普段はこういう話題はブログじゃなくて日記のほうに書くのですが、本年最後の投稿なので、少し軽めの話題を選んで本年を締めようと思います。
●そういえば新井素子
ある方が、「涼宮ハルヒの憂鬱」(小説)を初めて読んで面白かったという記事を書いておられました。その文章中に「昔新井素子のSFを読んだ時を思い出した」という一節があり、大変に懐かしかったです。
私はデビュー作の「あたしの中の…」の初版本を持っています。高校時代に本が出ると同時にすぐに買いにいったから普通に初版だった。扉に収録されている新井さんの写真が若い!まあ、デビュー当時、素子さんはまだ高校生でしたから、若くて当たり前ですけど。
素子さんはデビュー作の初版にプレミアのつくような「大作家」としての路線は歩まなかったけど、SF的な設定の世界観の中で、等身大の「女の子」の心情が素直に語られているのが魅力であります。こう書くと、今となっては少女漫画などで「ありがち」の作風に思えるでしょうが、当時はわりとそういう路線は斬新だったし、実は今でもそれに成功して長く残る作品を書ける人は少ないと思う。多くは読み捨てられていく。
私は少女小説(今は「ライトノベル」って言うのか?)は好きではないけど、素子さんの「星へ行く船シリーズ」だけは読んでいました。ですがやはり、少女向けでない「グリーン・レクイエム」とかの普通のSF作品のほうが好きです。その続編の「緑幻想」とか、「くますけと一緒に」は素直にお気にいりです。順番に読んでいくと、作者本人が歳をとるにつれて、だんだんと登場人物やそのセリフに厚みが出てくるのも、同年代の人間として興味深かったです。「緑幻想」を読んだ時は、可愛らしい作品ばかり書いていたのが、いつの間にかすごい作家になったなと思いました。
●あまり評価されなかったデビュー当時
ところで、彼女のデビューのきっかけとなった、SF雑誌『奇想天外』の新人賞では、星新一さんが「あたしの中の…」を絶賛、筒井康隆さんと小松左京さんがそれに疑義をとなえるという形で、結局は佳作どまりになったことは有名です。もし星さんが選考委員にいなかったら、佳作にも残らず、素子さんはデビューもできなかったかもしれない。少なくともかなり遅れていたことは確かです。あるいは他の選考委員のアドバイス通り、無理に作風を変えようとしてつぶれていたかも。
選考経過を振り返る座談会で、筒井さんは星さんに対して「そうなっても(=マンガみたいな文体の小説ばかりになっても)星さんは困らないんですか。つまり、SFがそういう作者の出やすいところでしょう。我々が踏んばらなきゃいけないんじゃないかという気もするんだけど。地の文まで崩したのを許していいのかどうか」なんて言ってます。気持ちはすごくよくわかるし、その後のライトノベル全盛を考えればまことに慧眼としか思えない発言ですが、なんだか筒井さんが直木賞から落とされた経過を思い出してしまいますね。
実は左翼界隈ではむしろ小松さんや筒井さんみたいな感性の人が主流でした。映画で言えば「やっぱりATGとキネマ旬報だぜ」みたいな。とりわけ当時は小説でも映画でも、角川商法が席巻していた時代で、左派の間ではそれへの反発が強かったので、なおさらそうでした。だから、新井素子なんか愛読している僕みたいなのはちょっとおかしかった。まあ、僕も角川商法は嫌いでしたけど。
●ライトノベル?
さて、高校時代に「あたしの中の…」を読んだ時には、素直に「すごい」と思いました。同年代の女の子が書いた小説でもあり、「あたしの中の…」だけなら、まだ「自分にもアイデアがあれば書けるかもしれない」くらいに思いました。それだけ普通の高校生の口語体で書かれていたわけですね。そういう意味では筒井さんや小松さんの評価もわかります。しかし、同時収録の「大きな壁の中と外」 とあわせて読むと、もう絶対に、この娘の才能には逆立ちしてもかなわないと思いました。「あたしの中の…」だけでそれを見抜いた星さんはすごい。
ただ、素子さんの作品にはそう思えたけれども、今の「ライトノベル」全盛には反感が先立ちます。ありゃー、小説というより完全に「商品」に純化しているよね。うちにも娘がいるから、そういう本を私も読んでみたりします。感想としては、別にこういう分野があってもかまわないし、少女たちの間でベストセラーになってもいいと思う。ただ、大人の鑑賞には堪え得ないし、やっぱり「文学賞」はあげられないなと思う。10年後、20年後に彼女たちが大人になった時、このレベルが「ライトノベル」ではなくて、普通の小説になってたら、やっぱり嫌だ。
上記の選考経過の座談会の中で小松左京さんが「いかに御都合主義を御都合主義に見せないかというところに腕のみせどころがあるんじゃないかと思うんだけど、この文体ではどうも」と言っておられる気持ちも、今となってはよくわかります。それだけ歳をとったのかな(笑)。
そういう素子さんも私と同年代ですから、デビュー当時は高校生でしたが今はもう40代なのかな。
ちなみに今は埴谷雄高の「死霊」、漫画では「のだめカンタービレ」を読んでいます。これを読み終わったら、「涼宮ハルヒの憂鬱」も読んでみよう。
それではみなさま、よいお年を!
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へぇー。小松氏や筒井氏が新井素子デビュー時に批判的だったんですね。おふたりともジュヴナイルも書いているし、80年代中頃には評価していたと思うので意外でした。
ところで、ようやく結衣ちゃんの好感度が百を越えました。新年早々縁起がいいです。
まつき様>
完全に遅レスですが・・・。
そうなんですよ。昔はわりと有名なエピソードだったんですけどね。確かに受賞作を今読み返して見ても、なんとなく「アイデアさえあれば一発屋的に自分でも書けるかも」と思えます。その後の活躍を知っているからそうは思えないだけで。星新一がどうしてこの作品だけでそこまで見抜けたかのほうがすごいかも。
結衣ちゃんとはどこまでいけましたか?これからもよろしくお願いします。
>結衣ちゃんとはどこまでいけましたか
つい2,3時間前に出てきた革マル派の子があまりにもかわいかったんで浮気してしまいました。結衣ちゃん。ゴメン。
もし生まれ変わったら、またあなたに会いたいです。
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