスがやって来ました。タラスは昨日のことを聞いたのです。タラスはイワンに、こう言いました。
「お前はどこから金貨を手に入れたのだね。資本(もとで)さえありゃ、おれは世界中の金(かね)をみんな手に入れることが出来るんだがな。」
イワンはおどろきました。そして言いました。
「そりゃ本当かね。なら、もっと早くわしに言ってくれればよかった。わしはお前さんの好きなだけこさえてあげることが出来たに。」
タラスは喜びました。
「じゃ、手桶に三ばいだけおくれ。」
「いいとも、いいとも。じゃ森の中へ来なさるがいい。いや、待ちなさい、いいことがある。馬をつれて行こう。とてもお前さんだけじゃ持って来られそうにもないからな。」
そこで二人は馬をつれて森へ行きました。イワンは樫の葉をもんで、たくさん金貨をこさえました。
「さあ、これでいいかね。」
タラスはすっかり喜びました。
「さしあたってそれだけありゃたくさんだ。イワンよ、ありがとう。」
とタラスは言いました。
「なあにまた入るときには来なさるがいい。葉っぱはどっさり残っているからな。」
とイワンは言いました。
タラスは馬車一台に金貨をつみ込んで、商売をしに出かけました。
こうして二人の兄は出て行きました。シモンは戦に、タラスは商売に。そして、シモンは一国を平げて自分のものにし、タラスは商売で、たくさんお金をもうけました。
ところで二人の兄弟は逢ったとき、どうして兵隊を手に入れたか、どうして金を手に入れたかを話し合いました。
兵隊のシモンはタラスにこう言いました。
「おれは国一つを平げて大へん立派な暮しをしている。がしかし、部下の兵隊に食わして行くだけの金がない。」
すると肥満(ふとっちょ)のタラスはこう言いました。
「おれはまた金はどっさりもうけたがそれを番するものがない。」
すると兵隊のシモンは言いました。
「じゃ二人でイワンのところへ行こうじゃないか。あれに言っておれはもっと兵隊をこさえさせて、それにお前のお金の番をさせる。またお前はもっとあれに金をこさえさせてもらってそれでおれの部下に食べさせればいい。」
そこで二人は、イワンのところへ行きました。
そして兵隊のシモンは、イワンにこう言いました。
「ねえイワン、おれのところには兵隊がもっとたりない。もう二三把(わ)分こさえておくれ。」
イワンは頭をふりました。
「いいや、わしはもう兵隊はこさえない。」
とイワンは言いました。
「でもお前はこさえてやると約束したじゃないか。」
「約束したのは知っているが、わしはもうこさえない。」
「なぜこさえない、馬鹿!」
「お前さんの兵隊は人殺しをした。わしがこの間道傍(みちばた)の畑で仕事をしていたら、一人の女が泣きながら棺桶を運んで行くのを見た。わしはだれが死んだかたずねてみた。するとその女は、シモンの兵隊がわしの主人を殺したのだと言った。わしは兵隊は唄を歌って楽隊をやるとばかり考えていた。だのにあいつらは人を殺した。もう一人だってこさえてはやらない。」
こう言っていつまでもがんばって、イワンは兵隊をこさえませんでした。
肥満(ふとっちょ)のタラスも、もっとお金をこしらえてくれとイワンにたのみました。しかしイワンは頭をふって、
「いいや、もうこさえない。」
と言いました。
「お前はこさえると約束したじゃないか。」
「そりゃした。だがもうこさえない。」
「なぜこさえない、馬鹿!」
「お前さんのお金がミカエルの娘の牝牛を奪って行ったからだ。」
「どうして。」
「ただ持って行ってしまったんだ。ミカエルの娘は牝牛を一匹もっていた。その家(うち)の子供たちはいつもその乳を飲んでいた。ところがこの間その子供たちがわしの家へやって来て、乳をくれと言った。で、わしは『お前んとの牝牛はどうしたんだ』とたずねた。すると『肥満のタラスの家の支配人がやって来て金貨を三枚出した。するとお母(っかあ)は牝牛をその男にくれてしまったので、おれたちの飲むものがなくなった。』と言った。わしはあの金貨を持って遊ぶんだとばかり考えていた。ところがお前さんはあの子供たちの牝牛を奪って行った。わしはもうお金をこさえてはやらない。」
イワンはこう言って、もう金をこさえようとはしませんでした。
それで兄たちは出て行きました。そして二人は道々どうしたらいいか相談しました。そのうちに兵隊のシモンがこう言いました。
「じゃ、こうしようじゃないか。お前はおれにおれの兵隊を養うだけ金をくれるんだ。するとおれはお前におれの国を半分と、お前の金を番するのにたるだけの兵隊をやる。」
タラスはすぐ承知しました。そこで二人は自分たちの持ち物を分けて二人とも王様になり、お金持になりました。
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