岸田新政権は「アベ‐スガ政権」の失政をどう総括するというのか

安倍・菅政権後継に岸田/自民党総裁選
自民党政権でアベースガ政治を克服できないのは当然だ

by 原 隆

 菅「安倍亜流」政権が急転直下退陣に追い込まれた。コロナ禍に開催を強行した東京五輪は政権浮揚につながらず、コロナ対策の失政が招いた代償といえる。国民の不安に向き合おうとしない独善的姿勢が支持率の低下に拍車をかけ、さらに苦し紛れの延命策が党内の反発を招き、窮した末に人心を失って政権を投げ出した。
 かかる「コロナ失政」こそが今回の首相交代の核心に迫る問題だったわけだが、4人が名乗りをあげた自民党総裁選では、後継に選ばれた岸田首相をはじめ、この肝心なことが不問に付されたまま終わった。

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自らの失政が招いた菅政権の退陣

アベースガ政治の継続を許すな(出典:ムキンポの忍者ブログ

 ふりかえれば退陣表明した菅は、「コロナ対策に専念するため」という誰も信じない欺瞞的な理由を挙げた。ルポライターの鎌田慧さんは「失政の責任を最後まで認めず、みっともない政権の末路をさらした」(9.4東京)と断じた。
 東京新聞は社説(9.4)で、「国民の信頼を失った首相は、もはやその職に恋々とすることは許されない。新型コロナウイルス感染拡大への不安など、国民の声と誠実に向き合おうとしなかった傲慢な政治の帰結でもある。<略>菅氏が首相退陣に追い込まれた最大要因は新型コロナ対策を巡る失政だろう。感染拡大を収束させる明確な道筋を示せず、対策が遅れ、迷走した」と批判。また朝日社説(9.10)も、強行された五輪が感染拡大をもたらし、「医療崩壊というべき現象を招いた政治の責任は極めて重い」と述べた。

 菅は「大会で日本選手のメダルラッシュが続けば、世の中の空気は一変し、政府のコロナ対策への不満や批判も和らぐ」(9.8毎日夕刊、与良正男)と高をくくっていた。だが五輪の余勢を駆って衆院解散―政権延命というシナリオはもろくも崩れ、退陣表明に追いこまれた。この1年、コロナ対策において飲食店や非正規労働者に犠牲を強いるばかりで医療体制の拡充を怠ってきた菅政権の「失政」は明らかである。

ネットで広まった菅首相の画像
官房長官時代から不安・異論・疑問を常に冷たく切り捨ててきた菅
■ この一年半いったい何をしていたのか?

 もはや感染拡大を抑えこめず医療体制のひっ迫を招いた菅政権の責任は免れまい。「問題なのは有効な対策を打ち出せず漫然と追加や延長を繰り返す政府の無責任さだ」と毎日社説(8.18)は批判している。
 コロナ禍への医療や公衆衛生上の対応は、政治の問題である。今こそ安倍・菅政権の「コロナ失政」のツケを押しつけられるのはもうたくさんだと怒りの声をあげる時だ。医療体制がひっ迫する中、「医療難民」が増え続け、自宅で死亡する人が相次ぐなど、救えるはずの命が救えない状況に陥った。これは医療技術の問題ではない。政治の問題、失政が招いた惨禍だ。

 国(政府)と東京都は8月、共同で都内の全医療機関に病床確保を要請した。「えっ」?コロナ禍に見舞われたこの1年半、医療・検査体制の拡充が喫緊の課題であったにもかかわらず、今頃になって?一体これまで何をしてきたのか。無策のツケを飲食店などに(営業時間の短縮や酒類提供の自粛という形で)押しつけてきただけではないのか。これは明らかな「失政」なのである。

コロナ禍で五輪強行の愚

リオ五輪閉会式・アベマリオ
自己の任期中開催にこだわった安倍(リオ五輪閉会式)

 新型コロナウイルスの感染が拡大する最中に強行開催された東京五輪は、政治と五輪の暗部をまざまざと見せつけた。まさに「五輪を国威発揚に結びつけることを当然と考える国が増え…ナショナリズムの容認が五輪の商業主義や巨大イベント化を支えてきた」(7.24毎日「余録」)と言える。

 東京五輪の閉幕に際しての各紙の社説を通して、コロナ禍にもかかわらず強行開催された東京五輪の愚を記憶として後世にとどめておくこととしたい。

 5月に社説で今夏の東京五輪の開催中止を求めた朝日は、「東京五輪が終わった。新型コロナが世界で猛威をふるい、人々の生命が危機に瀕するなかで強行され、観客の声援も、選手・関係者と市民との交流も封じられるという、過去に例を見ない大会だった。
 この『平和の祭典』が社会に突きつけたものは何か。明らかになった多くのごまかしや飾りをはぎ取った後に何が残り、そこにどんな意義と未来を見いだすことができるのか。<略>安倍前政権から続く数々のコロナ失政、そして今回の五輪の強行開催によって、社会には深い不信と分断が刻まれた。その修復は政治が取り組むべき最大の課題である」(8.9)と論じた。

No Olympics
開催反対の世論に苛立ち女性差別発言で本性を晒した森

 毎日は同じく社説(8.9)で「五輪を運営する側はひずみを露呈させた。IOCはコロナ下での五輪に対する国民の不安をよそに開催へと突き進んだ。IOCの財政は、米放送局の巨額放映権料と世界的スポンサーの協賛金に依存している。ビジネスを優先して、選手の健康や国民の安全が軽視された点は否めない。<略>
 IOCだけでなく、政府や東京都も開催ありきの姿勢を貫いた。『安全・安心』を繰り返すだけで開催の意義を語らず、政権浮揚に五輪を利用しようとするかのような姿勢が国民の反発を招いた。大会組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言や開会式演出担当者の過去の言動など、関係者も差別的な体質が次々と表面化した。『多様性と調和』という大会ビジョンは見せかけに過ぎないと多くの人の目には映ったはずだ。五輪の暗部が白日の下にさらされ、『開催する意義は何なのか』という根源的な問いが人々に投げ掛けられた」と東京五輪の問題点をあぶり出した。

 安倍・菅政権が五輪開催にこだわったのは、国威発揚と政権浮揚への政治的思惑からだ。本気で感染拡大を抑えることを目指すのなら、五輪は当然中止すべきだった。
開催するからには感染拡大は覚悟の上であったのだろう。それを「安全・安心」などとごまかし取り繕おうとしたから信頼を失墜させ人心を失って退陣に追い込まれたのである。独善と傲慢の政治が招いた誤算と言える。五輪強行の愚で「コロナ失政」を隠し人々を欺くことはできなかった。

不問に付される安倍・菅政権のコロナ失政

最大の争点であるコロナ失政を一切不問に付した自民党総裁選
最大の争点である安倍・菅政権のコロナ失政を一切不問に付した自民党総裁選

 自民党の総裁が代わったからといって、それまでの「安倍・菅政権」の2代続いた「失政」が不問に付されるわけにはいかない。新型コロナウイルス対策を巡って、朝日は社説(9.23)で「なぜ見通しを誤ったのか。どこに間違いがあり、繰り返さぬために今後どうするのか。当然行われるべき説明は今もなされていない。専門家の意見をつまみ食いし、迷走の末に政権運営に行き詰まった姿は、約1年前の安倍前首相とも重なる」と批判。

 また東京新聞社説(9.18)は、自民党総裁選に関して「国民を長く蔑ろにした『安倍・菅政治』をどう総括するのか、各候補は明らかにすべきである。…異なる意見には耳を貸さず、国会では『数の力』で押し通す独善的な政治を続けた。…その結果、国民の間で政治不信が募り、議会制民主主義の危機との指摘まで出る状況を招いた。菅氏の退陣表明は『安倍・菅政治』の行き詰まりを示すものにほかならない」と述べた。

 これで安倍・菅の2代続けて、世論の不信に追い詰められた挙句の政権投げ出しである。コロナ禍で「医療難民」が増えている中、政治不信を増幅させた「コロナ失政」の責任は極めて重い。総裁選の茶番劇に欺かれてはならない。コロナ禍は日本だけにとどまらず、人々の生命と生活を危機にさらしてきた資本主義社会の歪(いびつ)さをさらけ出した。今や世界中で格差・不平等への怒りが人々をデモに駆り立てている。

原 隆

呼びかけ】10.10 新宿ACTION・デモへ

コロナ下の差別・分断・ヘイトを許すな!ACTION(第5弾)
命を脅かし、生活を破壊する政治と小池都政にNOを叩きつけろ!
10.10新宿ACTION

 2011年9月23日、差別・排外主義に反対する連絡会(2010年結成)呼びかけによる最初の新宿デモが闘われました。以来10年、職安通りをメインにしたデモを呼びかけ、多くの皆さんとの連帯・共闘を進めてきました。特に昨年の緊急事態宣言以降は、「コロナ禍の差別・分断・ヘイトを許さない」と、街ACTIONを継続しています。
 この間、東京五輪の強行で、感染はさらに拡大する一方、卑劣な差別事案も次々に噴出し、命と人権を踏みにじる国―都のやり方に、怒りと憤りが高まっています。連絡会は、「有事」の日常化のなかで進行する、差別扇動、弾圧と分断を許さない闘いとして、10月10日に新宿デモを広く呼びかけるものです。

日時:10月10日(日曜)14時集合  15時 デモ出発
場所:JR新宿駅東口:アルタ前広場

★ 終わってないぞ!東京五輪の後始末
★ 白日にさらせ!差別者・レイシストどもの実態を!
★まっぴらごめんだ!自助と自己責任の悪循環
★でしゃばるな警察・検察! 有事下の弾圧に反撃を!
★あきらめるな!街へ出よう!声を上げよう! 抗おう!

主催:差別・排外主義に反対する連絡会
http://hansabetsu.html.xdomain.jp/

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原 隆souka
北海道生まれ。釧路湖陵高校卒。74年大阪芸術大学入学。第二次ブントに加わり、共産同蜂起派に参加。大学中退後は、山谷、沖縄、パレスチナ等の連帯活動やNO‐VOX(声なき者のネットワーク)の社会運動に取り組む。琉球空手歴30年来の武道家(師範)でもある。著書に『反逆の序曲 蜂起する民主主義』『21世紀世界は変えられる!』(社会評論社)など