[人物の話]多喜二フォーエバー!

投稿者:中野 由紀子

by 中野由紀子

 2008年度文化庁芸術祭のテレビ部門で芸術大賞を受賞したHBC北海道放送制作のヒューマンドキュメンタリー「いのちの記憶~小林多喜二 二十九年の人生~」を見た。

「いのちの記憶―小林多喜二・二十九年の人生―」DVD 冒頭3分間
「母」 小林多喜二の母の物語

 内容は、『作家・小林多喜二が生きた時代を、映像や資料を基に綿密に考察し、彼をとりまく家族や友人、多喜二が心を寄せた女性たちの生き様を描くドキュメンタリー番組。三浦綾子原作の「母」の芝居を縦糸として進行する』というものだった。

小林多喜二は、1924年10月、経済的な理由で身を売っていた酌婦の田口タキと出会う。

私は自分を卑下する田口タキに宛てた手紙に感動した。

1925年3月2日 田口瀧子宛

「闇があるから光がある」

そして闇から出てきた人こそ、一番ほんとうに光の有難さが分るんだ。世の中は幸福ばかりで満ちているものではないんだ。不幸というのが片方にあるから、幸福ってものがある。そこを忘れないでくれ。だから、俺たちが本当にいい生活をしようと思うなら、うんと苦しいことを味ってみなければならない。

瀧ちゃん達はイヤな生活をしている。然し、それでも決して将来の明るい生活を目当にすることを忘れないようにねえ。そして苦しいこともその為めだ、と我慢をしてくれ。

僕は学校を出てからまだ二年にしかならない、だから金も別にない。瀧ちゃんを一日も早く出してやりたいと思っても、ただそれは思うだけのことでしかないんだ。これはこの前の晩お話しした通りだ。然し僕は本当にこの強い愛をもっている。安心してくれ。頼りないことだけれども、何時かこの愛で完全に瀧ちゃんを救ってみせる。瀧ちゃんも悲しいこと、苦しいことがあったら、その度に僕のこの愛のことを思って、我慢し、苦しみ、悲しみに打ち勝ってくれ。

(中略)瀧ちゃんの境遇が境遇だから、イヤなことを我慢しなければならないだろうけれども、魂だけは売るな、それは僕があの晩ちゃんと瀧ちゃんから預っていた筈だからだ。いいかい、しっかりしてくれ。

(中略)瀧ちゃんの借金は幾らあるんだ、僕としては勿論出来るだけのことはしたいが、残念にも金がないんだ、それでも何かその返金に努力したい、知らしてくれ。

最後に、決して悲観したり、失望したりするな、俺たち二人の聞の愛を信じていよう、いくら力弱く、はかないように見えるとしてもだ。

無茶に酒を飲んで身体をこわさないように。若し苦しくなって、酒でもグングン飲みたくなったら、僕のことを想って、少し我慢すること、いいかい約束するよ。

それからナデナデさんの苦しい気持も考えてやり、なぐさめてやってくれ。僕が本当にナデナデさんの気持を救ってやりたい、と思っていると、云ってくれ。お互苦しい生活だ、慰めあって行ってくれ。おばあさんも、年がとっているというので、心がまがる、それも無理がない、そこを又考えてやって、仲よくして、なぐさめてやってくれること。

ではさようなら、返事を待っている。
(私の最も愛している瀧ちゃんへ)

小林多喜二全集第7巻 「書簡」より 1925年3月2日田口瀧子宛

は~……
こんな手紙が欲しい!!(違うか)

多喜二のどこまでも優しい心が伝わる。それでも、自分のこの愛は本物の愛情か偽善かと悩んだらしい。弱いもの、虐げられているものに対しては本当に優しく、横暴な権力や強くてズルいものには容赦ない人だったらしい。
なんで殺されなければならなかったのか。隠れるように生活しないとならなかったのか。そのときに虐殺した側の人間はなぜ罪にならなかったのか。

まあ、もちろん時代とか法律とか生かしといたらまずいとか?いろいろわかるんだけど、素朴に単純にあらためて血が上りますな。あの遺体にある身体じゅうのあざや腫れを見るにつけ。

小林多喜二虐殺

番組の中で多喜二の研究をしてる先生が言ってたけど、国民の愛国心を煽るには戦争をするのが一番なわけで、この理論をどうやって壊していくかが大事だと。今もいろんなとこで弾圧が起きてますが、やっぱり黙っていたらダメだということだ。

ところで、今年のメーデーはもう、あらゆる垣根を全部とっぱらって、老若男女みんなでものすごいのにしないとって思ったりするんだけどどうでしょう。

最後に多喜二のお母さんの言葉を少し。

「母」 小林多喜二の母の物語

「私は小説をかくことが、あんなにおっかないことだとはおもってもみなかった。あの多喜二が小説書いて殺されるなんて、、、、」「わたしはねえ、なんぼしてもわからんことがあった。多喜二がどれほどの極悪人だからと言って、捕らえていきなり竹刀で殴ったり、千枚通しでももだば(ふとももを)めったやたらに刺し通して、殺していいもんだべか。警察は裁判にもかけないでいきなり殺してもいいもんだべか。これがどうにもわかんない」
(三浦綾子 著「母」角川文庫より)

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